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<企業>失敗続きダメ営業マンを立ち直らせた上司のひと芝居

毎日新聞 9月22日(木)9時30分配信

 東京都の築地市場の移転先である豊洲市場で、本来されるべき土壌汚染対策の盛り土が行われていなかったという問題が持ち上がっています。さらに、この問題は歴代の都知事との関わりやどう報告されていたかという新たな問題にも発展していますが、組織において報告をおろそかにするのは危険です。ここでは、報告の大切さを筆者の知る事例を紹介しながら考えてみます。【ITコンサルタント・細川義洋】

 ◇営業部長の協力の申し出に黙ってしまった部下

 部下が上司に正しい報告を行わなかったり、都合の悪いことを隠したりすると、場合によって組織全体を揺るがしかねません。上司は、部下に常に正直でいてもらわなければならないでしょう。とはいえ、部下も人間です。自身の評価の低下や叱責を恐れて、真実を語らないことも珍しくありません。

 残念ながら、部下に正しい報告をさせる明確な対策はないでしょう。ただ、筆者の知るある営業部長は、部下の言動を逆手にとって真実を語らせていました。

 その営業部長の下に、いつも受注目前の案件を落とす部下がいました。「あの顧客は来月には発注してくれそうです」「良い手応えです。必ず売ってみせます」--そんなことを口にしながら、受注時期直前になると、「やっぱりダメでした」と報告してくるのです。

 見込みが甘かったわけではありません。報告自体が顧客の反応を大幅に誇張していたのです。本当のことを素直に伝えて上司に叱られ、評価を下げるより、まずは上司に安心してもらい、とにかく時間稼ぎをしたかったようです。その間に顧客を説得したり、別の受注を狙ったりしていましたが、結局は失敗していました。そんな部下に、営業部長は頭を悩ませていました。

 ある日、部長にある案件の状況を聞かれた部下は、「あと一押しです」と、いつものように誇張した報告をしました。部長は当然、その言葉を信じません。その場で「ウソをつくな!」とどなりつけることもできましたが、すべてを承知の上で、笑顔で次のように言いました。

 「そうか。それなら私もその顧客を訪ねてあと一押しするか」

 突然の協力の申し出に、部下は一瞬だまりこんだ後、「いえ、私一人で大丈夫です」と言います。部長が直接顧客と会えば、商談が順調でないことがわかるからでしょう。

 しかし上司は続けました。「その会社には知り合いもいる。彼にも声をかけて協力してもらおう」--部下は何も答えることができず黙ってしまいました。

 ◇誇張した報告は周りに迷惑をかける

 営業部長が積極的に協力を申し出たため、部下は本当のことを語り始めました。実際には、商談は競合他社との一騎打ちで、どちらかと言えば不利な状況でした。そのことをわびる部下に営業部長は、「いいかげんなことを言うと周りが振り回されることがわかったか?」と諭したそうです。

 営業部長のこうした対応で、部下は自分の誇張した報告が営業部長や見ず知らずの人間まで動かし、迷惑をかけることに初めて気づいたのだそうです。それまでは、報告内容を本当のことにするのは自分で、ダメだったら謝ればよいと考えていたのでした。周りへの影響を実感させた営業部長の対応は効果的でした。

 この話には続きがあります。営業部長は、「誇張でもいったん口にしたことは現実にしろ。売るといったものは何がなんでも売ってこい」と、この部下を鼓舞したのです。

 部下は必死に売り込み、営業部長やその知り合いの協力も得ながら顧客に別の商品を売ることに成功したそうです。結果的には少額でしたが、部下は一つ階段を上がることができたのです。

最終更新:9月22日(木)9時30分

毎日新聞