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チケット高額転売問題、解決策は「いろいろある」 津田大介さん・福井健策さんの見方

ITmedia ニュース 9月23日(金)10時23分配信

この記事は、J-WAVEのラジオ番組「JAM THE WORLD」で9月5日に放送された内容を、編集部で再構成したものです。

【海外では“公式ダフ”機能も】

 「音楽の未来を奪うチケット高額転売に反対します」――8月下旬、音楽関連4団体による声明が全国紙などに掲載され、話題になった。ライブチケットを買い占め、価格を釣り上げて転売する“ダフ”行為を批判する内容で、嵐やMr.Childrenなど100組以上の著名な邦楽アーティストが賛同者に名を連ねた。

 「今更じゃないか?」。音楽業界に詳しいジャーナリストの津田大介さんは、声明を見てこう感じたという。チケットをネットで高額転売する「ネットダフ屋」の問題が浮上したのは10年以上前。海外ではさまざまな対策が試みられており、一定の成果を上げている中、「日本の音楽業界はほとんど対策をせずに手をこまねいてきた」と指摘する。

 ネットダフ屋問題の本質はどこにあり、どのような対策が可能なのか――。津田さんと、エンターテインメント業界に詳しい弁護士の福井健策さんが話し合った。

●深刻化する「ネットダフ屋」問題 チケットの3分の1が転売されるイベントも

 CD市場が縮小する一方、ライブエンターテイメント市場は成長を続けている。チケット販売の主戦場がオンラインになり、ネットを通じた個人間のチケット売買が一般化する中、人気公演のチケットの高額転売が社会問題になっている。

 主な転売の場は、「ヤフオク!」などオークションサイトや「チケットキャンプ」など転売サイトだ。個人による転売のほか、転売目的でチケットを購入する「ネットダフ屋」と呼ばれる業者が、専用プログラムを使うなどしてチケットを大量に買い占め、高額で転売して利益を上げているケースもある。

 人気の公演は、チケットの転売量・額とも大きく、例えば「HiGH&LOW」(EXILEなどが出演する総合エンターテインメントプロジェクト)のライブチケットは、9月23日時点で「チケットキャンプ」に約5000件の出品があり、最高18万円で取引されている。

 「チケットキャンプではこれまで、HiGH&LOWだけで累計5万2000枚以上の取引が成立している(9月23日時点)。イベントによっては3分の1ぐらいのチケットが買い占められ、転売サイトで出回っているとも言われ、問題はどんどん深刻化している」と福井さんは指摘する。

 チケットがダフ屋によって買い占められ、高額で転売されるとどんな問題があるのか。声明では、

(1)チケットが本当に欲しいファンの手に入らない

(2)高額な転売チケットを購入したファンが経済的負担を受け、グッズ購入などの資金が減る

(3)入場できないチケットや偽造チケットが売られるなど犯罪の温床となる

――などを挙げている。

 津田さんは、「定価で買えたかもしれないチケットに高額を支払わされ、上乗せされたお金はアーティストに還元されない。ファンも音楽業界も誰も得をしていない」と指摘。利益を得るのはダフ屋と転売サイトだけだ。

 転売サイトはどの程度の利益を得ているのか。チケットキャンプの場合は、出品者・購入者双方から転売価格の5%を手数料として徴収している(チケット価格が8000円以上の場合)。「チケットキャンプでは、HiGH&LOWのチケット(定価1万2960円)は平均して1万円以上上乗せされて転売されている」(福井さん)ことから計算すると、5万2000枚で10億円以上が動き、運営側は1億円を超える収益を上げているとみられる。

●高値転売は「市場原理」?

