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“人体破壊ショーとロマンスの融合”だけじゃない。『高慢と偏見とゾンビ』の驚き

dmenu映画 9月20日(火)22時40分配信

お茶の間にゾンビを浸透させた米TVドラマ「ウォーキング・デッド」や、おいそれと銃の撃てない国・日本を舞台にした『アイアムアヒーロー』(16)など、最近、従来のゾンビものの定石の、斜め上をいくゾンビ作品が増えている。タイトルからして強烈なインパクトの『高慢と偏見とゾンビ』も、その1本だ。

18世紀末、イギリス。ベネット家の五人姉妹は、日々カンフーの特訓に励んで、ゾンビを討ち取る日々を送っている。そこへ現れる資産家の青年ビングリーと、その友人ダーシー。結婚適齢期の長女ジェインと次女エリザベスは、恋の予感と、来たるべきゾンビとの大決戦に胸をざわつかせる……。

そう、本作は、ロマンス小説界の不朽の名作「高慢と偏見」の世界の中になぜかゾンビが生息しているという設定の基に描かれた、歴史文芸+恋愛+カンフー+ゾンビという……メディアミックスならぬ、ジャンルミックス作品。言うなれば、ジェイン・オースティンの格調高いロマンスと、人体破壊ショーの融合だ。

“英国文芸コスチューム” ジャンルへのリスペクト

とはいえ、単に奇をてらった“何でもアリ”な内容ではない。同名の原作小説が、元ネタである「高慢と偏見」への忠実なオマージュに基づいて書かれているのと同様、映画版にも“英国文芸コスチューム” ジャンルへのリスペクトが至るところに充ちている。

エレガントな衣装に身を包んだ紳士淑女がダンスに興じる舞踏会。ビングリーとジェイン、ダーシーとエリザベスの2組のカップルが繰り広げる恋愛模様。

ロマンス部分は徹底的に甘く、ロマンチックに、上品に展開される。そこへゾンビの群れが現れるや、紳士淑女は戦士へと変身。ダーシーは日本刀で容赦なくゾンビを斬りまくり、中国武術を習得したベネット姉妹はチームプレイでやつらを粛正。実に観ていて頭がクラクラしてくるけれど、ミックスされた世界観にブレがないので混乱はしない。

ゾンビ映画は社会の鏡

オリエンタリズムへの関心が高まっていた当時の富裕層の姿を、上流階級は武士道、中流階級はカンフーによる戦い方をしていることで巧妙に揶揄して、さらにゾンビを下層階級のメタファーとして描写。

ゾンビ映画のパイオニアであるジョージ・A・ロメロ監督をはじめ、このジャンルの作り手たちが常に大切にしてきたまなざし――ゾンビ映画は社会の鏡という視点は、本作にもしっかりと、ある。

「高慢と偏見」の中の名場面、ダーシーがエリザベスに求婚するうちに口論になっていくところは、口喧嘩どころか剣と剣を交えての格闘戦に。家事、教養、礼儀作法など、当時のレディが身につけておかなければならない嗜みに、戦闘技術が加わっていく展開(女性の自立精神の隠喩かも?)にも説得力がある。

恋のときめきと、ゾンビとの闘いの興奮。真逆のジャンルを組み合わせることで生まれる、思いがけないドキドキ感。ロマンス映画としても、ゾンビ映画としても、新たな驚きと可能性を投げかけてくる作品だ。

『高慢と偏見とゾンビ』
9月30日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズ他 全国ロードショー
監督・脚本:バー・スティアーズ
出演:リリー・ジェームズ、サム・ライリー、ジャック・ヒューストン、ベラ・ヒースコート、ダグラス・ブース、マット・スミス
原作:「高慢と偏見とゾンビ」ジェイン・オースティン&セス・グレアム=スミス著(二見文庫 安原和見:訳)
配給:ギャガ
(C)2016 PPZ Holdings,LLC

文=皆川ちか/Avanti Press

最終更新:9月20日(火)22時40分

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