ここから本文です

政府の債務残高のマクロ的な正しい考え方

ZUU online 9/23(金) 12:20配信

国は国債の元本を返済する資金が不足しているので借換債を発行する。借換債の発行が不可能になると国は債務不履行に陥る。国のファイナンスを一つの企業に例えるこのような表現はもっともらしく聞こえるが、これはミクロとマクロの誤解が含まれている。

■国債発行と通貨の関係

国が国内において、自国通貨で発行する国債の元本を借換債を発行せず完全に返済すると、民間の国債保有が減少し、円貨は増加する。この円貨は、金融機関の預金を通して、日銀当座預金に還流する。この円貨で外貨を購入しても、海外が受け取った円貨は、金融機関を通して日銀当座預金に還流する。

ここで起こっていることは、国の国債の負債は減少し、日銀の当座預金の負債が増加している。政府の当座預金は減少しているので、増加した民間と合わせて、日銀のトータルな負債に変化はない。

管理通貨制度の下では、日銀は国の信用を背景に通貨を発行しているため、国と日銀はほとんど一体であり、両者を合計すればネットの負債にほとんど変化はない。民間の資産の国債が貨幣に変わるだけである。国債の元本を完全に返済するためだけに増税するのは、国民から徴収した税を、国債の資産を持つ民間にまた償還費として返すことになるため、民間の富の移動が起こるだけである。

このように、管理通貨制度の下では、発行した国債の元本を完全に返済し、国債の負債残高を減少させることにマクロの経済的な意味はほとんどない。

■日本独自の「60年償還ルール」はグローバルスタンダードではない

2002年に格付け会社が日本国債を格下げした時、財務省は格付け会社に対する意見書で「日・米など、先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」と主張しているが、国債がこのように貨幣と同じようなものなのであれば当然である。

しかし日本には、新規に発行した国債の元本は60年で完全に返済するという、独自のルールがある。他の先進国では、国債の発行は財政の負債の反対側に、民間の資産が発生する貨幣と同じようなものとみなされている。そのため、原則として元本は完全に返済されることはなく、継続的に借換えされて、政府の債務残高は維持される。完全に返済することがない他国は、言ってみれば「60世紀償還ルール」ということになり、それが普通である。

よって日本と違い、政府予算の国債費の中には基本的に償還費は計上されておらず、国債費=利払い費となっている。

日本は「60年償還ルール」という、他国にみられない特殊なルールがあるため、政府の債務は完全に返済しなければいけない、という誤解が生まれているようだ。「60年償還ルール」の60年が長すぎるという意見はよく聞くが、そのルール自体がグローバルに異質であることの指摘が、ほとんどみられないのは疑問だ。

■1000兆円の借金返済とGDPの関係

国債の元本を完全に返済して減少させる必要があるのは、国債発行などによる需要と貨幣の過度な拡大で、景気が過熱し、物価の上昇が加速し、政策的な引き締めが必要になった場合である。デフレ完全脱却を目指す日本の現在の状況とはまったく違う局面である。

政策的な引き締め以外で、国の「借金」を返済するために、財政収支を黒字にするという考え方は、財政のマクロ議論には基本的になく、日本独自の考え方である。1000兆円を超える国の借金はどうしたら返済できるのか、返済は不可能ではないか、という問い自体、ミクロとマクロの誤解からきていると言える。

債務の負担感について、通常は、政府の債務残高自体を減らすことではなく、債務残高の名目GDP比率を低下させることが目標となる。債務残高の名目GDP比率が低下しても、債務残高自体は膨張するが、反対側で民間の資産も膨張しているため、問題とならない。

名目GDPが拡大を続けているのであれば、債務残高の名目GDP比率を低下させるために、財政収支を黒字化する必要はない。日本の政府債務残高の名目GDP比率は、アベノミクスによる名目GDPの強い拡大により、既にトレンドとして低下を始め、安定に向かっている。

他国では、安定的な財政収支は黒字ではなく、数%の赤字であることが通常である。

■無理に黒字化を目指さないのも有効か?

管理通貨制は、政府の債務が増えないと原則として、通貨供給を拡大できない仕組み(日銀は国債を裏付けとして通貨を供給する)であり、財政収支の安定する水準は黒字ではなく、若干の赤字である。

管理通貨制を採用しているのは、貨幣の発行をフレキシブルにして、経済活動の拡大より若干多い通貨供給の拡大を維持したほうが、若干の物価上昇は恒常化するが、経済活動の持続的な拡大にはよいからだ。

流動性のために通貨を保持しておくという予備的貯蓄が、経済活動を阻害しないようにするのと、インフレが債務の実質負担を軽減するため、イノベーションや生産性の向上につながる企業のリスクテイクが容易になるからだ。

無理に黒字化を目指すことは、経済活動を抑制し、名目GDP成長率を押し下げ、債務残高の名目GDP比率の低下を逆に妨げてしまうかもしれない。本来は完全に返済することのない国債の元本を、返済負担として誤解してしまうことが、財政に対する過度な不安感につながってしまっていると考えられる。

■2%の物価上昇を目指す道筋は?

通貨発行権がありずっと赤字であり続けることができ、しかもそれが経済活動の持続的な拡大のために望ましい政府を、分かりやすいという理由で、ずっと赤字であれば債務超過となり、破綻してしまう一つの企業に例えてしまうと、本質を曲げてしまうミスリーディングな解説になってしまうことには注意が必要だ。

日銀は、長短金利の操作を行う「イールドカーブコントロール」(短期:-0.1%、長期:0.0%)と、消費者物価上昇率が「安定的に2%の物価安定の目標を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するオーバーシュート型コミットメント」を加えた、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。

日銀が長期金利を政策ターゲットに追加したことは、以上のメカニズムもあり、国内で自国通貨で発行される国債の長期金利は、容易にコントロールできるという自信があることを意味する。

政府予算における1%を大幅に上回る利払い費の長期金利の前提、そして内閣府の中長期の経済財政試算での、3%を大幅に上回る2020年度(プライマリーバラス黒字化のターゲットの年度)の長期金利の前提は、引き下げることができるはずで、2%の物価上昇を目指す財政政策の余地は拡大したと考えられる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:9/23(金) 12:20

ZUU online