ここから本文です

甘い「日銀バズーカ」の総括、高まりにくい株高・円安の期待

ロイター 9月21日(水)22時24分配信

[東京 21日 ロイター] - 日銀の「総括的検証」に対し、市場では冷ややかな声が少なくない。バズーカと呼ばれる「量」の政策効果に対する評価が甘かったためだ。大胆な緩和策は目標に達せず失敗したとの見方が市場では多いが、今回の検証では一定の効果があったと評価した。日銀と市場の認識ギャップは埋まらないままで、今後の追加緩和においても株高・円安の期待は高まりにくいとみられている。

<コインの表と裏>

貨幣量と金利はいわばコインの表と裏。貨幣量が多くなれば金利は下がり、貨幣量が少なくなれば金利は上がる。今回、日銀は「総括的検証」を踏まえ、量重視から金利重視の政策に移行したが、量(バズーカ)政策の検証があいまいであれば、金利重視の政策にも信頼感が高まらず、行方も見通しにくくなる。

今回の「検証」では、量的・質的金融緩和(QQE)の効果として、予想物価上昇率の上昇とそれに伴う実質金利の低下の効果を前面に出した。「経済と物価の好転をもたらし、物価の持続的下落という意味でのデフレはなくなった」とする。

しかし、マネタリーベースの拡大という量自体の経済効果はほとんどないというのが、エコノミストの中では多数を占めている。長期国債を大量に買い、金利を低下させるという直接的な効果を別にすれば、マネタリーベースという量が拡大すること自体で、経済や物価を押し上げたり、人々の期待に働きかける効果は乏しいとみられている。

BNPパリバ証券・チーフエコノミストの河野龍太郎氏は、マネタリーベースの拡大政策について「金融機関にとって、短期国債と当座預金は金利ゼロの代替商品。いくら日銀が当座預金を拡大しても金融機関のバランスシートは実質的に変わらず、貸出などの行動は変わらない」と指摘する。

<円安起点の好循環>

では、何故、日銀が誇るように、QQE導入の当初は、円安・株高が進み、物価も上昇率もいったん1%台半ばまで上昇し、企業業績も最高益を記録して、失業率も低下したのか。

「それはほぼ円安のおかげ」(シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏)だという。円安で輸出企業は為替差益、内需企業はインバウンド消費で潤い、株価も上昇した。高齢化による労働供給減少の影響もあって失業率は低下。物価も円安による輸入物価の上昇で押し上げられた。

日銀は、金利低下の効果を重視するが、10年最長期国債利回り(長期金利)<JP10YTN=JBTC>はQQE導入前の0.75%から最大でもマイナス0.3%と1%ポイント低下しただけだ。実質金利の低下以上に事業のリスクが大きければ、経営者は投資に動かない。金利低下は年金生活者の懐を痛めるなどプラス効果だけではない。

トヨタ<7203.T>は15年度までの3年間で、円安を主因とした為替変動による増益要因を単純累計で1.5兆円計上。連結営業利益を1.3兆円から2.8兆円に押し上げた原動力となった。しかし、年初からの円高で「潮目」が変わり、今年8月、今期見通しを前年比44%減の1.6兆円に下方修正した。為替変動による影響は1.1兆円の減益要因となる見通しだ。

「検証」ではあまり触れられていないが、円安は黒田日銀の金融緩和策のみならずアベノミクス政策の要諦なのは間違いない。

<取り戻せなかった信頼感>

では、なぜQQEで円安が進んだのか。マネタリーベースの拡大が通貨安をもたらすという理論的、実証的なロジックは弱い。金利低下は通貨安効果をもたらすが、通貨レートはあくまで2国間の金利差で決まる。さらに金利差は名目、実質ともに相関性は明確ではない。今年に入り、円債金利は低下しているが、ドル/円<JPY=EBS>は円高が進んでいる

「市場の誤解、もしくは期待に働きかけたからだ」と三井住友銀行・シニアグローバルマーケットアナリストの岡川聡氏は指摘する。ソロスチャートなどに対する「誤解」が存在した可能性もあるが、「異次元緩和」と呼ばれた黒田日銀の大胆な金融緩和への期待が市場で高まったことが、QQEによって当初、円安を引き起こした大きな要因だという。

しかし、日銀と市場の信頼関係は崩れてしまった。強気発言の後の追加緩和(バズーカ2)、否定的発言を繰り返した後のマイナス金利導入。市場では「黒田東彦総裁の言うことは信じられなくなった」(国内証券トレーダー)との声は少なくない。

今回の「検証」が壊れた関係を修復するチャンスだったが、量の政策に対する評価は甘かったとニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏は厳しい。「預金への執着が強い日本では、マイナス金利は深掘りしにくい。いずれ量の政策に回帰しても、市場の不信感が強ければ、円安効果は表れにくくなってしまう」という。

円高が進行するような場合、利下げで円安を狙うスキームに変更したのが、今回の「検証」を受けた日銀の新しい枠組みとみられている。しかし、円安をもたらすのは、あくまで市場。日銀との認識ギャップが解消せず、対話が難しいなかでは、期待するような効果を得るのは難しいかもしれない。

最終更新:9月21日(水)22時34分

ロイター