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アイリスオーヤマはなぜ「家電事業」に参入し、「結果」を出してきたのか

ITmedia ビジネスオンライン 9月21日(水)8時14分配信

 「アイリスオーヤマ」という社名を聞いて、どんな商品を想像するだろうか。「そーいえば、家にチェストがあったなあ」という人もいれば、「ドッグフードを買っているよ」という人もいるはず。一方で、「うーん、ロゴは赤いハートの形をしていたよね? 買ったことはあるけれど、何を買ったか思い出せない」という人もいるのでは。

【透明の収納ケース、社長のアイデアから生まれた】

 ホームセンターに足を運べば、同社の商品がズラリと並んでいる。それもそのはず。毎週月曜日に「新商品開発会議」を開いていて、この会議から年間1000点以上の商品が生まれているのだ。ジャンルもさまざま。収納ケースもあれば、カイロもあれば、お米もある。扱っていないモノを探すのが難しい中で、ここ数年メキメキチカラをつけてきたジャンルがある。家電だ。

 2005年に家電事業に参入し、2009年には「efeel」というブランドで単身世帯向けの家電を発売。2011年以降「2口IHクッキングヒーター」や「銘柄炊きジャー炊飯器」などヒット商品を連発。2013年には、家電事業の開発拠点として「大阪R&Dセンター」を設立し、大手メーカーのパナソニックやシャープなどで活躍してきた家電のエキスパートを積極的に採用しているのだ。

 家電事業の売り上げはどんどん伸びていて、2015年12月期で400億円、2016年12月期の目標は600億円を掲げている。このような話を聞くと、「おおー、スゴいなあ」と思われるかもしれないが、日本を代表する家電メーカーの売り上げと比べると、まだまだ……まだである。H社やS社やP社などが「兆」単位で家電をじゃんじゃか売っているのに対し、アイリスオーヤマはまだ「億」である。しかも、1000億円すら達していない。現在は「巨大な像」と「小さなアリ」くらいの差があるので勝負にならないが、小さなアリの動きが気になるのである。

 日本の家電業界は、海外に押されて苦戦を強いられてきた。リストラだけにとどまらず、海外企業に買収されるケースもあったのに、なぜアイリスオーヤマは家電事業に参入したのか。しかも、厳しい環境の中にもかかわらず、結果を出している。そんな疑問を同社に投げかけてみると、「家電に参入したのは自然な流れ」「商品開発の秘けつはデータに頼らないこと」という答えが返ってきた。どういう意味か。気になったので、同社で家電事業を担当している小林敬一さんと、広報の村越滋幸さんに話を聞いた。

●家電は得意分野だった

土肥: ホームセンターの売り場を回ってみると、「これもアイリスオーヤマ」「あれもアイリスオーヤマ」といった感じで、さまざまな商品が並んでいます。例えば、ペットコーナーに行けば「犬小屋」が売っていますし、寝具コーナーに行けば「ベッド」が売っていますし、キッチンコーナーに行けば「フライパン」が売っています。

 そんな中で、ここ数年家電商品が増えてきたなあという印象があるんですよ。ちょっと調べたところ、10年ほど前から参入していて、そのころは単純な構造をしているモノが多いですよね。空気清浄機、高圧洗浄機、サーキュレーターなど。しかし、2013年に「大阪R&Dセンター」を稼働させ、大手電機メーカーで活躍してきたエキスパートを採用するなど家電事業にチカラを入れていますよね。実際、オーブンや炊飯器などちょっと複雑な構造のモノを発売するようになりました。

 売り上げも順調に伸びていますが、ひとつ疑問があるんですよ。家電業界といえば、日本を代表する大手メーカーがあります。また、技術力が高くて、特徴のある商品を開発する会社もたくさんある。さらに、外資系企業が参入しているので、競争はますます激化しています。そうしたものすごい厳しい環境の中で、なぜアイリスオーヤマは参入しようと思ったのでしょうか?

村越: その答えをお話しする前に、当社がどんな会社なのか説明させてください。現在はさまざまな商品を扱っていますが、もともとはプラスチックの成型を得意とする会社なんですよね。例えば、プラスチックの植木鉢とか収納ケースとかチェストなどを販売してきました。こうした商品には、たくさんのプラスチックを使用しています。

 話はちょっと変わりますが、他社工場の多くは素材別にモノがつくられていると思うんです。例えば、プラスチックであれば、プラスチックの製品だけを扱うといった形で。でも、当社の場合、同じ工場内で調理器具をつくっていたり、金属製品をつくっていたり、木製品をつくっていたり。ごちゃまぜになっているんですよね。ごちゃまぜになっていて、どんなメリットがあるのか? ひとつの工場でたくさんの製品がつくられているので、その場で何かと何かを組み合わせれば、新しいモノをつくれるのではないか? と想像することができるんですよね。

