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マルクス・レームの義足が、東京に突きつけたもの

日刊スポーツ 9月18日(日)18時16分配信

 リオデジャネイロ・パラリンピックの男子走り幅跳び(切断などT44)でマルクス・レーム(ドイツ)が、8メートル21の大会新記録で連覇を達成した。リオ五輪の金メダル記録8メートル38には17センチ届かなかったが、義足のアスリートが健常者と互角に競える時代がきたことを印象づけた。

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 レームは14歳の時にウエークボード練習中の事故で右ひざ下を切断した。20歳で義足をつけて陸上に挑戦し、12年ロンドン・パラリンピックを7メートル35で制した。復活物語が騒がしくなるのはその後。彼は驚異的なスピードで記録を伸ばし、14年のドイツ選手権で健常者を抑えて8メートル24で優勝したのだ。そこから周囲の視線はレームではなく、カーボン繊維でできた義足に向けられるようになった。

 昨年10月の世界選手権で8メートル40の世界記録をマークして、12年ロンドン五輪の優勝記録を9センチも上回った。彼の努力と競技力への称賛は、いつしか「テクニカル(道具)・ドーピング」という声に変わった。リオ五輪の参加標準記録8メートル15をクリアしていた彼は五輪出場を熱望した。だが、国際陸連は「義足が有利に働いていないことの証明」を条件につけた。結局、レームは五輪を断念した。

 確かにカーボン繊維製の義足は反発力がある。跳躍に有利なのは選手たちも認めている。一方で助走の加速が健常者より劣るハンディもある。レームは7メートル95センチがベスト記録だった13年から義足を変えていない。昨年の世界選手権では同じ義足で跳躍した2位の選手に1メートル14センチの大差をつけている。もっと彼自身の努力や技術が注目されてもよかった。一連の騒動の根底に「障がい者が健常者より跳べるはずがない」という先入観を感じた。

 もっとも平等の条件で競うのがスポーツの原則。パラリンピックでも障害の程度で細かくクラス分けされている。国際陸連が義足で跳ぶアスリートの五輪参加に慎重になるのも当然だろう。ただ、だからと言って排除ありきではなく、順位に関係ない「オープン参加」という形で出場させる選択肢もあったはずだ。パラリンピックの競技レベルの高さを世界にアピールする最高の機会になったと思う。

 数年前まで義足の選手が五輪の記録をおびかすなど、想像もできなかった。テクノロジーは私たちの予想をはるかに超えたスピードで進歩し、スポーツ界にも浸透している。人間の能力と科学の力をどう折り合いをつけるのか。レームの騒動は私たちに実にやっかいな難題を突きつけた。五輪とパラリンピックの間の問題だけではない。例えば、反発力のある人工靱帯(じんたい)や、可動域の広い人工関節が開発されたら、どう判断するのか。そんな時代は遅からずやってくる。

 リオで連覇を達成したレームは「夢は五輪に出ること」と明言した。今回の五輪出場は断念したが、「義足が有利に働いていないことの証明」の結論が先送りされただけだ。20年東京五輪でパラリンピアン出場の議論が再燃することは間違いない。難しい選択を迫られる。唯一確実なことは、パラリンピアンの記録が今よりずっと伸びているということだ。【五輪・パラリンピック準備委員 首藤正徳】

最終更新:9月18日(日)19時23分

日刊スポーツ

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