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怖がりでも大丈夫、内田恭子さんオススメの後味の良いホラー小説

ITmedia ビジネスオンライン 9/22(木) 8:10配信

 この数週間で一気に秋めいてきた。朝晩だけでなく昼間でもひんやりする日が続いている。皆さんは風邪などひいていないでしょうか。

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 それにしても今年の夏は、猛暑という言葉では足りないくらい毎日暑かった。こうも暑いときにはやはり冷たいものと、ゾクッとする怪談話に惹かれてしまう。……と、至極当たり前のように言っているけれど、私は大の怖がりである。

 小さいころから誰かが怖い話をし始めると、耳をぴったりと手でふさいだ。それでも聞こえ漏れてくるから、話の間中ずっと小さい声で「あーあー」と言い続ける。小学校のときの先生がよく怖い話をする人で、本当に迷惑だった。少しでも話が耳に入ってしまうともうアウト。その日の夜どころか、2、3日は恐怖に怯え続ける。「寝ている間に足を誰かに引っ張られたらどうしよう?」「顔を撫でられたらどうしよう?」と全身汗だくになりながらも、ブランケットを頭から足先まですっぽり覆って寝ることになる。暑いし、怖いし、本当に嫌だった。

 そのビビリ症は大人になっても変わらない。どうせオバケなんて見えないのだから怖がる必要はないじゃないと、もっともな意見を言われるけれど、怖いものは怖いんだから仕方がない。

 フジテレビのアナウンサー時代、一度だけ仕事でどうしても怖い話を聞かなければならない羽目になった。本番中だから耳をふさぐわけにもいかない。恐怖にじっと耐え、何とか収録は終わった。そこからがさあ大変。番組を収録していた新宿のスタジオから本社のあるお台場まで、真昼間にもかかわらず一人で帰れなくなってしまったのだ。泣く泣くスタッフにすがりついて、一緒にお台場までお供してもらうという、非常に大人気ないことをしたものだった。

●ホラーとは知らずに読んだ小説

 そんな私が大好きなホラー小説がある。宮部みゆきさんの「三島屋変調百物語」シリーズだ。

 宮部さんはお気に入りの作家の一人。文章がきれいだし、どの作品も読後感が良い。ミステリー小説などで人間や世の中の闇の部分をどんなに書いていても、最後は救いがあるので後味が悪くないのだ。

 ホラーとは知らずにこのシリーズの第一弾である「おそろし」を読み、第二弾の「あんじゅう」、そして次の「泣き童子」と、すっかりハマってしまった。この小説には、読み終わった後に背筋がゾクッとする話ももちろんあるけれど、ただの怖いホラーとは違い、どれも心に嫌な残りかたはしない。むしろほんわりとするものもあるから不思議。人の気持ちの切なさ、もろさ、情、愛といった、誰もが心の中に持っている感情を突いてくるから、ぐっと惹き付けられてしまう。

 三島屋変調百物語の舞台は江戸。叔父夫婦が営む袋物屋の三島屋に身を寄せているおちかが主人公だ。ひょんなことからさまざまな事情を持った人たちの不思議話(変わり百物語)の聞き手を務めることとなる。おちか自身も忘れられない辛い過去があるのだが、訪ねてくる人々の不思議な話を聞いていくうちに、そして周りにいる心温かい人々と接していくうちに、閉ざしていた心を次第に開いていく。

●男の子が泣きわめく理由は……

 ある日のこと、三島屋に骸骨(がいこつ)のように痩せこけ、顔色も病人のように悪い男が訪れてくる。店先で気絶してしまうくらいに弱りきっている。ようやく目が覚めると、これから自分が固く胸に隠し通している話をするので、聞き終わったら必ず人を呼んでほしいとおちかに頼む。一体どんな話が出てくるのか、ドキドキな出だしである。

 「泣き童子」のタイトルとなったこのストーリー。三島屋変調百物語シリーズの中では珍しく恐ろしく、そして悲しい話なのだ。

 その男が語り出したのは、末吉という男の子の話だった。実の親に捨てられ、育ての親に引き取られた末吉は、言葉はしゃべらないものの3歳を過ぎたころから不思議な力を発揮するようになる。人が隠している悪事を見抜くことができ、そんな人がそばにくると火がついたように大泣きし始めるのだ。

 ある日を境にそうした状態が続き、理由が分からず末吉を持て余してしまった一家は、愛想を尽かして彼を知人のところへ預けてしまう。その間にその一家の元で働いていた職人が押し込み強盗の手引きをし、一家は全員寝込みを襲われ殺されてしまう。末吉だけがその職人の悪事を悟っていたのだった。

 その後も末吉は預けられた先で、再び大泣きを始めることとなる。そこの家の娘であるおもんが、裏切られた相手を殺めてしまったからだ。おもんを見るたびに執拗に泣き続ける末吉。我慢できなくなってしまったおもんはついに末吉を手にかけてしまう。

 ……が、話はここでは終わらない。末吉の影は死んだ後も残り続け、悪事をはたらいた者を苦しめ続ける。そして、最後は思わず本のページをめくる手を止めてしまうような結末でストーリーは終わりを迎える。

 怖がりの私はもちろんゾクっとするけれど、それよりも罪の重さに耐えきれない人の弱さだったり、それを背負い込んでしまう親心だったりがとても切ない。読み終わった後は、怖さよりも、人間の身勝手さやもろさを考えさせられてしまうのである。

 ホラーが大好きな人も、私みたいな怖がりの人も、是非ともこの1冊で、スッとひんやりする時間と、いろいろと考えさせられる時間の両方を楽しんでいただければ!

(内田恭子)

最終更新:9/22(木) 8:10

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