 で、「なぜ家電に参入したのですか?」というご質問に答えますね。家電を分解すると、プラスチックがたくさん使われていることが分かると思うんですよ。商品によっては、9割くらいがプラスチックでできていて、その中にモーターが入っているといった感じ。当社はプラスチックの成型を得意としているので、自分たちで形を設計して、その中に機械を入れれば「家電」をつくることができるのではないか、と考えたんですよね。つまり、「家電は自社の得意分野ではないか」というところからスタートしました。

●参入当初はシンプルな商品を開発

土肥: だから、家電事業に参入した当時の商品は、シンプルな構造のモノが多かったわけですね。

村越: 当時はよく「ジェネリック家電メーカー」(大手家電メーカーの製品と同じ程度の性能をもつが、価格の安い後発の製品)と呼ばれていました。技術力も高くなかったので、「これまでにない新しい機能が付いている」といったモノではなく、シンプルで価格の安い商品を出していました。

土肥: シンプルで価格の安い商品……ということですが、その中からヒット商品が生まれているんですよね。

小林: はい。2015年に発売した「超軽量スティッククリーナー」(以下、スティッククリーナー)の初年度目標は8万台を掲げていましたが、その目標を大幅に上回りました。

土肥: 掃除機といえば、高機能で吸引力があって……といった商品が話題になりがちですが、この商品の特徴はといえば……「軽い」ことくらい?

小林: 最大の特徴は「軽い」ことですね。約1.3キログラムですので。

土肥: (持ってみて)ふむ、確かに軽い。競合他社の商品は重いモノが多いので、軽さに着目されたのですか? 市場調査を行って、「掃除機のブルー・オーシャン(競争のない未開拓市場)は軽さだ!」と。

村越: いえ、実は……当社はそーいう感じではありません。家電に限らず、日常生活の中で何かヒントを見つけて、それを形にするんですよね。もちろん、他社商品のスペックを比較して、実際に家で使うこともあります。でも、日常生活の中で「あれ、これちょっと使いにくいなあ」と感じたり、「こんな商品があればいいのになあ」と思ったり、ちょっとしたことから開発がスタートするんですよね。

土肥: スティッククリーナーの場合、どういったきっかけで開発したのでしょうか?

●スティッククリーナーの開発秘話

小林: 実家に住む母親は、キャニスター型(車輪が付いていて、ホースを引っ張って移動させる形式)の掃除機を使っていました。 健康に気を遣ってエアロビクスや太極拳を行っていましたが、膝・腰・肩が痛むようになりました。そうなると、掃除が大変なんですよね。掃除をするだけでも大変なのですが、電源コードの抜き差しや収納にも苦労していました。

 そんな母親を見て、「このままではいけない」と思いました。力の弱い女性や子どもでも楽しく掃除ができるモノをつくりたい。いや、絶対につくるべきだと思いました。

土肥: そこから「軽さ」の追求が始まったわけですか?

小林: はい、不要な機能、余計なデザインを削っていきました。例えば、他社の掃除機は、先端部分のノズルにモーターが付いているのですが、新たに「サイクロンストリームヘッド」という機能を開発しました。モーターを設置せずに、ヘッド内に回転する気流を発生させ、ゴミをかきあげるんですよね。

 完成するのに、30~40個ほどの試作品をつくりました。タイヤの大きさ、高さ、溝の幅、隙間などちょっとずつ修正して、やっと形にすることができました。ちなみに、ゴミパックは自社で生産しているマスクの技術を応用しているんですよ。

土肥: どういう意味でしょうか?

小林: 先ほど「工場ではさまざまな商品をつくっている」という話をしましたが、工場でマスクをつくっているんですよね。マスクの素材は抗菌の素材が入っていて、軽い。「マスクの素材をスティッククリーナーにも応用できないか」と考え、実際に使用することにしました。

土肥: スティッククリーナー以外にも、工場でつくっているモノを新商品の開発に生かしたケースはあるのですか?

小林: 家電だけに限らず、プラスチックと木を合わせて収納をつくったり。たくさんありますね。

土肥: ということは、マスクの素材を応用した……というのは珍しくない?

小林: はい、珍しくないですね。

●過剰なスペックは不要では?

土肥: 掃除機を開発してみて、何か気付いたことってありますか?

小林: 大手の家電メーカーは「吸込仕事率」(掃除機がゴミやホコリを吸い込む能力をワットで示したもの)をアップするためにどうすればいいのか、その競争をしているなあと感じました。どんどん吸い込むチカラを上げていくわけですが、家を掃除する際、そこまでのチカラが必要なのか、疑問を感じたんですよね。

 吸引力のある掃除機を使っていて、このような経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。「カーペットなどを吸い込んでしまって、肝心のゴミを吸い取るのに時間がかかってしまった」といったことが。吸い込むチカラを上げていくのではなく、お客さんにとって大切なことは何かを考えました。いろいろ検討した結果、「過剰なスペックは不要」というアイデアが固まってきました。過剰なスペックをそぎ落としていくと、そこそこの値段でそこそこの商品をつくることができました。

土肥: テレビのリモコンのような話ですね。リモコンが世に出てきたとき、構造はとてもシンプルでした。電源とチャンネルだけといった感じで。しかし、他社との差別化を図るために、各社は「あれも付けて、これも付けて」となって、ボタンだらけのリモコンになってしまいました。結果、消費者から「こんな機能、誰が使うの?」「どうやって使うの?」といった不満の声が出てきました。いまは逆に、「こんな機能はいらないよね」となって、シンプルなリモコンが増えてきました。

 ただ、気になったことがひとつ。「価格が安い」ことは消費者にとってうれしいのですが、中には「安かろう悪かろう」と受け止める人もいると思うんですよ。そのへんの不安はなかったですか?

