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F1チームに学ぶ、常に進化するプロトタイプでビジネスの未来をデザインしよう

ITmedia エンタープライズ 9月20日(火)13時12分配信

 今週、サンフランシスコではOracle OpenWorldカンファレンスが華々しく幕を開けたが、コンピュータ業界の巨人、IBMも米国時間の9月19日、カジノのメッカ、ネバダ州ラスベガスで「IBM Edge 2016」をスタートさせた。早朝から会場となったMGMグランドホテルのカンファレンスセンターには約5000人の顧客やパートナーが集まり、1000を超えるセッションが行われる。

 IBMはここ数年、既存事業を大胆に見直し、成長分野へのシフトを加速する。企業向けのクラウドコンピューティングやWatsonによるコグニティブコンピューティングで新たな市場を創造し、再び主導権を握ろうとしているのだ。Edgeカンファレンスがフォーカスするハードウェア分野でもPOWER8、メインフレーム、フラッシュストレージ、そしてSoftware Defined Storageに至るまで、同社のシステム製品は、コンピュータが自ら思考し、迅速かつ的確な意思決定を支援する「コグニティブビジネス」の実現を支える機能が盛り込まれてきているという。

 この業界ではx86サーバのコモディティー化やクラウドコンピューティングの普及に伴い、ITインフラストラクチャーの価値が改めて問われてきたが、それらと比例するようにデータは爆発的に増加している。人の言葉や画像、動画のような非構造化データも理解し、推論や学習によって迅速でより確実な意思決定を支援してくれる新たなコンピューティングの時代には、データこそが企業の「資産」となり、競争力はそこから獲得される「洞察」によって左右されることになる。

 「世の中の90%のデータはこの2年間に生まれたものであり、80%は構造化されていないデータだ。しかも、60%は今すぐ活用するスピードが求められている」

 オープニングのジェネラルセッションでそう話すのは、IBMでシステム製品を統括し、Edgeカンファレンスのホストも務めるトム・ロザミリア上級副社長だ。膨大かつ多種多様なデータからスピーディーにビジネスの価値が引き出せるとすれば、それはゲームの流れを変える切り札になる。

 ストレージ製品を統括するエド・ウォルシュGMも「コグニティブビジネスはデータによって駆動される。そのスピーディーな活用は、業種や規模の大小を問わず、ビジネスの必須条件になった」と話す。

●膨大なデータのスピーディーな分析が勝敗を分けるF1レース

 彼がステージに招き上げたのは、英国・バッキンガムシャー州ミルトンキーンズに本拠を置くRed Bull Racingだ。スピードを追求するF1レーシングで、2010年から4年連続でワールドチャンピオンに輝くなど、数あるチームの頂点に立つ。

 F1はその年のレギュレーションに合わせてマシンを開発すれば終わりではない。不具合もあれば、週ごとに19カ国を転戦し、レース場ごとに異なるパーツを組み合わせ、最高のパフォーマンスを叩き出せるように改良を繰り返す。

 「F1マシンは常に進化し続けるプロトタイプ。1シーズンを戦う中、エンジニアリングの変更は年間3万件に上る。データに基づく意思決定を次々と下し、シーズンを通して改良を繰り返していかなければならない」── そう話すのは、同社のマット・カデューCIOだ。

 Red Bull Racingでは、マシンのデザインはすべてコンピュータの仮想世界で行い、パーツも3次元CADから直接作られる。テストもレギュレーションによってトラックでの実施が限られているため、かなりの部分をコンピュータによるシミュレーションで行う。また、マシンには約100個のセンサーが設けられていて、各地のトラックから送られてくる膨大なデータを英国のアナリティクスセンターで分析し、マシンの改良やセッティングから天候によるレースの戦い方に至るまで、得られた洞察を役立てているという。

 IBMとは2005年のチーム設立以来パートナーであり、Red Bull RacingのHPC環境、つまりスパコンのワークロードとリソースをIBM Spectrum LSFで効率的に管理し、より多くの分析やシミュレーションを行うために役立てているほか、IBM Spectrum Scaleによってデータに関するパフォーマンスを改善、今後はクラウドサービスも透過的に組み合わせてデータ容量を拡大していきたいとする。

 「われわれにとってITインフラストラクチャーは極めて重要。優れたインフラがなければレースを戦えない」とカデュー氏は話す。

●変革期を勝ち抜くための3つのイノベーション

 IBMの調査によれば、CxOの72%は「テクノロジーこそが最も重要なゲームチェンジャー」と答えている。それは、UberやAirbnbが既存の業界を大きく変革してしまったのを目の当たりにしたからに違いない。「破壊されない業界はないだろう」とロザミリア上級副社長は付け加える。

 彼は、「変革期を勝ち抜くには、さまざまなイノベーションの組み合わせが必要だ」とし、テクノロジー、コラボレーション、そしてビジネスモデルという3つのイノベーションを挙げた。

 テクノロジーのイノベーションは分かりやすい。

 「フラッシュストレージは、これまで不可能だったことを可能にした。できるならやるべきだ。競合もやってくるからだ」(ロザミリア氏)

 彼がビデオで紹介したのは、Plenty of Fishだ。毎日400万人が出会いを求めて訪れるデートサイトの大手。新規登録者も毎日5万人に上るというから驚きだ。IBMのフラッシュストレージを導入し、ボトルネックを解消、迅速なマッチングで顧客満足度を高めることに成功している。より良い顧客体験のために今はアプリが重要になっており、これまでのようにストレージのせいにはできなくなったという。

 「デートの相手が見つからなくても文句は言わないでよ」とロザミリア氏もジョークを飛ばす。

 2つ目のコラボレーションのイノベーションは、いわゆるオープンイノベーションだ。GoogleやNvidiaを巻き込み、2013年に発足したOpenPOWER Foundationの成果も着実に現れてきており、それらを取り込むことでIBM Power Systemsの製品ラインも拡充してきている。先週も高速な相互接続のためのNvidia NVLinkをPOWERプロセッサに搭載した新しいPower Systems LCサーバを発表したばかり。NvidiaのGPUと直接接続することで人工知能、ディープラーニング、ハイパフォーマンス・データ・アナリティクスをはじめ、膨大な計算処理を必要とするワークロードを高速化できるという。

 IBMはまた昨年8月、Linux専用のメインフレーム「IBM LinuxONE」を発表しており、この7月にはLinuxONEによってブロックチェーンネットワーク用のセキュアな環境をクラウドサービスとして提供することも明らかにしている。こうした新しいテクノロジーを活用し、新たなビジネスモデルを生み出していくのが3つ目のイノベーションだ。記録やアクセスが保護され、透明性を確保しているブロックチェーンという新しいテクノロジーの活用は、金融はもちろんのことだが、それ以外の分野でも応用できると期待されている。英国の振興企業、EverledgerはIBMのブロックチェーンサービスを用いてダイヤモンドを鉱山から消費者まで追跡し、ダイヤモンド認定書や取引履歴を記録するビジネスネットワークを構築している。これにより、宝石にかけられる保険金の不正請求を防止するソリューションにもなるという。

 「もはやムーアの法則に妥当性はない。テクノロジー、コラボレーション、そしてビジネスモデルのイノベーションによって未来をアークテクトしよう」とロザミリア氏は話す。

最終更新:9月20日(火)13時12分

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