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<スイス>「全預金者に負担」 大幅なマイナス金利導入先行

毎日新聞 9月20日(火)21時5分配信

 ◇小規模銀行のCEO、苦渋の決断を振り返る

 日銀が20日から開始した金融政策決定会合でマイナス金利拡大の是非を検討する中、先行して大幅なマイナス金利を導入しているスイスでは、さまざまな「負の影響」が生じている。経済下支えと副作用とのバランスに苦慮する姿は、日本の金融政策の先行きの困難さを物語っていると言える。【オルテン(スイス北部)などで坂井隆之】

 「マイナス金利の負担は深刻だった。全従業員と議論し、慎重に判断した」。スイス北部オルテンの本店で、小規模銀行「オルタナティブ・バンク」のマーティン・ローナー最高経営責任者(CEO)は苦渋の決断を振り返った。

 同行は今年1月、世界で初めて全預金者に0.125%のマイナス金利を導入した。中央銀行のスイス国立銀行が、民間銀行から受け入れる預金に課すマイナス金利幅を0.75%(日銀は0.1%)に拡大したためだ。1000万円を預けると、1年で1万2500円が目減りする計算だ。

 オルタナティブ・バンクは、顧客負担を求めなければ「サービス維持が困難になる」と判断した。6月末の預金量は前年同期比4%減ったものの、大半が株式などの投資用口座に移ったことで預かり資産全体は0.6%減と横ばいで顧客流出はひとまず起きていない。

 同行は社会貢献度の高い企業に融資する独自の方針を掲げており、理念に賛同する顧客が多いという特殊事情がある。ただ、金融大手UBSが一定以上の預金量の顧客に手数料を課すなど、銀行がコストを転嫁する動きは広がっている。

 「資金を預けている全ての銀行でマイナス金利を課されている。高いところでは0.75%だ。対応策は見当たらない」。州政府が運営する年金の資金運用を担当する連邦社会保障基金のエリック・ブレバール代表が苦境を語る。同代表によると、ある年金基金はマイナス金利を避けるため6000万スイスフラン(約63億円)を現金で引き出したという。こうした動きを反映し、2015年末の1000スイスフラン札発行量は、14年末比で約1割増えた。

 政策シンクタンク、アベニール・スイスのジェローム・コサンディ上席研究員は「運用成績を上げるため新興国債券や不動産など、損失の恐れも大きい投資を増やす基金も多く、危険な動きだ。制度破綻を避けるため支給額削減などの改革が急務だ」と話す。だが、年金改革への政治的抵抗は強い。ベルン市内の公務員男性(49)は「高齢者は多額の年金を受け取っているのに不公平だ」と憤る。

 ただ、中銀に政策転換を求める声は少数派だ。人口830万人のスイス経済は時計などの輸出産業に大きく依存し、フラン高回避が最優先事項のためだ。ベルン大のエイモ・ブルネッティ教授は「経済全体では副作用よりもフラン高騰を避けるメリットの方が大きい」と話す一方で、「さらに利下げすれば預金流出の危険は高まる」と指摘する。

最終更新:9月21日(水)0時8分

毎日新聞