小林: 「安物扱いされるのでは」という不安がありました。ですが、安ければいいという話ではなくて、消費者が課題を感じていて、それを解決するモノをつくらなければいけません。そして、それを多くの人が購入できる価格でなければいけません。

土肥: スティッククリーナーの価格をECサイトで調べると、1万5000円くらいですね(9月中旬)。

村越: 新商品を開発する前に、企画を提案しなければいけません。その会議には経営陣も参加していて、社長が印鑑を押せば、開発に着手できるといった流れ。もし、その会議で「スティッククリーナーを3万円で発売したい」と言っても、経営陣から「高い!」と言われるでしょう。この価格だったら買ってもいいかな……と思える“値ごろ感”を重視しているんです。

土肥: でも値ごろ感って人によって違いますよね。社長と平社員では、収入が違うわけですし。

●「クリア収納ケース」誕生秘話

村越: この商品の値ごろ感はどのくらいか? それを知るために、たくさんの人にリサーチしているんですよね。例えば、新入社員に「君だったら、この商品はいくらだったら買う?」と聞く。もちろん、競合商品の価格は5万円だから、値ごろ感は3万円くらいかな、という考え方もします。ただ、判断基準はあくまで「主観」なんです。もし、スティッククリーナーが3万円だったら、ここまで売れていたかどうか……。

土肥: 数字で考えて、数字で答えを出す、という流れではないんですね。やれAIだ、やれビッグデータだ、やれIoTだ、と言われている時代の中で、あくまで人間の感覚を重視している。

村越: 大手家電メーカーの場合、たくさんのエンジニアがいて、新しいセンサーなどをつくるケースがありますよね。「このセンサーを使って、新しい商品をつくろう」となるかもしれませんが、当社の場合は違う。「この機能ができたから、新しい商品をつくろう」となったことがないんですよ。もちろん、他社から「この製品を使ってみませんか?」と話をもちかけられ、たまたま掃除機をつくっていて、「これは使えるかも」というケースはあります。ただ、技術優先の考え方はしていないですね。

土肥: 消費者の不満を解消することが、最優先だと?

村越: はい。例えば、1989年に「クリア収納ケース」を発売したのですが、それまで透明な収納ケースってなかったんですよね。世の中に。

 当時の収納ケースには色が付いていて、当社の社長・大山健太郎も自宅で色付きの収納ケースを使っていました。ある日、友人と釣りに行くことになったのですが、なかなかセーターが見つからなかったんですよね。家の前に、友人が迎えに来ているのに、部屋中を探してもセーターが見つからない。そのときに「収納ケースの中を見えるようにしたら、探している服が見つかりやすいのでは?」と考え、透明の収納ケースが開発されることになりました。

土肥: ほほー。透明の収納ケースはいまでは当たり前のように存在していますが、そのような経緯があったのですね。

●海外メーカーも怖くない

土肥: 最後の質問です。アイリスオーヤマの家電製品を見ていると、まだまだ単純な構造のモノが多いですよね。ということは、他社も真似しやすいのではないでしょうか。今後も売り上げが伸びていくと、他社も同じような商品を出してくるかもしれません。

村越: 大手家電メーカーと比べて、売り上げもシェアも高くない。そうした状況の中で、同じような商品を出してくるでしょうか。規模的に「まだまだ」だと受け止めています。

土肥: では、海外メーカーはいかがでしょうか? 同じような商品を低価格で勝負されたら、困りませんか?

村越: 日本の家庭で生活をしていて、「不満を解消するためにはどうすればいいのか」を考えて商品を開発しています。この部分は、海外メーカーも真似しにくいのではないでしょうか。

土肥: 住宅事情も違うし、気候も違うし、習慣も違う。たくさんのことが「違う」ので、海外メーカーは怖くないと?

村越: 当社はさまざまなジャンルの商品を扱っているので、ひょっとしたら競合他社の動向に“鈍感”になっているのかもしれません。他社の動きを恐れていたら、年間に1000以上の商品を開発することはできないかもしれません。ちなみに、商品開発にあたって、当社は「SRG戦略」を掲げています。

土肥: 何ですか? SRG戦略って。

村越: シンプル、リーズナブル、グッド――その頭文字をとって……。

土肥: ウィッ……いや、フィニッシュで。

(終わり)

最終更新:9月21日(水)8時37分

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