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<ヘイトスピーチ>選挙演説の内容 どう対処すべきか

毎日新聞 9月20日(火)12時4分配信

 外国人差別への対応を行政に促すヘイトスピーチ対策法施行後に実施された7月の東京都知事選で、在日外国人の排斥を主張する候補者が現れた。選挙の公平性を担保する観点から、候補者の言論内容に立ち入って規制するのは難しい。外国人排斥の言論が選挙中に起きた場合にどう対処したらいいのか。有識者に聞いた。【林田七恵、後藤由耶】

 ◇都知事選中に「出て行け」

 都知事選告示翌日の7月15日、港区の在日本大韓民国民団(民団)中央本部の正面に、1台の選挙カーが横付けされ、選挙演説用の旗が掲げられた。選挙権のない在日韓国人の拠点に向けて、選挙運動が行われるのは異例のことだった。水色のたすきをかけた桜井誠氏(44)が選挙カーの上から叫んだ。「さっさと日本から出て行け」「あなたたちは日本に必要とされていません」。人通りは少なく、民団の職員と桜井氏の支持者とみられる10人ほどが見ていた。

 桜井氏は「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の元会長。ヘイトスピーチ対策法施行から1カ月近くたった6月下旬に記者会見し、都知事選への立候補を表明した。東京都小平市の朝鮮大学校前で脅迫的な言動を繰り返し、2015年12月に東京法務局から是正勧告を受けた。この点について記者会見で問われたが「これまでヘイトスピーチに当たる活動はなかった」と主張した。

 街頭演説で抗議を受ける可能性については、公職選挙法が選挙の自由の妨害を罰則付きで禁じていることを念頭に「選挙の時は、当然(相手が)選挙妨害で逮捕されるでしょうね」と説明した。選挙戦は繁華街の駅前などで活動したが、終盤に在日コリアンの街として知られる新宿区のJR新大久保駅近くを訪れた。千代田区の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部前でも演説し、朝鮮大学校前にも陣営関係者が選挙カーで乗り付けた。

 民団中央本部の権清志(クォンチョンジ)企画調整室長(58)は「選挙中だからとヘイトスピーチが言いたい放題になった。ネットなどを通じて憎悪をかき立てる種子をばらまかれた」と話した。

 桜井氏の選挙活動中の言動には日本に住む韓国・朝鮮人、中国人の排斥を呼びかける内容があったが、桜井氏は演説で「民団の人間はさっさと日本から出て行けと言っている。この訴えのいったいどこがヘイトスピーチなのか」と述べた。

 一方、テレビの政見放送では明確に外国人排斥を求める発言は抑えた。公選法は政見放送で、他人の名誉を傷つけるなど品位を損なう言動をしてはならないと定めている。

 ◇「法律に触れれば規制」

 公選法は、候補者が平等な条件で公正な選挙運動をする趣旨から、選挙運動ができる期間を定め、集会の回数を規制したり、戸別訪問を禁止したりするなど制約を課している。候補者の言論の内容は規制しない。規制すれば民主主義にとって「致命傷」になりかねないためだ。

 一方、ヘイトスピーチ対策法は理念法とされヘイトスピーチを禁止する条文がない。法務省の担当者は「選挙中かどうかにかかわらず啓発活動を通じて抑止を図る」とする。

 都選挙管理委員会は「法律で定められた選管の役割は選挙の執行で、演説内容を判断する立場にはない」とする。その上で「街頭演説などの選挙運動で何でもできるかと言えば、それは別問題だ。公選法以外の法律に触れれば規制はあるだろう」と説明する。都選管は立候補者への事前説明で、選挙運動に当たらない言動や法律に触れる行動は取らないよう求めた。

 日本は国連人種差別撤廃条約でヘイトスピーチの処罰を求める4条の一部を留保しているが、公務員による差別の扇動を認めない条項は批准している。対策法はヘイトスピーチ解消に取り組む努力義務を自治体に課した。警察庁は対策法施行に合わせ、ヘイトスピーチのデモ行為に対して名誉毀損罪や道路交通法などを活用して厳しく対応するよう全国の警察に通達している。

 ◇法に禁止規定必要だ

 ヘイトスピーチに関する著作がある明戸(あけど)隆浩・関東学院大非常勤講師(社会学)は「ヘイトスピーチ対策法の国会審議やその後の警察庁通達では、既存の法律を総動員してヘイトスピーチを抑え込むことが確認された。選挙中であっても対策法は適用を除外されるわけでなく、人権侵害や名誉毀損(きそん)などについて法務省や裁判所の判断が変わるわけでもない」とする。さらに「選挙でのヘイトスピーチは今後も予想される。対策法に禁止規定を設けるなど実効性を高めると同時に、何が公選法で守られ何が通常と変わらないかの整理も必要だ」と話した。

 ◇マスコミが批判せよ

 西土(にしど)彰一郎・成城大教授(憲法)は「公選法が候補者の言論内容を規制しないからと言って、名誉を傷つけ、人権を侵害するような言動は許されない」と強調する。しかし、対策法に禁止規定を設けることには慎重な見方を示す。行政によって乱用される危険性が拭えないからという。具体的な対処法としては法務省が勧告を出すことや、政府から独立した人権擁護機関をつくって対処させることを挙げる。その上で「公選法は新聞やテレビが報道・評論する自由を認めている。マスコミは人権侵害の言論を批判すべきではないか。日本新聞協会は1966年に『選挙に関する報道、評論で、どのような態度をとるかは、法律上の問題ではなく、新聞の編集政策の問題として決定されるべきものであろう』との統一見解を出している」と指摘した。

最終更新:9月20日(火)12時59分

毎日新聞

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