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「ナイス提案!」「ナイス提案!」うす闇に叫ぶわたしを妻が揺さぶる

ニッケイ新聞 9/21(水) 0:15配信

 海越えて赤き大地に根を張りし七月の桜今盛りなり〉――第68回全伯短歌大会に初参加し、独楽吟でそう詠んで、見事2位デビューを飾った「駐在員歌人」がいる。コンピューターメーカーで営業職に従事する堀合昇平さん(41、神奈川県)で、2年前からブラジル駐在している。

 日本ではビルからビルへと飛び込み営業を繰り返し、コンピューターの基幹システムの提案を売り込む過酷な毎日。見出しの作品は、提案先経営者の琴線に触れるようなキラーフレーズ(決め言葉)を24時間考え続ける余り真夜中にうなされる様子、もしくは夢の中で提案している最中の自分に「これは素晴らしい提案だ」と言い聞かせて奮い立たせている様子を、ユーモラスに詠み込んでいる。

 彼の歌集『提案前夜』(書肆侃侃房、2013年)には〈本郷通りローラー作戦決行せよ富士そばで蕎麦かっこんだあと〉〈断られたときほど笑え もういっぽん茜に染まるビルに飛び込む〉〈気の抜けたコーラみたいな提案と詰め寄る君のパンプスがよく〉〈まいったよ専務がさぁとうつむいてページをめくる気もないようで〉―そんな日々の闘いの記録が刻まれている。

 短歌大会に初参加した感想を聞くと、「日本で暮らしているのとは違う、ドラマチックな生涯が歌に込められている」と堀合さんはしみじみした様子でのべた。

 32歳の頃、提案書を書くのに、短い言葉で力強く表現する練習として短歌を始めた。東京では「未来短歌会」に毎月参加。「日本だと若い人は今の気持ちを詠み込むことが多いが、こちらでは境涯詠が多い。日本の人にも十分に理解される、とても興味深い内容」と高く評価する。

 実際、今大会でも印象に残る作品がたくさん発表された。たとえば〈遠い畑の老いが没(い)り陽におじぎする日本人に違いなかろう〉(小野寺郁子)などは田舎の移住地の夕暮れどき、遠くでお辞儀をしている人がみえ、「あれは日本人に違いない」とどこかホッとする情景歌だ。

 十数年ぶりに尋ねた日本の郷里での、後ろ髪を引かれる様な別れ際を詠んだ〈「お元気で!」と別れし姉弟(きょうだい)「またね」というには遠きふるさと〉(滝谷久子)には、膝を打つ戦後移民は相当多いのでは。興味深いのは〈笠戸丸の航海日誌の終ページ「全員無事」と水野龍の文字〉(水野昌之)という「創作」だ。この11月から聖市の日本移民史料館で、水野龍の航海日誌が公開予定と聞く。関係者に確かめたところ、実際には「全員無事」の文字はない。つまり「書いていて欲しかった…」との移民側からの嘆息とも読めそうだ。

 〈病む我に混血の孫日本語で「ガンバレ」と言い手を握りしむ〉(志村とく)には、大統領や下院議長の罷免や元大統領告発などの異常事態が連発する荒れたこの国の毎日に、どこか優しい未来を感じさせる作品ではないか。

 〈気楽にて暮らせば何処も良き国で文化の違いは心磨けり〉(金城ヤス子)には心底驚かされた。これほどの達観に本当に達しているのであれば「移民の達人」の称号を与えたいほどだ。誰もが文化の違いに怒り、苦しみ、歯ぎしりする。それを、心を磨く砥石とするには、生活の全てにおいて「気楽」という柳の様にしなやかな気構えがなくてはいけない。でも、それが難しい…。

 《廃墟と化した現代短歌に、この青年は何を提案しようとしているのだろう》―『提案前夜』の中で、解説の加藤治郎氏は堀合さんに、そう投げかける。ブラジル駐在中、コロニア短歌界を再活性化する〈提案〉もぜひ期待したいところだ。(深)

最終更新:9/21(水) 0:15

ニッケイ新聞

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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SF作家のモニカ・バーンは、人種、社会そしてジェンダーの型にはまらない登場人物たちが織り成す、豊かな世界を想像しています。このパフォーマンスにおいて、バーンはピラーという登場人物としてホログラムで登場し、人間が宇宙に移住した近未来から、愛と喪失の物語を過去の私たちに向けて発信します。「想像する未来と実際の姿の対比はいつだって面白いのです」とバーンは言います。