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AWSは好敵手――、クラウドナンバーワンを目指す日本オラクル・杉原博茂社長の“次の一手”

Impress Watch 9月23日(金)11時28分配信

 「AWS(Amazon Web Service)は、日本オラクルにとって好敵手。日本の市場に対して、適正でクリアな情報を提供していきたい」――。

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 日本オラクルの杉原博茂社長は、米国サンフランシスコで開催さたれOracle OpenWorld 2016の会場でこう切り出した。同イベントでは、第2世代と呼ぶIaaSを発表。米Oracleのラリー・エリソン経営執行役会長兼CTOが、AWSへの対抗姿勢を強く打ち出してみせた。

 日本オラクルの杉原社長も、日本においても、AWSを意識したマーケティング活動を展開する姿勢を示しながら、これによって顧客に対する選択肢を提案。クラウドビジネスを加速する姿勢を示す。Oracle OpenWorld 2016での発表が、日本オラクルの戦略にどう影響するのか。杉原社長に現地で聞いた。

■創業者が自らの言葉でどの方向に向かっていくかを明確に示した

――今回のOracle OpenWorld 2016に参加してどんな感想を持ちましたか。

 私が強い印象を受けたのは、2回にわたる、ラリー(=ラリー・エリソン氏)の基調講演です。テクノロジーに言及しながら、わかりやすく次世代のクラウドの姿を説明していたことを感じました。

 今回の基調講演では、AWSへの対抗意識を強く打ち出していましたが、それについても、単に揶揄するというのではなく、AWSの技術はどこから派生して、いまにつながっているのか、それに対して、Oracleの技術は、どんなものであり、どんな形で対抗していくのか、ということを明確に示したといえます。

 Oracleは、「技術」を標ぼうすることができる企業であり、イノベーティブなことに対しては、しっかりとリスペクトをする企業です。AWSのイノベーティブさをしっかりと評価している。そして、若いイノベーティブなAWSに対しても、果敢に挑戦していく気持ちを持っている。これは、ほかのベンダーにないところだといえます。ラリーは、72歳という年齢ではありますが、創業者が自らの言葉で、どの方向に向かっていくのかということを明確に示したといえます。

 クラウドへの取り組みは、一見すると、モノづくりとは相反するように聞こえますが、Oracleは、モノづくりをしているからこそ、クラウドにシフトすることができ、AWSへの対抗として、新たな選択肢を提供することができる。そして、そこには、確固たる技術の強みがある。それが、Oracleの特徴だといえます。

 もうひとつ見逃せないのが、マーク(=マーク・ハードCEO)の基調講演のなかでは、フランスの第1種電気通信事業者であるオレンジや、香港のメガバンクであるHSBCが、ERPクラウドの採用を相次いで発表したことです。

 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる、先が読めない社会が訪れるなか、こうした大手企業がクラウドを採用し、トラディショナルなIT基盤から抜け出すことで、スピードとフレキシビリティを実現。新たなチャレンジを始めたともいえます。これからの動きを象徴するような事象ではないでしょうか。

 今回のOracle Open World 2016では、日本からも大手ユーザー企業の方々が参加し、数10件のミーティングを通じて、私も、直接、お話をする場を得ましたが、クラウドに積極的に移行したいという要望が高まっていることを肌で感じました。

 ERPクラウドやHCMクラウドなどへの関心が高まり、エンタープライズレベルのハイブリッドクラウド、マルチレイヤーのクラウドに関する情報を仕入れ、これを積極的に検討していきたいという声を数多く聞きました。クラウドに対しては、まだネガティブにとらえる企業が多いと思っていましたが、今回のOracle Open Worldでは、どうやってクラウドに移行したらいいのかという、具体的な相談が多かったといえます。

