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巨大台風、直撃したら… 三大都市圏、避難に課題

産経新聞 9月21日(水)7時55分配信

 ■100万人が一斉移動/道路渋滞、鉄道は混乱

 強い勢力の台風が日本列島に上陸するケースが相次いでいる。8月30日に岩手県などを襲った台風10号は「非常に強い」台風に成長、一時は首都圏への直撃も危惧された。巨大台風が直撃すれば首都圏はどうなるのか。東京都江戸川区などは計約260万人の避難を想定するが、「途方もない課題」(多田正見同区長)というのが実態。内閣府では9月から、三大都市圏の広域避難について検討が始まった。(市岡豊大)

 ◆近隣との連携必要

 「『(広域避難を)やりますか、やりませんか』という検討を朝晩の会議で繰り返した。想定された勢力で直撃となれば当然、やる状況だった」

 江戸川区の高橋博幸防災危機管理課長(55)は台風10号が東日本へ近づいていた当時を振り返る。東京の江東5区(江戸川、江東、墨田、葛飾、足立)では大規模な避難に備え、8月24日に対応方針をまとめたばかりで、連携して対応する初のケースとなった。

 想定では、戦後最大の被害をもたらした伊勢湾台風級の接近で河川の氾濫と高潮が同時発生し、全域が浸水。水害発生の3日前には共同で検討を始め、1日前には「広域避難勧告」の発表を目指す。

 だが、江東5区の浸水域の人口は計約260万人。高橋課長は「判断に信用性がないといけない。河川を管理する国や都、避難先の近隣自治体なども連携が必要で、5区だけで見解を示すのは難しい」と明かす。

 ◆誰が判断するのか

 こうした声を受け、内閣府は9月13日、関係機関や専門家を集めた作業部会を立ち上げた。来年冬をめどに広域避難の制度設計について結論を出す。

 まず問題となるのは誰が判断するかだ。災害対策基本法では避難勧告や避難指示は市区町村が出す。しかし広域になると単一自治体での避難先確保は難しく、高度な知見や経験の浅い市区町村の決断は困難だ。

 決断を下せたとしても避難ルートや手段の問題が立ちはだかる。数百万人単位が一斉に移動すれば道路は渋滞し、鉄道は混乱する。江東5区は避難者数を約100万人と見込むが、河川に架かる橋に人や車が殺到する事態が起こり得る。

 さらに深刻なのは避難しなかった人の支援だ。江東5区は最大約50万人を公共施設に収容し、残り約100万人が取り残されると見込む。避難が遅れた場合は2階以上に移動する「垂直避難」が求められるが、高い建物がない地域は難しい。その上、排水しにくい地域では孤立状態が2週間続く恐れもある。

 ◆「ゼロメートル」存在

 三大都市圏では満潮位より低い「ゼロメートル地帯」が存在し、東京湾176万人▽伊勢湾(名古屋)90万人▽大阪湾138万人-が暮らす。

 伊勢湾では平成18年から約50の関係機関による協議会を設置。垂直避難を組み合わせた避難方法が検討されたが、担当者が次々代わるため議論の定着に時間がかかっている。まとめ役の辻本哲郎名古屋大名誉教授(河川工学)は「段取りを認識できたのはいいが、ガイドラインがないと動けない機関が多い。国のリーダーシップにかかる期待は大きい」とする。

 ただ、内閣府の作業部会についても「どこまで根本部分に迫れるか次第」(関係者)との見方が強い。同部会メンバーの片田敏孝群馬大大学院教授(災害社会工学)は「これまでの災害対応から一歩踏み出す必要がある。日本の防災は自治体が責任を負う『行動指南型』。住民一人一人が主体的に動く『状況情報型』へ変えるべきだ」と指摘する。

最終更新:9月21日(水)8時45分

産経新聞