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それでも「カップヌードル謎肉祭」販売休止を「品薄商法」だと疑ってしまう理由

ITmedia ビジネスオンライン 9/20(火) 8:08配信

 発売前からSNSで話題を集めていた「カップヌードルビッグ "謎肉祭" 肉盛りペッパーしょうゆ」に「品薄商法」の疑いがかけられている。

【謎肉が10倍入っている「謎肉祭」を見る】

 ダイスミンチが通常の10倍入った「謎肉祭」は9月12日に発売したが、直後の15日に販売休止が発表された。日清食品(以下、日清)の説明によると、見積もっていた1カ月分の在庫がわずか3日で底をついたという。ところが、SNSに『近所のコンビニで山積みなんだけどなぁ』と実際に店内に「謎肉祭」が山積みの写真を投稿する方などがちょこちょこ現われ、「品薄商法では」という指摘をする人も出てきたのだ。

 ただ、世の大多数は、こういう見方に否定的だ。

 小売店というのは、売れ行きを随時チェックして、「これは在庫がなくなりそうだ」ということになれば追加注文をする。一方、メーカー側の「販売休止」はあくまで「注文を受けても出荷できません」という流通へのアナウンス的な意味合いが強い。つまり、メーカーの在庫が底をついても、店頭には山積みという状況はまったくおかしくないからだ。

 これに加えて、「品薄商法」疑惑が否定される最大の理由は、メーカーにメリットがないということが大きい。

 瞬間風速的に話題をつくることができても、そこで小売に「売れる品を提供できない」という大きな機会損失を与えてしまう。流通が圧倒的に強い立場にある日本の市場で、メーカーが自身の信用を地に堕とすようなリスキーな戦略をとるわけがないというわけだ。

 こういう常識的なものの見方をすれば、今回の疑惑もSNSが生み出した「風説」や「デマ」の類だと結論づけられる。

 ただ、それを踏まえた上でもなお、「謎肉祭」の販売休止には「謎」が多い。過去、メーカー側の供給が間に合わず、「品薄商法」の疑いをかけられた商品と比較して、明らかに異なる売り方をしているからだ。

●目標の立て方が「不自然」

 まず、「謎肉」というワードだ。

 そもそも、この言葉は「2ちゃんねる」などでダイスミンチのことを「謎の肉」「ぞぬ肉」などと呼ばれていたことに由来するもので、2015年4月、カップヌードルが刷新される際、日清側も使い始めた。ネットスラングに完全に乗っかったのである。

 マクドナルドが「ピンクスライム・チキンナゲット」などという新商品を売り出さないように、普通の大企業はこういう自虐ネタをしない。当然、インパクトは絶大で、『日経新聞』の見出しになるほどだった。

 『カップヌードル、6年ぶり「謎肉」復活で若者開拓』(日本経済新聞 2015年4月29日)

 そのような「謎肉」推しは今年に入ってからも続き、7月27日には、カップヌードルの公式アカウントに「謎肉」がつめられていると思しきコンビーフのような缶を開けている画像を公開。これは1カ月で1万7511リツイートと、1万3172の「いいね!」を得て、公式アカウント開設以来最高の反応になったという。

 なにが言いたいのかというと、この「謎肉」という言葉を日清は1年半前から、かなりの力を注いでプロモーションをしてきたということを申し上げたいのだ。

 これは過去、「品薄商法」の疑いをかけられた商品とは大きく異なる。確かに、サントリー食品インターナショナルの「レモンジーナ」や「ヨーグリーナ」、ハーゲンダッツの「ミニカップ 華もち」シリーズも発売前にSNSでプロモーションに力を入れていたが、その期間はわずか1~2カ月に過ぎない。だからこそ、この短い時間内での反響が、果たしてネットだけのものなのか、現実の注文数に結びつくものなのか、判断に迷って初期出荷数を見誤ってしまったのである。

 しかし、「謎肉」は違う。1年半前から仕掛けたプロモーションである以上、この人気が本物かどうかを見極めるだけの時間も、材料も、十分にあったのだ。

 そう言うと、「いやいや、確かに自分たちで煽りに煽ってきたものの、その予想を超えるほどSNSの反響があったんでしょ」と思う人もいるだろう。

 ネットの需要予測は多くメーカーも頭を悩ましているので、日清といえそういう部分もあるのかもしれない。しかし、プロモーションの丁寧さと比較しても、目標の立て方があまりにも粗いというか、甘すぎて、どうにも不自然さが否めない部分もあるのだ。

●「謎肉祭」は見通しが立てやすい!?