 古くなった基盤をどうするのか、クラウドに移行するにはどうしたらいいのか、ということを真剣に考えている企業の姿を見ることができました。これは、非常に印象的な出来事でした。顧客がクラウドに対して、ボジティブであり、日本オラクルにとってもフォローの風が吹いているといえます。テスト環境で試しにAWSを使ってみても、本番環境ではやはりOracleである、という声も多かったですね。

■クラウドの旅路への明確な提案を

――クラウドへの移行は、一気に加速するのでしょうか。

 私は、2020年になると、クラウドが当たり前の時代が訪れていると考えています。それに向けて大切なのは、人材をしっかりと確保することです。今回のIaaSの発表によって、Oracleは、すべてのクラウドサービスを揃えることができました。そうしたなかで、今後は、大規模な基幹系業務アプリなどをクラウドにリフレッシュするといった動きが多数出てくるでしょう。

 それに対して、今後、日本オラクルに求められるのは、ビジネスコンサルティングをいかに強化するかという点だと思っています。現在、「インサイト」と呼ぶビジネスコンサルティング部門を設置していますが、まだまだ少人数です。マッキンゼーやボストンコンサルティングといった企業から来ていただいた人たちで構成されており、これからも強化を進めていきます。

 もうひとつは、エンタープライズアーキテクトの人たちの強化です。これを、クラウドアーテキクトという組織へと進化させ、さらにビジネスコンサルティング部門と連携させながら、「クラウドへの旅路」の具体的な提案をしていくことになります。

 Oracleの場合は、オンプレミスをプライベートクラウドへとモダナイズするだけに留まらず、パブリッククラウドの提案、ハイブリッドクラウドの提案、マルチベンダー環境の提案も可能です。日本オラクルは、ビジネスコンサルティングによる深い提案と、Oracleダイレクトを通じた中堅・中小企業向けの導入提案という幅広い選択肢をもとに、全方位ともいえるトータルスイートの提案を、俊敏性を持って展開していくことになります。

■日本オラクルにとっての意味は?

――今回のOracle OpenWorld 2016は、日本オラクルにとっては、どんな意味を持ちましたか。

 今回のOracle OpenWorld 2016では、OracleがIaaSを本格的にやっていくということを宣言しました。日本オラクルは、2020年に、日本でのクラウドナンバーワンを目指す「ビジョン2020」を推進しており、今年度は、基盤固めとする最初の3年の最終年度に入ります。

 そのタイミングでSaaS、PaaSに加えて、IaaSを本格的に立ち上げ、ポートフォリオを揃えることができ、トータルスイートとして揃えることができた。IaaSは、日本でもいち早く展開していきたいと考えています。その点でも、今回のOracle Open Worldはエキサイティングなものになったといえます。

 日本の顧客にとっても、プラスになる要素が大きかったのではないでしょうか。日本では、Oracleのクラウド戦略が見えにくいと言われていた部分もありましたが、今回の発表によって、日本の顧客に対しても、わかりやすい形でクラウド戦略を説明できるようになると考えています。クラウドに移行するための提案している「5つのステップ」を改めて訴求するとともに、今回発表したCloud@Customerへの取り組みを通じて、日本のユーザーにとって、プラスになるような提案を行っていきたいですね。

――日本でのIaaSの提供時期などはどうなりますか。

 もちろん、Oracle OpenWorld 2016での発表と同期する形で動くことになりますが、日本については、具体的にどう動くかをこれから検討していくことになります。日本における提供時期については、現時点では、「できるだけ早く」というコメントにとどまりますが、年内から年初にかけて、具体的な発表をしていきたいと思っています。

 ただ、IaaSを発表したから、とにかく早くやるんだという気持ちはありません。もちろん、いますぐに欲しいという顧客に対しては、すぐにサービスを提供することは可能ですが、日本のデータセンターを使ったIaaSをどうするか、ということについては、もう少しじっくりと考えていきたい。

