ここから本文です

清武弘嗣の開幕一ヶ月の評価、守備的試合では外されることが課題/河治良幸の真眼 日本人プレーヤー30日の評価

GOAL 9月21日(水)12時10分配信

ドイツのハノーファーからスペインのセビージャに移籍して最初のシーズンとなる清武弘嗣。ここまで公式戦6試合で3試合の先発出場、1得点2アシストという成績はヨーロッパリーグ(EL)王者でもある強豪クラブでの挑戦としては上々の滑り出しと評価するべきだろう。新天地のホームでCKから1アシスト、さらに細かいパスワークから抜け出す形でゴールを記録したエスパニョールとの開幕戦は“名刺代わり“として最高のスタートを切った。

第3節のラス・パルマス戦とCLグループリーグ第1節のユベントス戦は出場がなかったものの、9月17日のエイバル戦では先発フル出場を果たし、絶妙なスルーパスでFWルシアーノ・ビエットのゴールをアシストした。豊富な運動量で攻守に絡み、機を見極めた決定的なプレーでも存在価値を示している。ここまでセビージャはリーガ・エスパニョーラで3勝2分の2位。清武の出場試合は1勝2分だが、4得点に直接的に絡んだ。

CKとスルーパスによる2アシストと1ゴール。また公式にアシストは付かなかったが、エスパニョール戦のフランコ・バスケスによる4点目は左からのマイナスクロスを右足ヒールで触り、2人のディフェンスを引き付ける形でバスケスの左足シュートをお膳立てしており、実質的なアシストと評価してもおかしくはない。

清武弘嗣が本職とするトップ下はセビージャでも激戦区となっているが、これには2つ理由がある。1つはこのポジションの絶対的な存在だったエベル・バネガがイタリアのインテルに移籍したこと。そのため清武はプレシーズンから同じ新加入のバスケス、アンヘル・コレア、パブロ・サラビアといったライバルと激しい競争を展開。途中からブラジル屈指のテクニシャンとしれ知られるガンソが加わると、昨シーズンの主力だったウクライナ代表のエフゲン・コノプリャンカは開幕後にシャルケへ移籍した。さらに同時進行で移籍市場が閉まるギリギリまで補強が進められ、元フランス代表のサミア・ナスリがイングランドのマンチェスター・シティから加入している。

もう1つは多くの選手が加入したこととも関連するが、ホルヘ・サンパオリ新監督が現代サッカーでも稀に見るハードワークをベースにしたスタイルを打ち出しており、リーグ戦、チャンピオンズリーグ(CL)、国王杯という3つの大会を戦いぬくために、特に中盤は途中交代や過密日程時の“ターンオーバー“が可能な陣容を求めていることだ。加えて戦術的なバリエーションを可能とする目的もある。

日本代表から戻って3日後に行われた第3節のラス・パルマス戦でベンチから外れたことは想定内だが、地元メディアでも大方でスタメンが予想された9月14日のCLユベントス戦でベンチ入りはしたものの、結局出場なしに終わったことは周囲を心配させた。ただし、グループリーグの中で最も守備の強度が要求される試合だったことを考えれば、「バルセロナやバイエルンと同じレベルに達している」と語るユベントスに対抗するために戦術的な理由での措置だったと考えられる。

なぜならば、ユベントス戦では清武のみならず攻撃的MFのライバルと見られるブラジル人のガンソも同じ境遇にあっていたからだ。この試合は4-3-1-2のシステムが採用されたが、中盤は長身MFのビセンテ・イボーラが起用され、対人守備の強さに定評のあるエンゾンジとクラネビッテルと中盤を組む形で、トップ下のバスケスにも守備のタスクをかなり課していた。

ユベントスの強力な攻撃力を封じるプランはフルタイムで全うされ、結局0-0で試合を終えることに成功した。試合後の会見によれば、サンパオリ監督はもう少し高い位置からプレッシャーをかけようとしていた様だが「ユベントスに鎖をかける時間を作ることができた」と語っており、中盤の起用法がそのまま結果に表れた形だ。

清武に対するサンパオリ監督の評価が落ちていないのはエイバル戦での起用を見れば明らかで、特にこの試合では4-3-3の左右のインサイドハーフに清武とガンソを並べるという攻撃的な意図が見える布陣で戦い、清武もセビージャにとって唯一の得点をアシストする形で応えている。そのエイバル戦でも分かる様に、清武は中盤から縦横の広域に顔を出す“機動的なプレーメーカー“として、セビージャの中盤でも特徴を発揮している。

例えば右センターバックのラミがボールを持った時に、タイミング良く少し手前に引いて縦のグラウンダーパスを引き出し、1タッチでボランチのマティアス・クラネビッテルにリターンして前を向かせる。そこから斜め前に動き直して、FWルシアーノ・ビエットの手前に生じるスペースを使うといった具合だ。こうした連続的な動きを生かし、少ないボールタッチでリズムを作るプレーはガンソやバスケスと異なる。

