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行列のできる東京・有楽町駅前の靴磨き職人 仕上げは「料理するように」

朝日新聞デジタル 9月18日(日)9時10分配信

【十手十色】

 たとえて言うなら、ビーフジャーキーがステーキになるような。靴磨き職人の千葉尊(みこと)さんは、自身の靴磨きをそう表現する。「おいしく見えるように仕上げる、という考え方が非常に大切なんです」。汚れを落とすことだけを考えているうちは、いい手入れができない。靴用クリームは調味料、道具類は食器だとイメージすると質の高い磨きができるようになるんだ、と。
 千葉さんの靴磨きは、革靴にはタブーとされている水拭きから始まる。ほこりを取り、適度に湿らせて革を軟らかくしてから、古い靴墨を溶かして抜き出す。そこに人さし指と中指を使ってクリームを力いっぱい押し込んでいく。最初は下仕上げ用の軟らかいクリームを。次に少量ずつ重ねて厚みを出す硬いクリーム。そして最後に乾いたクリームの凹凸を滑らかにするためにもう一度、軟らかいクリームを塗る。仕上げだけで3種類あるクリームはすべて手作りだ。
 レシピは企業秘密だけれど、クリームに触れている千葉さんの手が意外なほどふっくら柔らかいのがヒントになる。「冬場は特に、自作のお肌専用クリームをゴム手袋に入れて潤すようにしています。ちょっと教えると、お酢やヨーグルトなんかを混ぜて作るんです。荒れるから薬剤は使わない。靴のクリームも当然、食べ物を使っています」。革はもともと動物の皮膚だから、美容クリームなどに含まれる成分も混ぜている。なるほど、このスペシャルな調味料なら、靴だってふっくらツヤツヤ、「おいしそう」にも仕上がりそうだ。

経験生かし41歳で靴磨き職人に

 「書き物ができるわけでもないし、学歴も財産も名声もない」。そんな自分に何ができるか思い悩んでいた41歳の時、靴磨きと出合った。それまで転々としてきた農業や電気工事士、材木業、溶接工、製缶工、とび職はいずれも服が泥だらけになることが多く、汚れを取るのはお手の物。必要な道具を自分で作ることもできたから、靴磨きにはそれまでの仕事のすべてが生かせると思った。
 既成のクリームではダメだと感じたのは、商売を始めて3日たった時。それから9カ月かけて市販のクリームに足りないものを調査し、独自のクリームを作り上げた。付けた名前は「NHKスペシャル」から発想して「千葉スペシャル」。「歴史的な出来事がいっぱい出る番組じゃない? だから千葉スペシャルも歴史に残そうって思ってね。もう歴史になっていると思いますよ。だってほかの人にはマネできないから」

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最終更新:9月18日(日)9時10分

朝日新聞デジタル