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何もないスマホ「ノーフォン」に秘められた機能とは

ウォール・ストリート・ジャーナル 9月21日(水)15時47分配信

 クリス・シェルドン氏が何百人ものハイテク好きたちの前で、黒い袋から自社の新製品を取り出すと、聴衆からは「おおー」「ああー」という感嘆ないし驚きの声が上がった。

 同氏は今月カナダで開かれたテクノロジー・カンファレンスで、「われわれはノーフォン(NoPhone)史上、最も後進的なモデルを発表できることを誇りに思う」と述べた。そもそもノーフォンというのは長方形のプラスチックで、スマートフォンのような外観をしているが、機能は一切なく、何もできないものだ。価格は1台約10ドル(約1000円)で、過去2年間で1万台以上が売れている。

 今回発表されたノーフォンの最新モデルはプラスチックのパッケージのみで、中には空気しか入っていない(つまり、空っぽだ)。シェルドン氏とビジネスパートナーのバン・グールド氏(30)はこの新型を「ノーフォン・エア」と呼ぶ。

 グールド氏は聴衆を前に「今回ヘッドホンジャックをなくした。他のものも全部なくした」とし、「この筐体には何も入っていないように見えるかもしれない。だが、それこそが素晴らしい点だ」と話した。

 アップルの新型スマホ「iPhone(アイフォーン)7」とヘッドホンの「AirPods(エアポッド)」を世界中で多くの消費者が買い急ぐなか、シェルドン、グールド両氏は、現在拡大しつつある潮流の一翼を担っている。それは、スマホに対抗するカウンターカルチャーだ。2人がノーフォンを思いついたのは、ニューヨークにあるバーで、どの客も自分のスマホ画面にくぎ付けになっているのを見たのがきっかけだった。2人はこれを「本物のスマホの中毒になっている人のための偽物スマホ」として売り込んだ。

 「反スマホ」に改心した人の中には、折りたたみ式の携帯電話に戻る人がいるほか、新たな事業を立ち上げる人もいる。携帯電話なしの休暇を企画する旅行会社、電波が受信できないようにするモバイルアプリの開発会社、電波を通さない袋を販売する会社などだ。

 著名ミュージシャンのカニエ・ウェストさんは先週、「創作の空気を確保するため、携帯電話を手放した」とツイート。すると、同じくミュージシャンのケイティ・ペリーさんが「つながるためのアンプラグ」と返した。

 コメディアンのブレット・クラインさんは、スマホの自撮り棒にうんざりしていたため、ニューヨークのあちこちで自撮り棒を切断して逃げる様子を映した動画を制作した。これは単なるいたずらで、実際には偽の電話が使われ、俳優が被害者を演じていたことが判明したが、動画はユーチューブで9月1日以降に計130万回以上再生されている。

 クラインさんと一緒に動画を制作したコメディアンのバディ・ボルトンさんは、「テクノロジーは人々をソシオパス(社会病質者)にしている」と話す。

 米国で、アップルの音声アシスタント機能「Siri(シリ)」の声を担当した声優でさえ、人々はスマホから少し距離を置くべきだと述べる。

 声優のスーザン・ベネットさんは、「人々の心はどこかに行ってしまって、スマホの画面ばかり見つめている。そして他人とコミュニケーションをどう取れば良いのか分からなくなっている」と話す。

 冒頭のシェルドン、グールド両氏がノーフォン・エアを発表した会議が開催された場所は、オタワから西に車で2時間ほど行ったサマーキャンプ場の一角だった。そこは携帯電話の電波が入らない場所で、一切のデバイスの使用が禁じられていた。

 この「ファイアサイド(炉端)カンファレンス」という名称の会議は、トロント在住の弁護士であるスティーブン・パルバー氏とダニエル・レビーン氏が2015年初頭に始めた。彼らは何年もの間に何十件ものテクノロジー・カンファレンスに出席したが、スマホに乗っ取られているように感じた。

 パルバー氏によると、他の大半のイベントは「ツイートするのと、スマホの画面を眺めることに全体の半分くらいの時間を費やすことになる」という。このため、両氏はテクノロジーを持ち込めないテクノロジー会議を作ることを決意した。

 2人は昨年、第1回目の会議に誰も来ないのではないかと心配した。レビーン氏は何人かから「携帯電話なしの週末を過ごすために出かけるなんて無理」と言われた。

 だが実際には多くの人にとって、携帯電話がないことが、これまでに経験しなかったほどの社会的交流につながった。グーグルマップも使えないため、広大なキャンプ場内では他人に道を尋ねることを余儀なくされた。今年の会議参加者数は2倍以上に増えて270人ほどになった。

 ノーフォン・エアを共同発表した前出のグールド氏は、「見知らぬ人に近寄らなければならないし、あいさつして、会話をしなくてはならないかもしれない」と述べ、「この週末、恐らく子供時代以来となるほど多くのアイコンタクトを取った」と話した。

 会議に参加したマット・マコーズランドさんは、会議のお土産セットに入っていたノーフォンが手放せなくなっていることに気付いた。彼は2日間で偽の自撮り集合写真を少なくとも50枚撮ったという。

 彼は冗談で、このノーフォンを使って電話に出る真似をする。通常なら本物の電話を取り出すはずのときにノーフォンを出して、かかってきた電話に出ているふりをしたり、ウーバーで配車を依頼したりするふりをするという。「皮肉なことに、ノーフォンを出すと、なぜか心が落ち着いてくる。電話が恋しくなくなっているんだ。本当の電話をね」

By RYAN KNUTSON

最終更新:9月21日(水)15時47分

ウォール・ストリート・ジャーナル