 一般的に、日本のライブチケットは座席間の価格差が小さく、1階最前列も3階最後列も同じ値段であることが多い。前の席のチケットは、価格に対して需要が極端に大きいため「転売すればもうかりそうな価格」(福井さん)になっており、これがダフ屋の暗躍を助長しているとの指摘も根強い。

 「高額でもいいからどうしてもライブに行きたいファンもいるし、必要悪と考える人もいるだろう。供給と需要が非常に不均衡だから起こる問題で、当然の市場原理だという指摘もある。公演回数を増やしたり、需給バランスに見合った適正なサイズのハコでできればいいのだろうが、会場不足は深刻でアーティスト側が選べる選択肢も限られているため、こうしたミスマッチがなくならない」(津田さん)。

 欧米では、席によってチケット価格に差がついていることが一般的。日本でも歌舞伎などは席によって価格差が大きい。音楽ライブのチケットのみ、座席にかかわらず価格が一律な傾向にあるのはなぜなのか。「一つには、アーティスト・ファン双方のある種のロマンチシズムがある」と福井さんは言う。

 「ライブ中に『3階席のみんなの顔もよく見えるよ!』と叫ぶアーティストもいる。アーティストとしては、ファンはみんな平等だから、平等な条件で売り出し、最前列から最後列までみんなが楽しめるイベントにしたいという思いがある。実際、ライブの盛り上がりはファンとの共同作業なので、その中心層が良い席から排除されない狙いもあっただろう」(福井さん)。

●CDが売れていた時代は良かったが……

 問題の背景には、音楽業界のビジネスモデルの転換もあると、津田さんは指摘する。「日本の場合、CDがたくさん売れていた時代は、ライブがファンへの還元やプロモーションの役割という側面が強かったため、採算を気にしない公演も多く見られた。レコード会社に体力があった頃は、アーティストが所属する事務所に“支援金”という名目で、お金も流していたこともその構造に拍車をかけた」。

 「CDの売り上げ減が日本よりも顕著だった米英では、2000年代後半ごろから、CDからライブへのアーティストのビジネスモデルシフトが進んだ。レコード会社も“360度契約”と呼ばれるライブやグッズ売り上げから収益を得る契約に変わり、人気アーティストのチケット価格も高騰していったが、日本ではCDがまだそこそこ売れていたため、そうした動きに乗り遅れ、チケット価格も上がらなかった」(津田さん)。

 日本の音楽業界も変わるべき時期に来ていると福井さんは言う。「どうせ“ファン平等”は高額転売で崩れた。たくさん払える観客はいい席を高額で買って公演の収支を潤してもらい、代わりに後ろの席は低価格にしてリピーターの懐を楽にしてあげるなど、“全員が平等”ではないかもしれないが、価格に弾力性を持たせる方に舵を切るべき時期が来ていると思う」(福井さん)。

 最近は日本でも、チケットに価格差をつける音楽イベントが増えつつあるという。例えば、ダンスミュージックのイベント「ULTRA JAPAN 2016」は、1万3000円の「GA席」、3万円の「VIP席」、推定数十万円(価格は非公表)の「VVIP」席を用意。「価格差をつけて客の待遇にも差をつける」(津田さん)ことを試みている。

●一律料金、JASRACも原因に?

 日本のライブチケットの席ごとの価格差が小さいのは、日本音楽著作権協会(JASRAC)の著作権使用料が影響しているとの指摘もある。

 JASRACは、ライブの著作権使用料を「平均チケット価格」×「会場の定員」に基づいて算出している。例えば、10万円の席がごく一部あり、残りは1万円のライブだと、平均チケット価格が「5万5000円」になり、著作権使用料が極端に高額になってしまう。「音楽業界は、この計算方法が時代に合わないから変えてくれとJASRACに要望したほうがいいんじゃないか」(津田さん)。

●海外では「公式ダフ機能」も

 ネットダフ屋対策として、海外には先進的な例がある。マドンナも契約する世界最大のイベントプロモーション会社・米Live Nation傘下のチケットオンライン販売企業、Ticketmasterの取り組みだ。

 Ticketmasterは、人気公演のチケットの「公式オークション販売」を実施。オークションで価格が跳ね上がっても、価格に応じた手数料をアーティストや興行主が受け取れるという「プラグマティック(実利的)でいいやり方だ」(津田さん)。

 さらに、チケット購入者が自由に値段をつけて再販売できるリセール機能も実装。主催者が再販売に同意したチケットについては、購入するとすぐ「売る」ボタンが表示され、購入者が価格を決めて売り出せる。「オンラインのダフ屋に荒らされるぐらいなら、公式に“ダフ機能”を提供し、差額の一部を主催者に還元できる」(福井さん)仕組みだ。

