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韓国の海運業界が崩壊の危機に!最大手の破綻で国際物流はマヒ なぜこんな事態に?

産経新聞 9月18日(日)11時15分配信

 韓国の海運業界が崩壊の危機にひんしている。同国最大手の韓進海運が8月末に経営破綻したためだ。あおりで国際物流は大きく混乱し、韓国の輸出にも悪影響が及ぶ懸念は強い。韓国内では日中の船に頼らなければ「貿易立国・韓国」も立ち行かなくなりかねないとの嘆き節も聞かれ始めている。

 ■70隻以上が幽霊船に

 9月11日現在、韓進海運が保有するコンテナ船97隻のうち70隻以上が世界各地の海上で幽霊船のように漂っている。荷役費、燃料費などが支払えず、入港を拒否されているためだ。韓国メディアは、積み荷の総額は約140億ドル(約1兆4000億円)に上り、これらの荷降ろしには計千数百億ウォンかかると伝えている。

 韓進海運を抱える財閥、韓進グループの趙亮鎬会長は私費で400億ウォン(約37億円)の拠出を表明。グループ中核の大韓航空も韓進海運の資産を担保に600億ウォンを拠出する方針を示したが、社外役員から「大韓航空の株主の利益を侵害し、背任に当たる恐れがある」と指摘され、実際に拠出できるかどうかはわからない状況という。

 「貨物が届かない」-。朝鮮日報によると、米ニューヨークのプラザホテルで7日に開かれた米金融大手ゴールドマン・サックスの年次会議「流通業カンファレンス」では、韓進海運の破綻による国際物流の混乱に対して参加企業からこんな悲鳴が上がった。

 米国では11月の最終金曜日に最大のショッピングセール「ブラックフライデー」を控える。このままでは韓国や中国から輸送されるはずだった衣類や玩具がセールに間に合わなくなる恐れは大きい。

 米電子機器メーカーのヒューレットパッカード(HP)の関係者は「韓進海運の船舶にコンテナ500個以上の貨物を積んでいるが、ロサンゼルスの港などに入れない状態だ」として「このままでは市場シェアまで急落してしまう」と嘆いたという。

 昨年、韓進海運が取り扱った約460万TEU(1TEUは20フィートコンテナ1個分)のうち韓国の貨物は10.7%にすぎず、残りは中国や米国、日本など外国の貨物だ。それだけに、物流の混乱による被害は世界規模で拡大している。

 中央日報は12日の社説で「緻密な善後策もないまま韓進海運を経営破綻させ、混乱を収拾できない政府の無能さを世界にさらしている」と批判した。

 ■オーナー家のミス

 韓進海運が日本の会社更生法の適用に当たる「法定管理」をソウル中央地裁に申請したのは8月31日。ロイター通信によると、昨年末の負債額は5兆6000億ウォン(約5200億円)に上ったという。

 韓進海運は4月、政府系の韓国産業銀行(KDB)などでつくる債権団による「共同管理」を申請し、経営再建を進めてきた。だが、債権団は8月30日に、共同管理を9月4日の期限から延長しない方針を決定。経営再建には1兆ウォン超の資金が必要とされるが、韓進海運が示す資金負担額が債権団の要求に満たず、これ以上の支援は困難と判断した。

 フランスの調査会社の統計などでは、韓進海運はコンテナの積載能力で世界7位。その歩みは韓国海運業の歴史と重なる。

 中央日報などによると、同社は1977年に韓進グループ創業者の故趙重勲氏が国内初のコンテナ専用船会社として設立した。当時、航空業を軌道に乗せた趙氏は朴正煕大統領の勧めで海運業に参入。陸・海・空にわたる総合物流企業を目指した。

 韓進海運は78年に中東航路、79年に北米西岸航路を開設し、世界的な海運会社に成長。92年に売上高が1兆ウォンを超え、欧州、中国などにも航路を広げた。

 だが、世界的な海運不況が直撃し、2011年12月期に最終赤字に転落。その後、保有資産の売却などで業績は一時的に持ち直したものの、新興国経済の減速で荷動きが鈍って運賃が低迷し、再び経営危機に陥った。

 「オーナー家の経営判断のミス」。同社の破綻については、こんな見方も多い。

 財務改善のため保有船舶を売却して用船会社からのチャーターに切り替えたが、最終的に高すぎる用船料が経営の大きな重荷となったからだ。

 ■釜山港の地位低下も

 韓進海運の破綻で生じた海運市場の空白を突く動きが出てきている。

 朝鮮日報によると、海運世界最大手のデンマーク企業、マースクは8日、中国・上海、韓国・釜山、米国・ロサンゼルスを結ぶ新路線を15日から運航すると発表。同社関係者は「(韓進海運の法定管理で)船舶確保に問題が生じ、解決を求める荷主の問い合わせが増えた」と説明した。

 同2位のスイスMSCも15日、中国~釜山~カナダ路線の運航を始めた。価格競争力を備えた海外の巨大海運会社が相次いで釜山港に進出し、韓進海運の取り扱い貨物を根こそぎ持っていこうとしている形だ。

 韓国内では「韓進海運だけでなく、現代商船など韓国の海運各社の存立基盤が揺らぐ。韓国海運業の崩壊懸念が現実となった」と危ぶむ声も浮上している。

 海外の海運会社による攻勢は釜山港の競争力を低下させるとの見方もある。韓進海運はこれまで中国、日本、東南アジアなどから小型貨物船で運んだ積み替え貨物を釜山港に集め、大型貨物船に移して米国に運んでいた。しかし、海外の海運会社は釜山港を利用せず、上海港などをハブ港湾とする可能性が大きい。

 韓進海運は2015年に韓国の貿易量の約7%を扱っており、破綻が韓国の貿易の障害となることへの警戒感も強まっている。

 韓国海洋水産開発院の梁昌虎院長は中央日報のインタビューに「1年半後からは国内輸出入業者は船を外国に依存しなければいけない」とし「韓進海運が消えれば日本や中国に高い運賃を支払うことになるだろう」と指摘した。

 韓進海運の破綻は世界の海運市場の勢力図を大きく塗り替えるのは間違いない。(本田誠)

最終更新:9月18日(日)12時46分

産経新聞