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日銀の緩和効果を強くするためには財政赤字が必要

ZUU online 9/20(火) 11:40配信

現在、完全雇用を実現しているにもかかわらず、財政赤字が残っていることが問題である、という指摘がされることが多い。経済学に詳しい人ほど納得してしまう論であるが、経済厚生の最大化の障害になっているようだ。

■失業率水準と財政赤字の存在が2つの疑問

一つの疑問は、完全雇用を示す失業率の水準が分からず、どの水準を物価の安定と見るのかによって可変であることである。3.5%が完全雇用といわれてきたが、既に3.0%まで低下している。物価の安定を1%程度とみれば、3.5%前後であるというのも理解できるが、政府・日銀の目標である2%程度まで加速を許せば、2.5%前後になると考えられる。現在、財やサービスを求めた行列が、多くみられるわけでもなく、限界は3.0%よりかなり下にあると考えられる。

政府が更なる経済状況の改善を目指し、大規模な経済対策を実施するのは理に適っている。

もう一つの疑問は、完全雇用で財政赤字がなくなることが、経済にとって最適ではないということである。

管理通貨制度の下で、中央銀行は国債などを資産とすることにより、負債であるマネーを供給する。財政赤字がなくなれば、新規国債発行は無くなり、中央銀行は経済成長率に見合った量しか、マネーが供給できないと考えられる。マネーには、取引手段に加え、富の蓄積手段としての需要があるため、その量ではマネー不足が、経済活動を阻害することになってしまう。

結果として、物価停滞が実質金利を上昇させ、景気は悪化し、失業率は完全雇用の水準にはとどまれず、上昇していくことになろう。

■財政赤字は必要、より良いプロジェクトか減税か

完全雇用でも、ある程度の財政赤字が存在することにより、取引手段に加え富の蓄積手段としての需要を、まかなえるほどのマネーが供給され、完全雇用でとどまることができると考えられる。そのコストは、物価が2%程度上昇してしまうことだが、それこそ政府・日銀が目標としていることである。

現在の失業率の状況では、経済厚生の最大化のためにはまだ財政赤字が必要であり、よいプロジェクトに対して財政支出を増やせば、経済状況を好転させることができるだろう。よいプロジェクトが見つからないのであれば、減税を行うべきだろう。

企業部門が貯蓄超過である中、その貯蓄超過を上回る財政拡大によりネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、マイナスが強い、マネーを膨らませる源であり、アベノミクスのデフレ完全脱却への推進力)を生み出し、それを間接的にマネタイズする日銀の金融緩和の効果も強くなり、総需要とマネーが拡大し、インフレ期待を持ち上げる必要があった。

実際には、消費税率引き上げを含む緊縮財政などにより、ネットの資金重要を逆に消滅させてしまった。日銀の金融緩和の効果は失われ、ポリシーミックスが機能せず、総需要は停滞し、インフレ期待が後退してしまったのは、明らかなように思われる。

今回の日銀の金融緩和の局面で、ネットの資金需要は大きい時でも、GDP対比3%程度であるのに対して、日銀のマネタリーベースの増加幅は16%程度に達する。金融緩和の効果を限定しているのは日銀の量ではなく、ネットの資金需要の量、即ち財政支出であると言える。

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■日銀の金融感は効果は今後増す

9月21日の金融政策決定会合では、資産買い入れプログラムは柔軟化されるだろうが、金融緩和としての量の効果と持続性には、限界が近づいてきているため、次に金融緩和が必要となる局面となれば、マイナス金利の深堀りが主軸になることを日銀は説明すると考えられる。

これまでの政策の総括では、黒田日銀総裁が講演で指摘した、原油価格下落、消費税率引き上げを含む緊縮財政、グローバルな不安定感が、早期に2%の物価上昇が実現しなかった原因として挙げられるだろう。

一方、過去とは違い現在は、原油価格が持ち直してきていることに加え、政府は財政政策を引き締めから緩和に転じ、グローバルな景気・マーケット動向もG20などで合意した、各国の総合的な政策対応などにより徐々に安定し、ネットの資金需要は復活してくると考えられる。

原油価格下落、緊縮財政、グローバルな不安定感という早期に2%の物価上昇が実現しなかった原因について、今後のこれらの方向感は逆になるとみられる。

日銀の金融緩和の効果は今後は増していき、2%の物価上昇の実現性も増していくと判断されるだろう。

■日米共に上昇の強さより、底打ちの形に

内閣支持率は上昇しており、日銀への政治的な緩和圧力は弱く、9月下旬に召集される臨時国会で、消費税率引上げ延期法案、経済対策の補正予算案、TPP関連法案の議論を順調に進めるため、マイナス金利政策を含めたアベノミクスの副作用を、野党から批判されるのを政府は好まないだろう。

日銀がマーケットとのコミュニケーションを重視し始めたのであれば、これまでの政策を総括し、それをマーケットが咀嚼する前、そしてマイナス金利政策の副作用の有無が、確認できる日銀短観の貸出態度DIが10月3日に公表される前に、いきなり次の行動に出ることはないはずである。そう判断されれば、9月の金融政策決定会合での総括が、マイナス金利の深彫りなどの追加金融緩和に、直接的につながる可能性は小さいと考える。

一方、2%の物価目標が日銀の金融政策のみで、2年という早期に実現できるものではないことが、様々な原因の分析で総括されることになろう。

デフレ完全脱却を目指し、財政政策、成長戦略と構造改革による、企業活動の活性化で生み出したネットの資金需要を、ポリシーミックスとしての日銀の金融緩和の継続で、間接的にマネタイズしてサポートするというスタンスに、転換すると考えられる。

よって、2%の物価目標は早期に「2年」という期限を設けたものではなく、できるだけ早期の実現を目指しながらも、政府との協働で中長期的に目指すものとされるだろう。

黒田総裁が、量、質、金利の三次元以外のアイデアも議論の俎上から外すべきではないと述べていることを考えると、政府との協働をより強調するため、物価に名目GDP成長率を加えたハイブリッド目標とし、期待インフレ率と期待成長率の上昇によりイールドカーブをスティープ化させる可能性もあると考える。

10月31日・11月1日の金融政策決定会合で日銀は展望レポートを見直すが、追加金融緩和が行われるかは、その時の景気・物価動向次第となる。

日本も米国も経済指標には上昇の強さはないが底打ちの形になってきていること、そして政府の経済対策と7月の日銀のETF買い入れ増額による株価の下支えの効果が出てくることを考えると、追加金融緩和を日銀が必要と判断するような状況にはならないと今のところ考える。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:9/20(火) 11:40

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