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2016米大統領選 争点の現場 製造業衰退 オハイオ州

産経新聞 9月22日(木)7時55分配信

 ■「オバマが街を壊した」 高い貧困率、怒りはトランプ票に

 石炭の産地として知られるアパラチア山脈のふもとにあるオハイオ州南部ポーツマスには長さ600メートルの長大な壁画がある。溶鉱炉から流れ出る真っ赤な鉄、製靴工場で働く女性たち、車や人が行き交う夜の繁華街。描かれているのは18世紀から続く街の栄光だ。

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 しかし壁画から1区画離れた街の中心部には寂しさが漂う。数軒置きにある空き店舗や窓が割れたまま放置された民家は地域経済の苦境を映し出している。

 「われわれの街はオバマ政権に壊滅させられた」

 ポーツマスがあるサイオト郡の郡政委員、ブライアン・デービス(45)は8年間の大統領任期を終えようとするバラク・オバマへの怒りを隠さない。デービスにとって、オバマが気候変動対策として進める石炭火力発電所への規制強化は石炭産業への弾圧、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は製造業の海外流出を加速させる愚策だ。

 デービスは街の衰退にあらがってきた。2009年には他の投資家とともに破綻した地元の靴ひもメーカーを買収し、休眠工場を再稼働させた。しかし生み出せた雇用は37人で、最盛期には5千人が働いていたかつての製靴産業の輝きは取り戻せていない。

 オバマの継承を打ち出す民主党候補の前国務長官、ヒラリー・クリントン(68)は信頼に値しない。期待するのは共和党候補の不動産王、ドナルド・トランプ(70)だ。

 デービスは話す。「オバマは工場で働いたことはないが、トランプは工事現場に立ち、労働者の手を握ってきた。この地域の人々はトランプには共感できる」

 こうした思いはデービスだけのものではない。6日発表の米CNNテレビによる全米での世論調査では、高卒以下の有権者の間でのトランプ支持率は51%に上り、36%のクリントンを引き離す。デービスのような白人に限れば高卒以下でのトランプ支持率は66%だ。

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 ただし低所得者ほどトランプを支持しているという構図が成り立つわけではない。同じ世論調査では年収5万ドル未満の有権者でのトランプ支持率は37%で、クリントンの47%を下回る。一方、5万ドル以上の有権者ではトランプ46%、クリントン42%と逆転する。

 8日午後、トランプの資金集めパーティーが開かれたクリーブランド市内のレストランの前にはスーツやドレスで着飾った男女が列を作っていた。横付けされる車の多くはベンツ、ジャガー、ポルシェ、ベントレーといった高級車だ。

 近くを通りかかったジェームズ・テアルズ(36)は「人種差別主義者のトランプは信用できない」と吐き捨てた。精神疾患で職を失い、この数カ月はホームレス向けの宿泊施設で暮らしているが、食事も満足にとれないという。

 テアルズが信頼を置くのはクリントンだ。「今の状況には満足できないが、オバマは支持してきた。クリントンが大統領になって奇跡を起こしてほしい」

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 トランプは8日、クリーブランドでの演説で「すべての人に成功へのハシゴを用意する」として、教育を目的とした低所得者向けの補助金創設を公約。一方のクリントンは9日に「トランプ支持者の半分は嘆かわしい人たち」と発言して反発を買うミスを犯したが、翌10日には謝罪して「本当に嘆かわしいのはトランプだ」と挽回を図る。

 状況改善の兆しもある。13日に発表された15年の全米の貧困率は13・5%で14年から大きく減った。だが、金融危機前の水準には戻っていないのも現実だ。

 州南部ローガンを拠点に低所得者向けの食料配給を行っている地域組織「HAPCAP」は15年度、12万世帯に食料を届けた。活動地域には貧困率が32%という郡もある。

 HAPCAPのケイティ・シュミッツァー(35)は「食料の配給を求める声は今も増えている。この地域には今の政治が自分たちのために機能していないと考える人も多い」と話す。大統領選は生活の改善を託すにふさわしい人物の選択でもある。(米オハイオ州ポーツマス 小雲規生)=敬称略

最終更新:9月22日(木)7時55分

産経新聞