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温暖化でブドウに異変、ワイン業界に迫る危機

ウォール・ストリート・ジャーナル 9月20日(火)11時57分配信

【クレア・バレー(オーストラリア)】南オーストラリア州のワインの産地、クレア・バレーでワイナリーを経営するニール・ポーレット氏は、9月のある雨の午後、ブドウ畑の前で車を止めた。ここで栽培しているブドウは、自らの名を冠するワインレーベルを立ち上げた1980年代初めに比べ、成熟時期が1カ月早まったという。

 ブドウ畑の中を白いピックアップトラックで見て回るポーレット氏は、より多くのブドウが一斉に熟すようになったため、収穫シーズン全体が2週間ほど縮まったとも語った。

 一部の専門家はこうした変化は気温上昇の結果だとし、世界中のワイン醸造業者への脅威になり得ると指摘する。科学者やワイン業界関係者によると、早く熟しすぎたブドウは理想的な風味に達しないことがあり、それらを遅く収穫すると不快なほどアルコール度数の高いワインになる可能性がある。

 豪ワイン醸造大手の一部は、大学や研究機関とともに、その影響を軽減する方法を模索し始めた。同国でワイン産業(醸造やブドウ栽培)に携わる約2万4000人の雇用や、年間21億豪ドル(約1600億円)相当のワイン輸出が危険にさらされるためだ。

 2015年のワイン生産量で同国2位(ユーロモニター・インターナショナル調べ)のトレジャリー・ワイン・エステーツは、ブドウの成熟を遅らせる有効な方法として、余分な枝を切り落とす剪定(せんてい)作業を年後半に増やすことを検討している。クレア・バレー最大のワインメーカーで生産量国内11位のテイラーズ・ワインズも、剪定作業を後ろにずらす方法を試行中で、いずれはブドウ園の20%に取り入れることを考えている。

 テイラーズは近年、ワイナリーの規模を拡大した。一つには、より多くのブドウを同時に処理し、収穫シーズンの短期化に対応するためだ。一部のブドウ園では、土壌の温度を低く保つためにブドウの木の下にわらを敷き詰めている。

 クレア・バレーで兄弟でパイクス・ワインズを経営するアンドリュー・パイク氏は、収穫期の前倒しが続けば、ワインメーカーには一段と圧力が強まると指摘。「このままでは、われわれが追い求めるフレーバープロフィール(風味の特徴)が出せなくなる」と危機感を示した。

世界で報告される成熟の早期化

 トレジャリー・ワインのデータによると、アデレードの南方に位置するマクラーレン・ベイルのブドウ園では、赤ワイン用の代表的品種「カベルネ・ソーヴィニヨン」の成熟時期は1993年には3月25日だったが、2015年は2月4日に早まった。

 ブドウの成熟の早期化は世界各地で報告されている。主要なワイン産地の一部に影響が出ており、ワインメーカーにとっては頭の痛い問題となっている。米ワシントン州のワイン委員会によると、同州では2015年の気温上昇のせいで収穫シーズンが「歴史的な早さ」で始まったという。

 トレジャリー・ワインの別のデータによると、南オーストラリア州のワイン産地バロッサ・バレーとエデン・バレーでは赤ワイン用品種「シラーズ」の成熟期間が1998年には47日間だったが、2013年には24日間に縮まった。

 アデレード大学に拠点を置くARC革新的ワイン生産訓練センターのウラジミール・ジラネク所長は「農園で収穫したブドウをすべて同時に発酵させる設備があるワイナリーはほとんどない」と指摘する。

アルコール度数下げる新種の酵母

 木に長く残されたブドウは成熟し続け、より多くの糖分を蓄積する。糖分は発酵過程で酵母によってアルコールに変換されるため、糖度が高いほどアルコール度数も高くなる。ジラネク氏の研究グループは、糖からアルコールへの変換効率が低い特定タイプの酵母を、標準的なワイン酵母と組み合わせることで、アルコール度数を下げられることを発見した。目下、一段と変換効率の低い新種の酵母を開発し、さらにアルコール度数を下げることを目指している。

 アデレードの北東に位置し、シラーズの代表的産地の一つであるバロッサ・バレーでは、トレジャリー・ワインがこの数年来、剪定時期を遅らせる方法を試しており、今後これを拡大する見通しだ。2016年の収穫については前年10月の第2週ごろ、ブドウの房がつく軸の部分に葉が2~3 枚ついた時点で一部の枝を切り落とした。伝統的にこの作業は前年5月下旬から6月上旬に行う。この方法により、収穫が10~14日後ずれし、摘果の時期がばらついてブドウが一斉に熟すことがなかった。同社はブドウの品質を損なうことを避けられたと話す。

 トレジャリー・ワインのジョイア・スモール氏は「非常にシンプルな技術だ。余分なコストがかからず、タイミングだけの問題だ」と強調する。

 ワインからアルコールを除去する技術もあるにはあるが、複数の関係者の話では、費用が高くつく場合があり、天然製法という各ワイナリーの売り文句に反するという。

 一方、テイラーズ・ワインズの醸造責任者、アダム・エギンス氏は、容量の大きな貯蔵タンクや圧搾機などに設備投資することをアドバイスする。同氏によると、2008年に非常に短い収穫期を経験したことから、同社は生産能力をほぼ倍増させたという。

 今のところ、早まった収穫時期が元に戻る兆しはほとんどない。

 冒頭のポーレット・ワインズのポーレット氏は今年、適切なフレーバーになるのを待つため、クレア・バレーの代表品種である「リースリング」の果実の一部を熟したまま1週間余分に木に残したと話す。9月初めのブドウ園を見て回っていたポーレット氏は、ある古いカベルネ・ソーヴィニヨンの木の前で車を止めた。すでに葉っぱが1枚芽吹いていた。

 「ちょっと早いな」と彼はつぶやいた。 

By MIKE CHERNEY

最終更新:9月20日(火)11時57分

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