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坊主バー、カクテルの名は「愛欲地獄」「極楽浄土」…僧侶が語り始めた「人生」とは?

産経新聞 9月19日(月)15時25分配信

 お酒を飲みながら、お坊さんに人生相談できる。現役の僧侶が経営する、「坊主バー」が人気だ。いったいどんな人たちが店に足を運んでいるのか。そして、お坊さんたちは、どんな思いで、接客しているのだろうか。東京・四谷の坊主バーに行ってみた。(油原聡子)

 ■大きな仏壇、壁には曼荼羅…

 地下鉄丸ノ内線四谷三丁目駅で降りて徒歩5分。かつて花街として隆盛した荒木町の一角に、坊主バーがある。階段を上がり、木製のドアを開けると、そこは線香の香りが漂う不思議な空間だった。

 壁には曼荼羅が飾られ、奥には大きな仏壇。お線香の香りがする。店舗は約30平方メートルほど、カウンターとテーブル席で最大25席だという。

 店長の藤岡善信さん(39)は「お寺に若い人が来なくなるなか、仏教を伝える場として営業しています」と話す。藤岡さん自身は浄土真宗本願寺派の僧侶で、戒律でお酒は禁じられていないという。スタッフは全員が僧侶。さまざまな宗派の人たちが働き、作務衣(さむえ)姿でお酒を作ってくれる様子は、なんとも不思議だ。

 「お寺らしさ」は随所に現れている。まずは、飲み物のメニュー。「愛欲地獄」「無間地獄」と名付けられたカクテルなどが掲載されている。一番人気の「極楽浄土」を頼んでみると、赤、黄、緑、青が層になっていて、見た目は鮮やか。ほど良い甘さで飲みやすい。味というより、見た目のカラフルさが極楽浄土を表現しているのだろうか。極楽とはこんなイメージなのだろうか…と考える。フードメニューは白菜の浅漬けやお麩のしぐれ煮など。すべて、肉や魚を使っていない精進料理だという。おみくじや、占いもある。

 平成12年にオープンし、当初は、団塊世代の男性の利用が多かったというが、メディアなどに取り上げられたことで、徐々に20~30代の若者が増えていった。女性の利用が多いという。スタッフに声をかければ、その場で悩み相談に応じてもらえる。藤岡店長は「転職したいというお話から、不倫、人間関係までいろいろな相談が寄せられます」と話す。

 お坊さんの人生相談はどんな感じなのだろうか。試しに、「仕事が多くて多くてつらいです」と藤岡さんに問い掛けてみたところ、「仕事の多さは役目があるということ。それをどう受け止めるのか。また、自分の欲があるから仕事が多くなっている場合もありますよ」とのこと。自分の欲とは、人の目を気にして、仕事を受け入れている自分がいないのか、ということもあるという。さらに「縁があって仕事をしている。乗り越えるのか、何を学ぶのかは本人次第。ただ、我慢しすぎもまた、いけません」と藤岡さん。

 ■それは突然、お店の中で…

 坊主バーのメーンともいえるのが、1日2回行われる、説法タイム。僧侶がお経を上げた後、説法をしてくれる。

 この日は、開店から1時間ほどたった、午後8時過ぎ。突如、僧侶が仏壇の前でお経を唱え始めた。「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」。店内にお経が響き渡る。驚いたことに、カウンターに座っていた男性が、一緒になってお経を唱え始めた。かと思うと、テーブル席の男性らは、お経が流れているのに楽しげに話している。

 「この坊主バーは夜のお寺。ちょっとお話をさせていただこうと思います…」

 10分ほどしてお経が終わり、僧侶の説法が始まると、客はみんなまじめに話を聞き始めた。お経はBGMのような感覚で聞き流せるけれど、人の話はきちんと聞く、ということなのだろうか。

■がん患者から女子大生まで…

 この日の客層は女性が8割。「写真撮ろう~」と言って、仏壇を背景にスマートフォンで自撮りしているのは女子大生の3人グループ。「インターネットで検索して、おもしろそうだったから来ました」と言う。

 3年ほど前から、月に1度は来ているという常連の30代の女性は「ほかのバーより年齢層が高いし、女性も多いので安心して飲める」と言う。

 端の方に静かに飲んでいる女性に声を掛けた。40代だというこの女性、実は末期がんだという。「今は薬を休んでいるから、お酒が飲めるんです」。もともと仏像などが好きだというが、坊主バーの良さを尋ねると、「私に一線を引かないでくれるところ」。末期がんだと分かると、たいていの人は言葉に詰まり、「そうなんだ…大変だね」と引いてしまうというが、ここではスタッフの僧侶たちが、淡々と受け入れてくれるという。

 開店1時間ほどで、ほぼ満席という賑わいぶり。好奇心で来る人から、癒やしを求めて来る人まで。坊主バーは、多くの人の心のよりどころとなっているようだ。

最終更新:9月19日(月)15時25分

産経新聞