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<キトラ古墳>息をのむ極彩色壁画 世界最古天文画も

毎日新聞 9月20日(火)20時19分配信

 ◇24日から奈良県明日香村の「四神の館」で公開

 国特別史跡・キトラ古墳の石室から剥ぎ取り、修復を終えた一部の極彩色壁画が24日から、奈良県明日香村の「キトラ古墳壁画体験館 四神(しじん)の館」で公開される。初の一般公開となる「天文図」は石室天井に描かれていた世界最古の本格的天文画で、被葬者を読み解く上でも重要なカギを握っている。【矢追健介】

【写真特集】一般公開されるキトラ古墳の天文図

 金箔(きんぱく)で表現された約350個の星、それを朱で結んだ少なくとも74の星座たち。この美しい天文図の存在は、最初の壁画の発見から15年後、1998年に確認された。他にも、北極星を中心に常に星が地平線下に沈まない範囲を示す円(内規)、天の赤道などが精密に描かれている。いつ、どこで見上げた夜空なのか。その謎解きに挑んだ2人の天文学者の研究成果が昨年7月、発表された。

 地球が自転する際の軸となる「地軸」の傾きは時代によって変わり、星の見え方も変化する。

 中村士・元帝京平成大教授(天文学史)は、古代中国で国家の運命を占う際に使われた28星座「二十八宿」の位置に着目し、天文図が描いたのは紀元前80年の前後40年の星空だと推定。一方、国立天文台の相馬充助教(位置天文学)は描く際の誤差が少ないと考えられる内規や赤道に近い星11個で計算し、紀元後300年の前後90年に、古代中国の都、洛陽や長安(現西安)を通る北緯約34度で観測したと結論付けた。

 二つの分析は一見矛盾するように思えるが、キトラ古墳の調査を担当する奈良文化財研究所飛鳥資料館の石橋茂登・学芸室長は「古い星図に修正を加えながら、中国や朝鮮半島との交流を通じて日本にもたらされたのでは」と想像する。紀元前4世紀に活躍した中国の天文学者、石申の観測記録と伝わる「石氏星経」が原典になったと考えられるという。

 高松塚古墳(明日香村)にも星図はあるが簡便なデザインで、科学的な天文図は東アジアでも極めて特異だ。

 日本書紀は、天文暦学を担当する陰陽寮が設けられ、天武天皇が675年に天文観測を行う占星台を建てたと記す。中村元教授は「科学的な星図を使うのは天文技術職の関係者だけ」と指摘する。被葬者は天武天皇の長男、高市皇子(696年死去)や、陰陽師の安倍晴明が子孫ともされる右大臣、阿倍御主人(みうし、703年死去)との説もある。

 「石室外での壁画保存と活用」という新たな選択をしたキトラ壁画の公開は、壁画損傷・石室解体という重い歴史を背負い修復中の国宝・高松塚古墳壁画の将来にも影響を与えるモデルケースだ。

 高松塚でカビなどの劣化が発覚したのは2004年6月。同年9月にはキトラ壁画全面の剥ぎ取りを決めた。当時、奈良文化財研究所員として調査を担当した島根県出雲市文化財課の花谷浩・学芸調整官は「東壁の青龍は壁から完全に浮き、天井の天文図の金箔はぶら下がり、光を当てるときらきら揺らめいた」と壁画の劣化状況を振り返る。

 壁画剥ぎ取りは「現地で遺跡を保存する」という従来の原則から逸脱する。関係者にとって苦渋の選択だったが、文化庁の建石徹・古墳壁画対策調査官は「12年前の決断は正解だった」と振り返る。文化庁は10年に、石室へ戻すことを前提に「当面の間」は古墳近くで保存、公開する方針を決定。高松塚壁画もキトラ壁画の対応を追う形で、14年に外部保存方針が決まった。

 文化庁の作業部会座長としてキトラ壁画の剥ぎ取りを提案した元奈良文化財研究所長の田辺征夫・奈良県立大特任教授は「壁画も古墳も守れる最良の結果だ。高松塚壁画の公開に向け文化財保存と活用の象徴になってほしい。真価が問われるのはこれからだ」と話した。

 ◇キトラ古墳

 奈良県明日香村阿部山にある7世紀末~8世紀初めの2段の円墳。古代中国の思想に基づき、東西南北の壁の中央にそれぞれ守り神の四神像「青龍」「白虎」「朱雀」「玄武」を描く。その下に3体ずつ獣頭人身の十二支像を配置したとみられる。1983年にまず玄武が発見され、2001年までに全体像が判明。漆喰(しっくい)に描かれた壁画がカビなどで劣化し、04~10年に壁から剥ぎ取って、修復作業が進められている。

 ◇「四神の館」

 「四神の館」は国土交通省が建設し、文化庁が壁画の展示を担当した。地上1階、地下1階で延べ約2500平方メートルで、実物大の石室模型、剥ぎ取りや修復の歴史を詳しく紹介したコーナーなどがある。古墳の詳細が大型スクリーンに映し出される「東西南北4面マルチビジョン」では、中央であおむけになると石室の中にいるような体験ができる。

 一般公開は事前申込制。平日中心に空きがあり、2次募集している。申し込みは事務局ホームページ(https://kitora-kofun.com)か電話(06・6281・3060)で。

最終更新:9月20日(火)21時53分

毎日新聞