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撮れなかったロッテ・井口資仁のプロの技

スポニチアネックス 9月21日(水)8時2分配信

 【長久保豊の撮ってもいい?話】あいさつだけはきっちりとしますが、実は選手と話すのは苦手です。選手の活躍シーンだけ撮っていればいいのでしょうが、そういうわけには行きません。エラーであったり凡退であったり。選手にとっては思い出したくもない写真が紙面を飾ることもあります。

 「お互い仕事なんだから気にしないで」と言ってくれる選手もいますが顔を合わせるのはバツが悪い日もあります。

 記者はいいなあと思う原稿や見出しの言葉があります。勝敗を左右するような失策をしでかした選手に使われる「名手がまさか」ってやつです。わずか6文字に「本当はうまい選手なんだけど、この時はなぜか魔がさして」と読者に伝え、選手本人には「キミはエラーしたことがニュースになる選手なんだ」と言い訳できる魔法の言葉。

 残念ながらカメラマンにはこうした便利な手段はありません。「名手がまさか」の写真より「名手が名手たる技」を撮ることこそボクらの仕事です。

 今年4月、そんな名手の技を撮り逃しました。

 新聞の見出しは「41歳・(ロッテ)井口 左手一本で拾った今季1号」とあります。写真も確かに左腕の返しだけで球を飛ばしているように見えます。でも原稿中には井口選手のコメントとして「(バットの)ヘッドをうまく効かせられた」とあります。

 いくら強靭なリストを持つ井口選手とはいえ左腕だけでヘッド効かせられるのか?という疑問が湧きました。投球は外角低めのフォーク。少し泳がされながらも左翼スタンドに運ぶには?

 左手のグリップを支点にしてインパクトの瞬間に弾くように右手を押し込んだのか、右手グリップを支点にして左手を引きつけたのか。いずれにせよ「左手一本」というのは間違いです。写真が原稿や紙面をミスリードしてしまった例です。

 もっとも他のメディアも「バットに乗せた」という表現をしていました。これは動画で確認すると確かに乗せているように見えます。これもまた井口選手の技術。ポップフライにならないようにフォロースルーを低く抑えた。インパクトからの打球の軌道とバットの軌道が重なったから「乗せた」ように見えたわけです。スチールカメラもビデオカメラも脱帽の技でした。

 あの時、あと0・02秒、薄紙1枚分早くシャッターを押していればこの凄まじいプロの技をうまく伝えられたかもしれません。左右のグリップのどちらが支点だったのかわかったかも。昔なら鬼のデスクから「もう一度やってもらえ」と叱責されたことでしょう。

 今季も残りわずか。意を決して井口さんにお願いしてみようかとも思う。なにしろボクは「名手がまさか」ではなく「アイツがまたか」のヘッポコなんですから。(編集委員)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれの54歳。農業系団体職員を3カ月、情報系出版社を3日で退職したが、スポニチは満30年勤務。

最終更新:9月21日(水)8時2分

スポニチアネックス