 日清はJ-CASTニュースの取材に対して、「実数は控えさせていただきたいのですが、『謎肉祭』は通常のカップヌードルビッグの月間販売数量の1.5倍を用意していました」と答えている。

 そう聞くと、「あの定番商品の1.5倍でもダメならしょうがない」と納得するかもしれないが、最新の日経POS情報・売れ筋商品ランキングを見ても、「カップヌードルビッグ」は20位圏内にも入っていない。これが1年半をかけた「謎肉」プロモーションや、SNSでの大盛り上がりに見合う計画だったのかというと、どうしても首を傾げてしまう。

 実際に日清はこの4月、「謎肉祭」と比べてはるかに予測が難しい新商品を、在庫切れを引き起こすことなく「ヒット商品」として成功させている。

 それは、すっぽんとフカヒレという高級食材を用いた「カップヌードルリッチ」だ。

 「ああ、矢口真里のCM中止騒動後にバカ売れして炎上商法疑惑がでたやつね」と記憶に新しい方も多いかもしれないが、実はこの商品は、日清にとってかなりの挑戦だった。

 NHKニュースで、『国内トップシェアのカップめん 45年で初の高価格商品 高級食材を使用』(2016年3月28日)なんて取り上げられたことからも分かるように、『量を変えずに味にこだわって価格を引き上げた高価格帯の商品は、今回が初』だったからだ。

 では、どれだけ価格を引き上げたのかというと「50円」。消費者の感覚では「それっぽっち?」と拍子抜けするが、小売業者からすればこの50円はかなりでかい。「そんな高いカップヌードル、本当に売れるの?」と懐疑的な声もかなりあがっていたほどだ。

 だが、ふたを開ければ、発売1カ月で600万食突破。矢口騒動もあってネットニュースやSNSで話題が拡散し、当初の販売計画を大きく上回ったのだ。

 口で言うと簡単に聞こえるが、これはかなり難しい。『土の味がする』と発売前からネットで話題になった「レモンジーナ」のように、斬新な味、斬新なコンセプトの新商品というのは、販売予測が立てずらい。事実、日清でも過去に供給が間にあわず販売休止になっているのは、2014年の「トムヤムクンヌードル」や、2010年の「カップヌードルごはん」のように新たな価値を提示する新商品だ。

 いや、「謎肉」だって十分斬新じゃないか、という声が聞こえてきそうだが、冷静に考えると、ダイスミンチが10倍になっているだけで、価格も通常の「カップヌードルビッグ」と同じ205円(税別)。つまり、「謎肉祭」という商品名はかなり斬新だが、実態としては定番商品をベースとした「お値段据え置き増量商品」に過ぎない。これは裏を返せば、「不確定」な要素が圧倒的に少なく、見通しが立てやすい商品ということでもある。

●飢餓感を刺激し、購買意欲を引き出す作戦か!?

 「カップヌードルリッチ」という45年の歴史で初という挑戦的な高価格商品は、在庫を切らすことなくきっちりと世に送り出し続ける予測が立てられるのに、さほど斬新でもなく、かなり前から圧倒的支持も確認できている「増量商品」の予測は大ハズレ。わずか半年の間にまるで「別人」のようになってしまっていることが、なんとも不可解なのだ。

 さらに、「謎肉祭」が他の「品薄商法」疑惑商品と決定的に違う点がもうひとつある。

 「レモンジーナ」「ヨーグリーナ」「トムヤムクンヌードル」などこれまで「品薄商法」の疑いをかけられた商品というのは、「カップヌードルリッチ」のように、ブランドの新しい可能性を広げて新たな市場を生み出すといういわば、「戦略商品」だ。

