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<年金資産>5兆円の運用損GPIFの非透明性問題

毎日新聞 9月19日(月)9時10分配信

 公的年金の積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が今年4~6月期に5兆円の運用損失を発生させたことが話題になりました。大切な老後資金の原資とあって、広く国民の関心を集めています。金融ジャーナリストの浪川攻さんは、短期の運用結果より、GPIFの組織や運用に関わる「非透明性」が問題だと指摘します。

【GPIF保有の銘柄上位】

 ◇株式の運用比率を高めたGPIF

 GPIFによる積立金運用が注目されるようになったのは、従来、国債などの安全資産が大半を占めていた資産配分を見直し、株式の運用比率を高めるようになったからだ。2014年10月に株式の運用比率は2倍に拡大された。ところが、今年の4~6月期に株式相場が大きく下落し、5兆円の運用損失が生じたという話である。

 損失と言っても、あくまでも保有資産の評価損だ。さらにいえば、年金資産運用は長期運用であり、3カ月という短期的な動きでは運用の巧拙を判断できない。しかし、「5兆円の損失」という言葉の衝撃度は大きく、「大変なことになった」という騒がれ方になってしまったのである。

 そもそも、株式運用の拡大は政府の決定であり、まず批判されるべきはGPIFというより政府だろう。ただ、今のGPIFに何ら問題点はないのかといえば、残念ながら答えは「大あり」なのである。

 ◇透明性を欠くGPIFの組織

 第一に、国民の年金資産を管理・運用するという、きわめて重要な役割を担う組織であるにもかかわらず、その責任ある立場の人選プロセスが一般には分からないのだ。

 例えば、トップであるGPIFの理事長に求められる資質や条件が明確ではない。どのように人選されたのか、経過も開示されていない。

 現在の理事長である高橋則広氏の人事は、今年3月22日の閣議で了承され、4月1日付で同氏は理事長に就任した。高橋氏は農林中金で金融を専門に担当し、専務理事を務めた経歴がある。

 断っておくが、高橋氏の理事長就任が妥当であるかどうかを論じているわけではない。おそらく、高橋氏は見識豊かな人物であると思う。しかし。人選はどういう基準で行われ、どういう議論がなされて閣議で了承されたのかが不明なのだ。

 これは、経済協力開発機構(OECD)がかつて指摘した問題点だ。OECDはリポート「GPIFのガバナンス及び資産運用方針改善案」のなかでこう記している。

 「GPIFの理事長の任命に関しては、特定の規定は存在しない。理事長には経済・金融業務の経験を有することが求められているが、他の役員に関して何らかの関連基準があるかどうか不明である。任命プロセスは透明性を欠いており、解任基準・プロセスも同様である」

 理事長だけでなく、理事を含めたGPIFの役員についても同様だ。日銀の審議委員には国会での同意が必要だが、GPIFの役員にはこうした手続きはないのだ。

 ◇GPIF自身のガバナンスこそ問題

 GPIFは株式の保有拡大と同時に、保有する株式の発行企業に対するコーポレートガバナンス(企業統治)機能を発揮していく姿勢を明確にしてきている。すなわち取締役会による経営監視機能が役割を果たしているか、情報開示の透明性はどうかを問うというものである。

 このGPIFの姿勢を批判するつもりはない。だが、GPIF自身のガバナンスはどうなっているのかという疑問が当然湧いてくる。

 透明性を欠くのは役員選任だけではない。年金の運用面でも同じことが言える。GPIFは定期的に資産運用の委託先を変更している。しかし、その選定プロセスについても「明確な開示がない」と有力運用会社は指摘する。

 GPIFは資産運用委託先の運用会社に対して、「フィデューシャリー・デューティー(受託者責任原則)」を徹底する方針のようだ。これは、運用会社は、資産を預けた側の利益最大化に努め、利益に反する行動は取ってはならないという原則である。

 GPIFこそ、国民に負っている「受託者責任」を徹底する必要がある。そのために、まずは自らの組織、運用の透明性を確保する必要があるのではないか。

最終更新:9月19日(月)12時55分

毎日新聞