 日本では、行けなくなった公演のチケットを定価で再販できる機能を「チケットぴあ」などが一部で提供しているが、広く普及はしていない。「不要になったチケットを、少なくとも定価以下でなら楽に再販できる仕組みは整備すべきだろう」(福井さん)。

●「本人確認」で対処できる

 ダフ屋による転売目的のライブチケット買い占め対策として最も有効なのは「厳正な本人確認」だと津田さんは指摘する。会場でしっかりと本人確認し、チケットを購入した本人しか会場に入れない仕組みにすれば、転売は難しくなる。

 国内でも一部イベントで顔認証を導入。例えば「ももいろクローバーZ」のライブでは、係員が来場者の顔をタブレットで撮影し、事前に登録してある写真と照合する認証システムを導入している。

 また、チケットを電子化すれば、都合が悪くなって行けなくなった公演のチケットの権利をオンラインで“返品”したり、他の人に譲るシステムも構築できる。「日本の興業業界が、古い紙のチケットにこだわるやり方を続け、システムの変更を先延ばしにきたツケがいま噴き出している面もあるのでは」(津田さん)。

●ネットダフ屋を規制する法律はあるか

 ネットダフ屋を規制する法律はあるのだろうか。チケットショップやイベント会場などリアルな場に現れるダフ屋は、都道府県の迷惑防止条例で規制されている。「チケット売り場などでうろついたり人につきまとったりし、公共の場所で人々に迷惑をかけている」ことが規制理由になっていると、福井さんは説明する。

 迷惑防止条例でネットダフ屋も規制できるかはあいまいだ。「ダフ行為の中心的な場所がネットに移った以上、ネットも『公の場所』だと言ってしまえば迷惑防止条例で処罰できるかもしれないが、そこには不明確さがある」(福井さん)。

 ただ「現行法でも対処できる」(福井さん)とも。「高値で転売されたチケットは、主催者が規約違反で無効化する可能性がある。入場を拒絶される恐れがあるチケットを人に売る行為は、詐欺罪に当たる可能性があり、主催者に対する業務妨害罪の可能性もある。悪質な場合は刑事告訴され得るし、おそらく今後増えるだろう」。

 9月14日には、嵐のチケットをネット上で無許可で転売したとして、古物営業法違反(無許可営業)の疑いで、香川県の25歳の女が逮捕された。2年前からチケット約300枚を転売し、計約1000万円を売り上げていたとみられている。

 「転売チケットは古物とされ、営業として売買を行うなら古物営業の許可がいる。逮捕された方は、転売の規模が大きかったため『営業』だと判断されたのだろう。これは営業許可を取れば済む話ではあるので、本当の転売業者への対策にはならないかもしれない。ただ、一般人には手続は重荷だし、逮捕者まで出たことで意外と抑止効果は大きい気がする」(福井さん)。

●法改正は必要? 不要?

 今回の声明を皮切りに、音楽業界がネットでのチケット転売を規制する法改正を目指し、ロビー活動をするだろうと津田さんは予想。米ニューヨーク州などでは、チケットを定価より高く転売するネット上のダフ行為を処罰する州法があり、日本の音楽業界もこのような法律の導入を目指す可能性があると、福井さんは話す。

 津田さんは、「法規制までする必要があるのか」と疑問を呈する。「本人確認を徹底したり、チケットに価格差をつけたり、Ticketmasterのような公式転売の仕組みを提供するなど、複合的な取り組みで対処できる問題で、法規制は行きすぎじゃないか。ある程度は市場原理に任せるのも必要じゃないか」。

 福井さんも「法規制ばかりが対処法じゃない」と同意。「いろんなメニューを整え、ダフ屋に悪用されにくいチケットの売り方を工夫することが大事だし、そちらの方が実効性はある」。

 ただ、「それでも悪質な買い占めや転売行為は残るだろう」(福井さん)とも。例えば、QUEENの来日コンサートのチケットは、座席によって定価が1万2500円~4万円と価格差がついているが、チケットキャンプには全席種が高額で出品・転売されている。「完全オークション制などでない限り、どんな価格でも買い占めて儲けようという行為は出てくる。それに対しては、法改正などの毅然とした対応も必要だろう」(福井さん)。

最終更新:9月23日(金)10時23分

ITmedia ニュース

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