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「ホームドアあれば」地域で慕われた医師、不慮の死

神戸新聞NEXT 9月22日(木)7時30分配信

 JR明石駅(兵庫県明石市)のホームで昨年11月、1人の医師=当時(55)=が電車に接触し命を落とした。週末の楽しみに少し酒を飲み、帰路の途中での事故だった。患者思いで、地域医療に尽くそうとした医師の死に、地域のショックは大きく、本紙「イイミミ」にもその死を悼む声が複数寄せられた。遺族は「もし、ホームドアが設けられていたら」という思いを拭いきれずにいる。


 昨年11月7日深夜、明石市の自宅で夫の帰りを待っていた妻(52)は突然、警察官の来訪を受けた。夫が明石駅で電車に接触し、病院に運ばれたという。病院に着くと、夫は既に亡くなっていた。電車を降り、ホーム端で嘔吐(おうと)していたところへ、電車が入ってきたと聞いた。

 夫は神戸市西区で開業する内科医だった。午前の診察をこなし、夕方、三宮での肝がん治療のセミナーに向かった。その後、小料理店で夕食を取ったようだった。

 夫の専門は循環器だったが、あらゆる分野の疾患を学び、ホームドクターとして患者を丸ごと受け止めようとした。クリニックはお年寄りから子どもまで、あらゆる年代の患者であふれた。

 事故後、クリニックは休診に。患者の喪失感は大きく、神戸新聞イイミミには「途方に暮れてます」「先生ありがとう」などの電話が寄せられた。四十九日に献花の場を設けたところ、400人近くが参列した。

 夫は生前、家族を亡くした患者に「人にはそれぞれ寿命というものがある。その人が残してくれたことを大切に、笑顔を忘れず生きましょうね」と言っていた。妻はその言葉を繰り返し自分に言い聞かせ、気持ちを整理しようと努めてきた。

 酒を飲み過ぎると、必ずタクシーで帰宅した。当日の食事のレシートや、家で飲み直すためのワインを買っていたことからも、飲み過ぎていた形跡はなく、何らかの理由で気分が悪くなったようだった。妻はホームドアがある駅では転落や接触がほぼゼロと聞き、「明石駅にあったら」と思ってはやりきれなくなる。

 「ホームドアがあれば、不慮の事故で命を落とす人はおらず、そんなことで大切な人を失う人もいなくて済む。鉄道会社も遅延などの損害がなくなり、運転する人も安心できるのでは」と妻。「誰もが安心して利用できる駅にしてほしい」と願う。(森本尚樹)

最終更新:9月22日(木)8時44分

神戸新聞NEXT