 新たなIaaSのサービスを開始するには、ネットワークの環境をどこまで、どう整備していくのかということが重要になりますし、やるのならば、しっかりとした形で、日本の顧客に満足してもらえるものを提供することを優先したい。クラウドはサブスクリプションベースのビジネスであり、売り切りではありません。着実に、しっかりしたものを提供できる体制を作ります。

 一方で、富士通との戦略的提携によって、日本においてもIaaSを提供していく姿勢は変わりませんが、これがプライマリというわけではありません。もっとオープンに展開し、ほかのパートナーとも組みながら、OracleのIaaSを積極展開し、顧客の選択肢を広げていきたいと思っています。

 日本オラクルが提供するIaaSは、単に価格の観点から提案をするものではなく、SPARCをベースにしたIaaSであるとか、ベアメタルであるとか、様々なコンビネーションでの提案ができる。日本の顧客にどんなサービスが向いているのかといったことを精査し、さらにパートナーとの連携によってどんな提案をすることができるのかも重要なファクターだと考えています。ここはしっかりと準備していきます。これから日本においても、IaaSについて、かなり力を入れて、プロモートしていくことになると思ってください。

■AWSとは明確な違いを説明していく

――IaaSに関しては、ラリー・エリソン経営執行役会長兼CTOが、基調講演を通じて、AWSと徹底的な比較を行い、Oracleの強みを訴求していました。まさに、AWSへの宣戦布告でした。日本でも同じマーケティングメッセージを展開することになりますか?

 ここはマーケティング部門と相談しながらやるのが基本ですが、まぁ、私の場合は、勝手に「暴走」することも多く(笑)、それを待たずに動き出すこともあり……。

 ただ、私が感じているのは、日本人の特性は、「ここだ」ということで動きはじめると、猫も杓子もそうなってしまう傾向があるという点です。ハイパーバイザーにしても、みんながVMwareを使うといえば、みんながVMwareになってしまう。AWSもそうした傾向があります。

 そうではなく、私は、日本の市場に対して、適正でクリアな情報を提供したいと考えています。そのためには、オブラートに包んだ言い方よりも、AWSの場合はこうである、Oracleの場合はこうであるというように、明確な形で説明をしていきたいと考えています。

 先日も、日本でのイベントにおける講演資料において、当社のマーケティング部門が、A社、B社という表記したので、「はっきりと社名を書いてくれ」と要望しました。日本は、すでに「昭和」ではないんだ。もっとグローバルの視点から見て、なにがいいのかという観点でやっていけば、顧客やパートナー、そして、メディアの方々もわかりやすいと感じてくれるはずと考えたわけです。選択肢を提供し、選んでいただけるようにすることこそが、いまの日本に求められているといえます。

 振り返ってみますと、日本は、江戸時代には、街道沿いに、「元祖」に対して、「本家」という店が出店し、まさに競い合っていた。それが明治になり、大正になり、昭和になると、そうしたことができずに、競合する際のメッセージもグレーになってきた。日本オラクルが、明確なメッセージを発信すれば、きっと、AWSも新たな情報を発信することになる。日本IBMをはじめとする、他の競合他社も同様に情報を発信することができる。パートナーもそれは同じであり、富士通や日立も自分たちからもっと情報を発信していくべきです。それこそが、顧客にとってもいいことにつながると考えています。

 確かにこれまでは、AWSと正面から競合するということは、正直ありませんでした。ただ、Amazonというブランドは、eコマースから発生し、多くの人が知っている。その力もあり、サブシステスムでは、AWSを採用する顧客が増えているのも事実です。

 とはいえ、全世界で活用されているITシステムにおいて、クラウドの使用率はわずか5%。日本では、これからクラウドが普及する上で、AWS一辺倒になるのではなく、AWSが提供できていない機能を、日本オラクルが提供できるということを示して行かなくてはなりません。これによって、顧客にIaaSの選択肢を提供することができる。

 一方で、あえて、AWSに要求したいのは、日本オラクルの社員を採用していくのを止めて欲しいという点ですね(笑)。エンタープライズを詳しく理解している人材が欲しいとなると、どうしても日本オラクルが対象になりますからね。

