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テニス選手に「棄権」が多いのはなぜか?賞金よりポイント獲得を重視するあまり…

産経新聞 9月22日(木)12時23分配信

 テニスの四大大会最終戦、全米オープンで、準優勝のノバク・ジョコビッチ(セルビア)が相手の棄権によって次々と勝ち上がるという前代未聞の現象が話題になった。なぜ、ジョコビッチの対戦相手ばかりが棄権だったのか。準々決勝で棄権したジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)は「ジョコビッチ相手に2セットダウンから挽回するのは不可能」と言った。トップ選手にとって棄権は敗戦と同等扱い。選手の生命線である「ポイント」を意識する中、敗戦濃厚となった時点で無駄な抵抗をせずに白旗を上げるのはある意味、賢明な選択といえる。世界中を遠征する選手は「渡り鳥」のようで、羽をゆっくり休める暇もないのだ。

 ■「ポイント」にがんじがらめ

 英国発祥のテニスは他の球技に比べてルールやマナーが厳格だ。それだけではない。ツアーを転戦する選手はポイントに縛られている。その有効期間はわずか1年と短い。故障で1年以上、戦列を離れれば、ポイントを失い、ランキングはジェットコースターのように落ちていく。旅行の愛好家がマイルを貯める感覚に似ているが、こちらは生活そのものがかかっている。

 例えば、全豪、全仏、ウィンブルドン、全米代表される四大大会の優勝ポイントが2000、その下のマスターズが1000。さらにその下のATPツアーは500、250とポイントの「ヒエラルキー」が歴然としている。換言すれば、500ポイントの大会は四大大会の4分の1ほどの価値しかない。

 ATPツアーにも出場できない選手は、さらに下のツアーで戦って、わずかばかりのポイントを積み重ねていくしかない。運よく四大大会の予選を勝ち抜いて、本戦キップを獲得したときには疲労困憊のようなコンディションで、戦ううちにバッテリー切れとなり棄権を余儀なくされるのである。

 「テニスジャーナル」元編集長の井山夏生の近著『テニスプロはつらいよ』(光文社新書)は、ツアーを戦うテニス選手の切実な問題に迫り、サブタイトルにあるような「超格差社会を闘う」現実を浮き彫りにする。井山によれば「テニスはビッグマネーが動くスポーツ」で、グランドスラムに代表される「光の世界」と、人も集まらずチケットも売れない「陰の世界」に大別できるという。ランキング下位の選手は遠征費と宿泊費を捻出しながら、無駄を省いてやりくりする。「選手は少しでもチャンスがありそうな大会を探しながら世界中を飛び回る。彼らがほしいのは賞金ではなくて、ポイントなのだ。ポイントを積み重ねることが光の世界につながっている」と説明する。

 ■「天国と地獄」はポイント次第

 今年の全米オープンの8強に、フアンマルティン・デルポトロ(アルゼンチン)という元全米覇者がいた。直前のリオ五輪男子シングルスで銀メダルを獲得し、142位で臨んだ全米準々決勝に進出、男子テニスの“下克上”が話題を呼んだ。全米を制した20歳の頃、世界5位まで上りつめたが、故障でツアーを棒に振ったためランキングが急降下。一時は引退も考えたが、リオ、全米とひと夏で光明を見出した。

 テニスのトップ選手の「寿命」は、せいぜい10年から長くても15年。日本の第一人者としてトップ10を2年以上維持する錦織圭も満身創痍でツアーを戦う一人だが、かりに1年間休養にあてて四大大会に不参加となれば、容赦なく「圏外」に落ちる憂き目に遭う。

 ここ数年、四大大会の優勝者はジョコビッチやアンディ・マリー(英国)をはじめとする“常連”で占められているが、世界ランク上位ほど年間を通じたツアーの照準を定めやすく、よりフレッシュな状態で試合に臨めることも優位にはたらく。世界ランキングに直結するポイント獲得に鬼の形相になるのは、ツアー選手の性分ともいえる。まさに“地獄の沙汰もポイント次第”ということになる。

最終更新:9月23日(金)8時41分

産経新聞

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。