ここから本文です

【インタビュー】妻夫木聡×綾野剛 同棲生活から別れまで――共鳴する2人が伝える“体温”

cinemacafe.net 9/20(火) 20:30配信

「一緒に暮らしてみようか…?」――。どちらともなくそう言い出し、その場で一緒に物件を探し始めた。愛し合う2人のプロポーズのエピソード…ではなく、役作りの話である。いや「愛し合っていた」のはまぎれもない事実だ。

【画像】ゲイカップルを好演した妻夫木聡&綾野剛

映画『怒り』において、ゲイのカップルを演じた妻夫木聡と綾野剛。なぜそこまでするのか? なぜそれが可能だったのか? 私生活までも互いにさらけ出し、彼らは何を得て、何を作品にもたらしたのか? この愛おしい時間について、2人にゆっくりと、じっくりと話を聞いた。

残虐な夫婦惨殺事件から1年。犯人は顔を変えて逃亡を続けていた。同時期に東京、千葉、沖縄に、犯人の特徴を備えた、3人の素性の知れない男たちが現れる。彼らと親しくなった土地の者たちは、その存在を受け入れつつも、事件を知り、自分のそばにいる男が殺人犯なのではないかと疑いを深めていく…。3人の中に犯人はいるのか? 信頼と不信の間で苦しむ者たちの選択は?

妻夫木さんと綾野さんが出演しているのは東京を舞台にしたエピソード。妻夫木さんは大手企業に勤める青年・優馬を、綾野さんは彼と知り合い、素性を明かさないままに優馬のマンションに転がり込み、同居生活を始める謎めいた青年・直人を演じている。

意外にも、妻夫木さんと綾野さんは今回が初共演。同世代の共通の友人も多く、以前に数回、顔を合わせる機会はあったが、じっくりと言葉を交わしたのは本作が初めてだった。妻夫木さんは、相手役である直人を綾野さんが演じると聞いて「ホッとした」という。

「その時点で剛のことよくを知らないし、これからいっぱい知っていけるという喜びのようなものがありました」。

単に俳優・綾野剛と共演できるという喜びという意味ではない。見ず知らずの関係から出会い、愛情を育んでいく優馬と直人の関係を作り上げる上で、ほぼ初対面に近い綾野さんが相手役であるというのがプラスになると感じたのだ。

「これが(以前からよく知っている)小栗旬や瑛太だったら…それはそれで、安心できる部分はあったかもしれないけど。ただ、優馬と直人は、出会ってから幸せに過ごすまでがすごく短い期間の中でギュッとつまってるんですよね。その感じは、もともと、仲の良い関係じゃない方がいいと思ったし、剛が相手で助けられた部分だと思います」。

綾野さんは、妻夫木さんが優馬役と知り、喜びに打ち震えた。

「年上の俳優の中でも、ダントツで好きな俳優でしたので、まずはご一緒できることに喜びを感じました。僕の中では“安心感”なんてものはとうに超えていて、僕自身の中からいろんなものを引き出してもらえるんじゃないかという思いもありました。若い頃から(作品を)観てたので『実在してるんだ』という感覚。ちゃんと向き合うってことに関しては自信はありましたが『ついていけるのかな? 足を引っ張らないようにしなきゃ…』という思いもありました。でも、それも一瞬ですね。お会いして、そういう不安は全て吹き飛びました」。

では、この短い期間でどのように関係性を築いていったのか? 妻夫木さんは「いっぱい喋るとか、コミュニケーションをとるってことじゃないんだろうな、とは思ってました」と語る。実生活での“同棲”を決めたのは、撮影が始まって数日後。映画の中で、優馬と直人はハッテン場のサウナで出会ってすぐに肉体関係となり、それから一緒にラーメン屋で食事をし、そこで優馬が「行くとこないならウチに来るか?」と声をかけて同居を始める。妻夫木さんは、同棲に至る経緯をこう明かす。

「最初から(同居することを)決めてたわけじゃないけど、2人とも同じことを考えてたんですよね。それでどちらともなく『じゃあ、そうしようか』と。その3日後くらいにラーメン屋のシーンが控えていたので、それまでに入れるところということで、部屋を探したんです。できれば、キッチンとかも揃っているところがよくて、ウィークリーマンションなんかを当たったんですけど、(入居希望日が)近すぎて契約できなくて、結局、ホテルに落ち着いたんです。お互いの本当の家じゃ、もともとの“匂い”があるので、それも違うだろうし…」。

綾野さんはその言葉にうなずき、続ける。

「映画のストーリーに沿うなら、妻夫木さんの家がセオリーだけど、それじゃ優馬の家じゃないから、妻夫木さんがキツイんですよ。互いに一から作っていけるところが良かったんです」。

映画では、幸せな同棲生活を送っていたはずの優馬と直人だったが、ある日突然、直人は優馬の前からいなくなってしまう。妻夫木さんと綾野さんの同棲生活でも、綾野さんは物語に忠実に、何も告げずに妻夫木さんの前から消えた――。まずは妻夫木さんの証言。

