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あなたのその愛想笑いは要注意かもしれない

ITmedia ビジネスオンライン 9月22日(木)8時9分配信

 英国の自然科学者チャールズ・ダーウィンは、1872年の著書『人及び動物の表情について』の中で、常に笑顔の人についてこんなふうに書いている。「いつも笑っている、または笑顔でいる大勢のバカたち」

【笑顔は好意的に受け止められる?】

 日本では一般的に、笑顔は「親しみ」や「愛嬌」といった好印象なイメージと結びついている。そして海外へ行った際も相手に好印象を与えようと笑顔を絶やさないという人もいるだろう。また相手が何を言っているのかよく分からず笑顔で誤魔化した、なんて経験がある人も少なくないのではないか。

 だが日本の感覚のままで相手に好印象を与えようと笑顔を振りまくことが、実は外国で逆効果になっているかもしれない、としたらどうだろうか。

 非言語行動の専門誌『非言語言動ジャーナル』で最近、「笑顔を見せる場所に注意」というタイトルの論文が発表されて、大手メディアなどで話題になった。サブタイトルには、「文化によって個人の笑顔から感じと取る知性と誠実さの度合いが変わる」と書かれている。つまり、世界では、ニコニコしていることが、140年以上前にダーウィンが指摘したように「バカ」のあかしだと受け取られることもあるというのだ。世界との距離がどんどん縮まりつつある世の中で、ビジネスパーソンだけでなく、海外を旅することが多い人にとっても、この研究は参考になるかもしれない。

 この論文は、ポーランド科学アカデミーの文化心理学であるクバ・クリス准教授が主導した調査の結果である。クリスは、40人の研究員らと2011年から2015年にかけて、世界の44カ国で5200人以上を対象にして調査を行った。対象者のうち男性は約56%、女性は約43%で、平均年齢は約22歳だった。

 クリスは、「笑顔の人はたいていの場合、笑顔のない人よりも好ましく見られるし、より幸せで魅力的で、能力があり、フレンドリーと見られる」と述べ、こうした見方は世界中で文化的に共通していることだと思われているが、実はそれを証明する調査などはあまり行われてこなかったと指摘する。

 そこで彼は、8人の笑顔と笑顔のない写真のサンプルを並べたスケールを用意し、それを使って調査を行い、知的さと誠実さとの関係性を調べた。それを見ると、国ごとの違いがはっきりと出ており、非常に興味深い結果となっている。

●インテリジェントさを印象付けるには

 まず知性については、44カ国のうち、ドイツやスイス、マレーシア、中国、オーストリア、エジプトなど18カ国は、笑顔によって人が知性的に見えると考えていることが判明した。その一方で、ロシアやフランス、イラン、インド、韓国、そして日本の6カ国では、ニコニコしている人を知的ではなく、どちらかというと「バカ」だと感じることが分かった。

 ここに日本が入ってくるのを不思議に思うかもしれないが、これはあくまで「知的」に見えるかどうかが問題であり、好印象と知的さはイコールではない。確かに日本では、ヘラヘラすることはいいイメージを与えないし、企業や著名人の記者会見などでも、笑顔を含む顔の表情が注視される傾向がある。謝罪会見で苦笑でもしようものなら、メディアなどから総攻撃を受けたり、ネット上で炎上したりしかねない。

 またフランスやロシアは確かにあまり笑顔のイメージがない。フランス人はツンとして「笑顔を返さない」と言われることが多いし、ロシアにはこの調査結果の正しさを示すかのように「理由なき笑顔は愚かさの証である」ということわざがある。インド人も知らない人に対してあまり笑顔を見せないと言われる。

 この知性の結果から分かることは、海外で商談などをするビジネスパーソンは、ドイツや中国といった国では、笑顔を絶やさないことが大事だということだろう。一方、日本や韓国、ロシアなどでは商談やミーティングの場ではなるべくニコニコしないほうが、インテリジェントさを相手に印象付けることができるということだ。

 では誠実さはどうか。44カ国中37カ国で、笑顔の人のほうが、そうでない人よりも誠実に見えることが分かった。特に誠実だと見る国々は、例えばスイス、オーストラリア、フィリピンなどだ。これらの国では、警察に職務質問などされても、笑顔で答えるといいのかもしれない。

 逆に、インド、アルゼンチン、モルジブ、インドネシア、ジンバブエ、イランの7カ国では笑顔は不誠実さを示すと見られるという。そしてこれら7カ国は、世界の汚職度ランキングでも上位に入る国々であり、この論文では汚職度の高い国々では笑顔を「怪しい」と見ていると考えていいと結論付けている。またこうした国々は医療保険制度や裁判所などの社会システムが不安定であり、それが将来の生活への不安感を生み、そんな状況でヘラヘラしている人に周囲はポジティブなイメージをもたないという。

●笑顔の使い方を意識

 知的さと誠実さの両調査を合わせて見ると、インドやイランでは極力笑顔は慎んだほうがよさそうだ。どこでも笑顔を振りまいていると「バカで信用できないヤツ」だと見られかねないからだ。インドを旅行で訪れて、ニコニコ愛想を振りまいていると、もしかすると「バカっぽく騙しやすい」と見られている可能性もあるのである。

 ただもちろん、これはあくまで調査研究である。またこの調査にはアジアが誇る「微笑みの国」であるタイが含まれていないが、近年のタイ国内の情勢変化により、調査が容易ではなかったと考えられる。国の選別は意図的ではないにせよ、調査にはそうした限界もあることを忘れてはいけない。

 ちなみに、タイの笑顔について言えば、そもそも歴史的にも暴力的な衝突などが頻発してきたタイが「微笑みの国」と呼ばれること自体に無理があると報じているメディアもある。またタイの微笑みには笑い方によっていくつもの含意があると言われている。

 この研究はあくまで「知性」や「誠実」を測るという話だ。「笑う」という行為自体は人の脳を活性化させるという研究結果もあるし、「笑い」は伝播して周りに笑顔が広がり、雰囲気がよくなるという経験を誰しもしたことがあるはずだ。笑顔を不誠実と見る傾向のあるインドでも、笑顔でヨガをしてハッピーに、なんていう試みがあったりする。

 参考までに記すと、この調査を主導したポーランド科学アカデミーのクリスは、自身のLinkedInのページに掲載しているプロフィール写真ではちょっと緊張した面持ちでなかなかの笑顔を見せている。

 これまで気にとめることもなかったであろう「笑顔」の使い方を、これからは少し意識してみてはどうだろうか。グローバル化が進む現代、世界とつながるビジネスパーソンなどには、こういう研究論文も役に立つかもしれない。

(山田敏弘)

最終更新:9月22日(木)8時9分

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