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金融リテラシーを失った「銀行員」 なぜ、カナリアの鳴き声に耳を傾けないのか?

ZUU online 9月21日(水)17時10分配信

私の仕事は、銀行で金融商品を販売することだ。ふと、気がつくと、私はベテランに分類されるようになってしまった。

中年オヤジのやっかみかも知れないが、販売担当者の若年化、女性の進出にともない、販売サイドの金融リテラシーは嘆かわしいまでに低下している。

こんなレベルの銀行員に複雑なデリバティブを駆使した金融商品の説明ができるのだろうかと不安になる。その程度のレベルの銀行員に金融商品を売りつけられるお客様は気の毒だ。

■また人事異動がやってくる

「で、今度はどんな素人が送り込まれてくるんですか? ま、こっちに預けてもらえれば、1年でトップセールスに仕上げますよ」そんな冗談を言いながらも気持ちは重い。

銀行に限ったことではないが、組織には必ず人事異動がつきものだ。その度に憂鬱になる。単に投資信託や保険を販売するだけならともかく、社債や外国債券、私募仕組債を販売するばかりか、FPとして税理士などの専門家と協力して仕事をこなしていくようになるまでには相当の教育が必要になる。

知識だけではなく、現場での経験も必要だ。正直なところ、本人の努力ではどうにもできないセンスが問われる分野もある。

金融商品の最前線には次々と若い戦力が補充される。最近は特に女性がどんどん投入される。利ザヤの縮小により融資では食べていけなくなった銀行が金融商品の販売に力を入れるのは当然だ。それにともない、私の部署もどんどん人員が増えている。銀行の中ではちょっと特殊な部署だったにもかかわらず、組織は膨張し、いつの間にか管理できない数の部下がいる。

彼ら、彼女らを見ていて痛感することがある。金融商品の販売に携わる人間が持っていなければならないマーケットが発するシグナルを読みとる力がどんどん失われている。「金融リテラシー」が失われているのだ。

金融リテラシーとは、試験や資格により身につけられるものではない。それは何度も痛い思いをし、悔しさに打ちのめされてこそ得られる能力なのだ。

■何を売ればいいのか分からない?

私の部署に配属された人間に、まず最初に教えなければならないことがある。

「いま何を売れば良いですか? この質問だけは絶対にしてはいけない。ここでその質問をするのは、自分は能力がありませんと認めることだと思って欲しい」

ここまで言わねばならないほど「いま何を売れば良いですか?」という質問を毎日浴びせかけられる。

何を売ろうが一向に構わない。
当然、われわれには数字の目標が課せられている。その目標さえ達成できれば、投資信託を売ろうが、外債を売ろうが、仕組債を売ろうが何をどれだけ売っても自由だ。にもかかわらず、多くの銀行員が「売れ筋の商品」を常に気にかけ、販売している。

なぜ「売れ筋の商品」を売ろうとするのか?

答えははっきりしている。
自信がないからだ。銀行員は個別商品についてはよく勉強している。それぞれの商品の特徴、メリット、セールスポイント、対象となる顧客。そして顧客ウケが良いセールストークをきっちり暗記している。銀行に商品を販売して欲しい投信会社や保険会社がそれらをレクチャーしてくれるからだ(※逆にデメリットについて、あまりレクチャーされていないのは多いに問題だが……今回はその話には触れないでおこう)。

つまり、多くの銀行員は投資信託や保険の個別商品についてかなり高い販売スキルを有していることは事実だ。

しかし、その弊害たるや計り知れない。
少々乱暴だが、銀行によって教育されるのは、セールストークだけなのだ。現在のマーケット環境ではどんな商品をお客様に販売すべきなのか。それぞれのお客様の個別事情を判断してニーズに合った商品を提案する能力は全く重視されていない。

「販売しやすい商品」を売れるだけ売って収益を稼ぐ。それが実情だ。

■過去の長期金利上昇にみる「恐ろしい事実」

2016年7月、これまで一貫して下落し続けてきた長期金利が急上昇した。過去の金利急騰を振り返ると、恐ろしい事実が見えてくる。金利急騰局面の「数年後」には株式相場が急落しているのだ。

1987年の金利急騰から数年後にはバブルが崩壊した。98年の金利急騰後にはITバブルが崩壊、そして03年の金利急騰後にはサブプライムローン問題が顕在化し、リーマンショックへとつながった。

古くからマーケットに関わってきた人間は「金利の変化」が経済やマーケットの潮目を変えてしまうことを感覚的に知っている。「カナリアの鳴き声」に耳を傾けることができる。

■銀行の販売姿勢に覚える「強烈な違和感」

にもかかわらず、マーケットが発する「重要なシグナル」「カナリアの鳴き声」に無関心な銀行員のなんと多いことか。

「東京五輪までは J-REIT の成長が見込めます」

そんなセールストークを耳にしたことはないだろうか。かつて多くの銀行員がこのフレーズでREITを販売した。彼ら、彼女らは投信会社や銀行の上司から、このフレーズが「お客様を動かす」と教え込まれたのだ。多くのお客様は未だにその言葉が頭にこびりついたままでいる。そんなお題目を鵜呑みにする銀行員が実際にたくさんいる現状を嘆かずにはいられない。

金利はマーケット関係者から「炭鉱のカナリア」といわれてきた。相場の変調は株でもなく、為替でもなく、真っ先に金利に表れるからだ。炭鉱のカナリアは人間よりも早く有毒ガスの発生を感知することから、そう呼ばれるようになった。それは、マーケットに関わる先人が残してくれた貴重なアドバイスだ。

しかし、金融商品販売の最前線に大量投入される若手が受ける教育は「いかにマーケットと向き合うか」ではなく、「いかに商品を販売するか」である。そこにはマーケットが「思い通りに動かない」ものであるという前提条件が欠落している。

いかに売るかというセールス話法をブラッシュアップすることに力を費やす銀行の姿勢に私は強烈な違和感を覚える。かくて先人のノウハウは廃れていく。せめて、私は自分の部下達にはこれらを継承したいと思うのだが。(或る銀行員)

最終更新:9月21日(水)17時10分

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