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直木賞・荻原浩さん、へそ曲がりプラスに「期待裏切る作品書きたい」

埼玉新聞 9/18(日) 10:30配信

 軽妙なジョークで場を沸かせ、イラストの腕前はプロ並み。「海の見える理髪店」(集英社)で第155回直木賞を受賞した埼玉県の旧大宮市(さいたま市大宮区)出身の作家、荻原浩さん(60)。現在の心境や埼玉での思い出について聞くと、スマートな印象と相反する「へそ曲がり」の顔が見えてきた。そして直木賞作家が語った東京には絶対にない「埼玉」の魅力とはー。

 「海の見える~」は母娘、夫婦など切ない家族のつながりを描いた六つの短編が収められた小説集。7月の賞決定後、取材やサイン会など忙しい2カ月を過ごした荻原さんは「作品をだいぶ前に書き終えているので、(受賞は)すでに思い出のような感じ。へそ曲がりなので、ものすごく喜ぶのはまずいと感じる自分がいる」と語る。直木賞といえば、日本で一番有名な文学賞。それをうれしがらないとは…。荻原さんは埼玉でどのような少年時代を過ごしたのか。

■漫画家の夢

 現在の大宮区天沼町で生まれた荻原さん。少年時代は両親、3人兄弟、祖母の6人家族。当時は新興住宅地で、自宅の裏手には田んぼが広がり、友達と三角ベースやザリガニ釣りをして遊ぶ「普通の子ども」だったという。意外にも作文より絵が得意で、絵画コンクールで学校代表に選ばれたことも。とはいえ「本を読まなくても感想文をさっと書いてしまう」スマートな才能の持ち主だった。ちなみに荻原さんは県立大宮高校、成城大を卒業しているが、真面目に受験勉強をしたことがないそうだ。「(世間を)なめた子どもだったんです」

 夢は漫画家で、友達と一緒に漫画を描いていた。大宮南小の同級生からは「絵がうまい」との声が寄せられている。腕前は健在で、サインにはイラストをつけることが多い。

■強い独立心

 中学の時はフレドリック・ブラウンのような外国のSFやミステリー、高校・大学時代は夢野久作(代表作は「ドグラ・マグラ」)などの小説を好み、日本の文豪作品は「ほとんど読んだことがない」と、一風変わった読書歴を持つ。

 さらに加えれば、関東人なのに阪神タイガースの大ファン。荻原さんは性格を形づくったのは家族構成だと言い切る。「男3人兄弟の次男で、本当は寂しいのに放任されたせいで独立心が強い。へそ曲がりになったのはそのせい」と分析。世間で評価されるものを疑問視する性格は、小説を書く上でプラスになっているという。

■ミスマッチの魅力

 20代半ばから都内在住。故郷・埼玉の魅力について聞くと、「身内だから無邪気に褒められない」と悩みつつ、見沼田んぼから見るさいたま新都心の風景を挙げた。広がる水田、畑の向こうに浮かび上がるビル群。荻原さんは「東京では絶対に見られない、田んぼとビルのミスマッチ」とうれしそうに話した。褒めているような、けなしているような、「へそ曲がり」らしい愛情表現だ。

 すでに受賞後、第1作目となるイチゴ農家を描いた長編小説「ストロベリーライフ」が今月23日に発売予定。荻原さんは「今まで通り書き続けようと思う。『海の見える~』で僕の作品を初めて手に取った読者がいたら、その期待をいい意味で裏切る作品を書きたい」と前を向いた。

■おぎわら・ひろし

 県立大宮高校、成城大卒業。広告制作会社に勤務し、35歳でフリーのコピーライターに。39歳で小説を書き始め、「オロロ畑でつかまえて」が第10回小説すばる新人賞を受賞し、41歳で作家デビュー。笑いと涙のユーモア小説に定評があるが、SF、シリアス、ファンタジーと幅広い分野の小説を書く。「海の見える理髪店」は「温かい感情と切ない人生をかみしめさせる作品」と選考委員から評価された。

最終更新:9/18(日) 10:30

埼玉新聞