「ハリルさん(日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督)に似ているところがある。走ることだったりデュエル(1対1の強さ)を求めるのは一緒」と清武が語るサンパオリ監督は全体に攻守のハードワークを求めると言っても、システムのバランスをあまり崩さない。そのため清武も周囲とのポジションチェンジが発生する移動をしているわけではなく、相手の守備を観察しながら機敏に前後左右して、グラウンダーのパスを引き出している。ボールを持って勝負する選手が揃う攻撃陣に清武が入ることは攻撃の流れを循環させる意味で効果を生んでいる。

特に目立つのは積極的に相手ディフェンスの合間を通してアタッカーに裏を取らせようとする縦パスの多さだ。エイバル戦でも先制点をアシストしたシーンは前半26分だったが、それまでにもボールを受けた直後にスルーパスを出そうとしたところでファウルされ、高い位置でのFKを獲得するなど、積極的にチャンスを作り出そうとしていた。

現在のセビージャはポゼッションより、攻守の切り替わりを生かした早いタイミングでフィニッシュを狙うスタイルを志向している。その中にあって清武は、飛び出しやトップスピードでの仕掛けを得意とするFW陣の特徴を生かそうとしている。加えてアシストという、目に見える形の結果を強く意識していることが複合的に表れている様子だ。

その一方でシュートはやや抑えめで、自分より前にアタッカーがいる状況ではミドルシュートよりパスで味方を生かすプレーに徹している。基本的には彼らに良い形でシュートを打たせるプレーを意識している様だが、例えばビエットが1人マークを背負い、それでもパスを受けられそうな状況ではそこに縦パスを付けて、そこから清武が飛び出して前線を追い越すプレーはバリエーションとなっている。

ガンソやバスケスといった攻撃的MFと併用される場合、彼らと細かいコンビネーションで絡むシーンは現状それほど多くない。その代わりに他の選手を起点としてチャンスが生まれる場合に3人目あるいは4人目の動きとして相手ディフェンスの死角の影からゴール前に入り込んでいくプレーが見られ、それが清武のゴールに最も近い形となっている。

守備に関しては高い位置からの精力的なチェックに加えて、全体が自陣に後退すれば深めのポジションで奮闘し、味方ボールになった瞬間にスペースへ動いてファーストパスを受けるなど、運動量の面では申し分ない働きを見せている。ただ対人戦でガツンと潰すタイプではなく、耐える守備は決して得意としていない。そのため、ユベントス戦のときの様な守備的な試合でのプラン場合、起用の優先順位が落ちるのは仕方ないところだ。

1得点1アシストを記録したエスパニョール戦では不用意なミスパスが相手の4点目に結び付いてしまい、ビジャレアル戦では攻撃の起点として精彩を欠いた。エイバル戦も退場者が2人出た相手に攻めあぐむなど、90分に渡り効果的なプレーができているわけではない。中盤での攻撃の絡み方に関しては、清武の能力を持ってすればガンソやバスケスとももっとバリエーションを生み出せるはず。ただ新しい環境で持ち味をしっかり示しながら攻撃的MFとしてまずまずの結果を出していることは、当初の期待値から評価しても上々のスタートと言える。

繰り返しになるが、日程的にも戦術的にも、メンバーを固定して戦うタイプの監督ではない。ベティスとのアンダルシアダービーでもターンオーバーによって出場機会は得られなかったが、ここまで守備陣も含め全試合で先発フル出場している選手は1人もいない。移籍市場の終了間際に駆け込みで加入したナスリも清武と基本ポジションは重なるが、ウィングでもプレーできる選手で、サンパオリ監督がチャンスの起点を増やしたいと考えれば、清武やガンソと同時にピッチに立つこともあるだろう。

「とりあえず今は代表のことは忘れて、チャンピオンズリーグが始まりますし、またセビージャでいいゲームができるように頑張りたい」

そう語って代表からクラブに戻り、奮闘を続ける清武。重要な試合で長くピッチに立つためには目に見える結果を出すことはもちろん、戦術面でも重要度を高めることが指揮官はもちろん、現地の評価を高めることにもつながる。もちろん守備の強度も高めれば、ユベントス戦の様なシチュエーションでも起用される可能性は高まるが、攻撃力を買われている選手であることを忘れてはならない。加入時には競争のある環境を求めていたことを語った清武。そこで評価を高めることで自信を得て、さらに厳しい戦いが予想される日本代表に持ち帰ってくれることを期待している。

■清武弘嗣 開幕戦8/20~第4節9/20
総合評価:6.5
インパクト:7
安定感:5.5
貢献度:6.0

(文・サッカージャーナリスト河治良幸)

最終更新:9月21日(水)15時52分

GOAL

スポーツナビ サッカー情報