 しかし、「謎肉祭」は違う。商品プレスリリースにも、『パッケージデザインも記念商品らしいお祭り感を演出し、この "謎肉祭" を盛り上げます』とあるように、「カップヌードル45周年」という金看板を背負って世に送り出された「記念商品」である。だからこそ、1年半前から入念に「謎肉」という言葉が煽られてきたのだ。

 45周年という節目の年を盛り上げようとするときに、「同じ価格のカップヌードルビッグの1.5倍程度見積もっておけばいいか」なんてしょっぱいことを、あの日清がやるだろうか。誰がみても炎上間違いなしの矢口真里さんを確信犯的にCMに起用するほど「攻めの企業」が、そんな「守り」の計画を立てるだろうか。

 この「記念商品」の販売休止という、これまでとやや色合いの違う現象を見て、まず頭に浮かんだのは、化粧品業界の「限定商品」である。

 女性の方はお分かりになるだろうが、10年ほど前から、化粧品ブランドはことあるごとにリップやマスカラの「限定色」「限定商品」を出している。その理由を、日経MJが以下のように分析している。

 『化粧品業界で「限定品戦争」がぼっ発している。狙いは新規顧客の獲得だ。話題性が高く今しか買えない商品で飢餓感を刺激し、購買意欲を引き出す作戦だ』(日経MJ 2002年4月4日)

 つまり、売れるはずなのに数量を絞ることで、「ブランド」の価値を釣り上げているのだ。これが、妙に今の日清と重なる。

●購買欲を刺激するために、数を絞る

 日清が5月に発表した決算説明会資料によると、「100年ブランドカンパニーに向けた挑戦」として、「既存のブランド価値の極大化」を目指すとしている。では、具体的にどうするのかというと、45周年を迎えた「カップヌードル」、40周年を迎えた「どん兵衛」と「焼そばU.F.O.」などの「Anniversary Yearの活用」を挙げているのだ。

 もしも自分が会社から「カップヌードル45周年という節目の年にブランドの価値をあげてくれ」と言われたらどうするか。まず思いつくのは「話題性が高く今しか買えない」という45周年を記念した限定商品だ。確実にファンが欲しがるものを世に出しながらも、さらなる購買欲を刺激するため、数を絞る。

 「品薄商法」は日本の食品業界では「リスクが高すぎてありえない」というのが常識だが、ブランドを生み出す人たちの間では、確実に効果を生み出し、価値を高める方法として、「王道の戦い方」として常識となっている。

 例えば、スイスの高級腕時計オーデマピゲやスウォッチグループを経て、LVMH(エルヴェエムアッシュ モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループの世界的高級腕時計ウブロ社のCEOに就任した、ジャン・クロード・ビバーさんは2009年の「日経フォーラム世界経営者会議」でさらっとこんなことをおっしゃっている。

 『高級品市場では希少性も必要。"品切れ"の演出だ。ウブロは年間の販売数量を最初から決める。在庫があったとしても規定の数量より多く売ることはない』(日本経済新聞 2009年10月27日)

 200円程度のカップラーメンが、高級ブランドの戦略を使うなんて、そんなバカな話があるものかと笑う人もいるかもしれないが、高級ブランドのような戦い方をしてはいけない、などという決まりはどこにもない。

 個人的には、今の日清はそういう常識にとらわれない気がしている。だって、「いまだ、バカやろう!」といまも高らかに宣言しているではないか。

 と、いろいろ言ってみたものの、「品薄商法」について日清は全面否定している。

 「謎肉祭」の販売休止がカップヌードルブランドの価値を釣り上げたのは事実だが、これらは意図せず、転がり込んできた「幸運」というわけだ。そんなうまい話があるのかと個人的には思うが、実際にあるのだから世の中、捨てたもんじゃないという気もする。

 「ブランドの極大化」を目指す日清が、次にどんな「バカ」を見せてくれるのか注目したい。

(窪田順生)

最終更新:9/20(火) 8:08

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