「ホテルを選んで一番良かったと思ったのは、(ホテルスタッフが)ベッドメイキングをしてくれるということ。剛も本当に突然、いなくなっちゃったんだけど、次の朝を迎えても、隣りのベッドはベッドメイキングされたきれいなままの状態なんです。いつもそこで寝てるはずの直人だけがいなくて…。それを見たらもう寂しくて仕方ない(苦笑)! おれが監督だったら、そのベッドを撮るなぁってくらい、きれいないいベッドメイキングでした(笑)」。

一方、綾野さんは綾野さんで、いつ、どのタイミングでホテルの部屋を後にするのかを考え抜いて、実行に移したという。

「撮影は完全な順撮りってわけじゃなかったんですが、もう次の日の撮影で、直人はいないというシーンがあって、『今日の内にいなくならないと』と考えてました。それまでほぼ毎日、2人で外で同じものを食べて、一緒にホテルに帰ってきてたんですけど、その日、一緒に帰ってきてエレベーターで『あ、コンビに行くけど何かいる?』って声をかけて『いや、大丈夫』、『わかった。じゃあ行ってくるね』『気を付けてね』というやり取りがあって、そのまま外に出て、いなくなりました」。

まさにそれ自体が映画の1ページのようである。妻夫木さんが「シャワーを浴びながら、だんだん帰って来ないんじゃないかって気がしてきて、『あぁ、やっぱり』と思った」と言えば、綾野さんはニヤリと笑みを浮かべ「この話はしてなかったけど…」と前置きし、こんなエピソードを明かしてくれた。

「ホテルを出てタクシーを捕まえて…ああいうとき、ドラマとかではすぐに乗り込むんじゃなく、部屋の方を見たりするじゃないですか? 演出家も俳優もその瞬間を残そうとして。そういうの、うさんくさいと思ってましたけど、実際、やてしまった。『ごめんね』と思いながら、部屋の明かりをちらりと見て、タクシーに乗り込みました」。

なぜそこまでの役作りをするのか? そう問いかけたくなるが、2人とも、こうしたアプローチを自然な流れと捉えている。もちろん、頻繁に起こることでない。だが、妻夫木聡と綾野剛という、不思議と共鳴し合う2人がこうして出会ったからには、そうなることは当然の帰結であったと感じている。「この映画の中の2人も出会っちゃったわけで、それと同じ。おれらも出会っちゃった…それでいいんじゃない? という気がしてます」と妻夫木さん。そこには当然、相手が綾野さんだったからという思いが含まれている。

「一緒に暮らしてるときも役名で呼び合ってたけど、じゃあ、そのときのパーソナリティは役柄かというとそうじゃない。そこは、うまく説明できないけど、相手によるものだなと思います。じゃあ、もし渡辺謙さんと親子役を演じることになっても、『普段から“お父さん”と呼ばせてください』って言えるかというと『もしかしたら、こいつめんどくさいって思われるんじゃないか?』とか考えちゃう。剛とはそんなこと、考えずにいられたんです、お互いに。それは奇跡的かもしれないけど、それだけのことなんですよ」。

綾野さんは「それで何が変わったかですか? 言葉にはできないけど、確実に体温が変わった」とふり返る。

「相手の寝息を聞いて、朝になって『直人、そろそろだよ』と起こされて、『ただいま』とか『お帰り』と言葉を交わす。この東京編は、すごく普遍的なんですよね。僕らは性的マイノリティではあるけど、嫉妬したり、不安になったり、抱きしめ合って肌の隙間を埋めたり…。だから、そういう日常的なことが大きかったと思うんです」。

もうひとつ、インタビューを通じて、2人の口からたびたび出てきたのが「同じ方向を向いている」「同じ目線で見ている」という言葉。妻夫木さんは「そもそも、会ったときから“距離感を縮める”という意識はなかった」と述懐する。互いに向き合い、歩み寄るのではなく、横に寄り添うという意識。

「リハーサルでも李(相日監督)さんは、いつものように『違う!違う!』ってばかり言うんだけど(笑)、お互い、その『違う』に対してどうしていくのか? そこで向いている姿勢、方向が一緒だった」。

綾野さんは、映画の中でも2人が真正面から向き合うカットはほとんどなく、ラーメン屋で食べているシーンから、ほぼ一貫して横に並び、直人は優馬の「横顔ばかりを見ていた」と指摘する。

「何が重要って、同じ景色を一緒に見るという展望なんですよね。マイノリティは子どもを産むことができないから、未来に命をつないでいくことができない。でも、2人で同じものを見る行為に幸せを感じている。優馬が見ているものを、一緒に見よう――気づいたら、そういう気持ちになってました。僕が見たいのは、優馬の横顔と、彼が見ているその先の景色だったんですね」。

狂おしいほどの愛おしさを感じながら歩み続けた2人。彼らの視線の先に広がる運命をスクリーンで見届けてほしい。

最終更新:9/20(火) 20:30

cinemacafe.net