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【被災地を歩く】水産加工業の復興に影 漁獲量は回復も人手不足に苦慮

産経新聞 9月19日(月)7時55分配信

 最新鋭の食品加工ラインが宝の持ち腐れになっている。

 宮城県気仙沼市の水産加工業「阿部長商店」は3月、新工場を建てた。2階のラインは出番がなく、休眠状態が続く。

 理由は人手不足だ。40人規模で募集をかけたが、半分の約20人しか確保できなかった。隣の80人規模の加工場も従業員充足率が100%に満たず、フル稼働できない。

 時給は800円台後半に設定した。東日本大震災前の水準より100円アップさせている。短期アルバイトは1千円と奮発。それでも十分に集まらない。

 ◆震災前の6割未満

 震災被災地の水産加工業が求人難に四苦八苦している。

 ハローワーク気仙沼によると、管内(気仙沼市、南三陸町)の水産加工業の7月の有効求人倍率は4・84倍。過去最高に匹敵する。4人以上の求人を出して1人確保できるかどうか、のレベルだ。

 従業員の主力は地元の40~60代の女性。震災で住まいを内陸に移し、職場の加工場から遠のいたことが響いた。震災による人口減も一因になっている。

 求人難は水産業全体の復興に影を落とす。

 県内主要港の平成26年の水揚げ量は25万8102トンで震災前(22年)の8割に回復した。一方、県内の水産加工品の生産量は23万221トンで震災前の6割に満たない。「入り口」は震災前の水準に手の届くところまできたが、「出口」がボトルネックとなり、全体の業績が伸び悩む。

 県内の水産加工品の生産量は震災前、北海道に次ぎ全国2位だった。現在は千葉県に抜かれて3位に甘んじている。

 ◆外国人労働者に活路

 業界と行政は従業員を地元の人だけで満たすのは限界があるとして、外国人労働者の確保に活路を求め始めた。

 宮城県は岩手県と共同で、外国人技能実習生の受け入れ枠を広げる構造改革特区を申請し、従業員50人以下の小規模事業所に限って現行の3人から6人に増やす認定を受けた。県内の水産加工業者でつくる県水産物流通対策協議会は今月、事業所規模にかかわらず受け入れ枠の拡大と実習期間の延長を求める要望書を国に出した。

 阿部長商店も実習生制度を生かし、インドネシアから毎年15人ずつ受け入れている。地元以外の国内にも人材供給源を求め、ハローワークに加え、大手就職仲介会社にも求人広告を出す。若者を確保する目的で個室の従業員寮も整えた。

 ◆「柔軟な発想で」

 同社は震災を機に、業態を鮮魚や冷凍品の原料供給から、本格的な加工に転換した。製品の付加価値を高めて利幅を上げ、震災前の水準を上回る売り上げを確保した。先端設備の導入で生産能力もアップし、人手不足をカバーしている。

 輸出にも本腰を入れる。青森、岩手、宮城3県の同業者6社と新会社を設立し、「三陸ブランド」の名で加工品を東南アジアに輸出する。商社を通さず現地業者と直接取引し、利益率を上げる。

 阿部泰浩社長(52)は「これまでは豊富な水揚げ量と労働力に支えられてきたが、業界を取り巻く環境は震災で一変した。柔軟な発想で臨まないと、生き残れない」と話している。 

最終更新:9月19日(月)7時55分

産経新聞