■コンサルの領域から、ビジネスにどう生かせるかを考える必要がある

――しかし第2世代のIaaSの開発においては、AWSや米Microsoftなどの開発者を、数百人単位で米Oracleがリクルートしたという経緯もありますね。

 それは、Oracleにとって大きな意味がありました。その点では、日本では、逆に、営業部門の人材を取られているということになります(笑)。いま、AWSが日本において欲しいのは、エンタープライズの知識を持った営業の人材なのでしょう。

 好敵手という言葉がありますが、Oracleからすれば、AWSは、まさにその領域に入ってきます。しかし、AWSにとっては、もしかしたら、そうした意識はまだないのかもしれません(笑)。オンプレミスの顧客を多く抱えた、トラディショナルな企業であり、死にかけの恐竜のように思っているのかもしれませんね(笑)。

 ただOracleは、トラディショナル企業から脱却するためのカンフル剤を積極的に打っていますから、その姿は過去のものでしかありません。たとえば、今回のOracle OpenWorld 2016で新たな発表されたOracle Ravello Cloud Serviceは、Ravelloという会社を買収し、その技術を活用して、VMwareやKVM(Kernel-based Virtual Machine)のワークロードを取り込み、Oracleパブリッククラウド上でそのまま実行できるようにした業界初のクラウドサービスとなります。VMware環境のIT資産を、今後、どうしようかと悩んでいる顧客が多いなかで、安心してパブリッククラウドに展開できるようになる。

 ただ、ここで重要なのは、クラウドに移行するということではなく、トータルのOPEXを下げることにつながるという点です。CEOに求められているのは、売り上げを上げ、コストを下げ、利益を高めることです。そのための手段がクラウドであり、そこに日本オラクルが貢献できる。

 デジタルエイドと呼ぶように、ITインフラありきではなく、ビジネスに貢献するITプラットフォームはなにかということを考えると、ビジネスコンサルティングの領域から、ビジネスへのインパクトを考えていく必要があります。これは日本IBMをはじめとして、30年以上にわたって、IT産業が取り組んできた仕組みです。

 ところがクラウドになって、コストが優先されて、それが置き去りにされてきた反省がある。いまこそ、そこに、日本オラクルの強みが発揮できると考えています。

 言い換えれば、日本オラクルは逆張りの戦略を打っているともいえます。他社がエンタープライズセールスを分散させているときには、むしろ私はエンタープライズ専任部門を設置した。今回も専任のアーキテクトを採用して、コンサルティングの人材を採用し、顧客のビジネスイシューをどうやったらテクノロジーで解決できるのかということに、力を注ぐ体制を強化しました。

 なんでもかんでもAWSではなく、Oracleという新たな選択肢を、ビジネスメリットの観点から提供していくことになります。

――一方で、9月21日に、日本オラクルは、2017年度第1四半期(2016年6~8月)の業績を発表しました。その成果をどう自己評価していますか。

 日本オラクルは、通期で前年比1~4%増の事業成長をコミットしていますが、第1四半期の実績は、売上高が前年同期比2.7%増の385億9100万円となり、Oracle全体と比べても遜色がない結果を出すことができました。

 なかでも、クラウドの売上高は前年同期比83.9%増となり、計画通りに推移しています。さらに、SaaSとPaaSの新規受注は、前年同期比306%増と前年比4倍になっており、120社以上の新規企業を獲得している。

 クラウドの数字はまだ小さいのですが、この成長を今後も堅持したいと考えています。PaaSでは、Database as a Serviceが堅調に推移していますし、SaaSでは、中堅企業がERPクラウドを採用しているのに加えて、大手企業が関心を寄せていることが見逃せません。日本オラクルのクラウド事業をこれからも加速していきます。

クラウド Watch,大河原 克行

最終更新:9月23日(金)11時28分

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