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娘無戸籍30年、孫まで…DV夫から逃れた女性、「民法の壁」違憲提訴

産経新聞 9月23日(金)14時55分配信

 ■嫡出否認は夫のみ

 神戸市内の60代の女性が今年8月、親子関係を否定するための訴訟提起を夫にしか認めていない民法の規定は憲法違反だとして、国に損害賠償を求める訴訟を神戸地裁に起こした。女性は日常的に暴力を振るう夫から逃げ出した後、別の男性との間に娘を授かった。しかし明治時代から続く民法の規定によって娘は夫の子となるため出生届が出せず、30年もの間、無戸籍に。無戸籍となった原因は、この「民法の壁」だとする人が多いといい、訴訟の行方が注目されている。(猿渡友希)

 ◆「別れるなら殺す」

 訴状や女性によると、女性は昭和50年ごろ、夫と結婚。まもなく子供が生まれたが、夫は日常的に暴力を振るうようになった。

 夫は「別れるというなら、俺はきっといつかお前を殺す」と脅し続け、さらに「お前が逃げれば子供を殺す。お前と子供が逃げればお前の親や親族を殺す」とも言った。女性は福祉施設や家庭裁判所に子供の保護を頼んだが、当時はDV(ドメスティック・バイオレンス)への認知度が低く対応してくれなかった。

 「いつか殺されると本気で思った」。女性は57年のある早朝、子供とともに家を飛び出した。子供を親族に預け、半年間で15回の引っ越しを繰り返した。

 「外にいても夫がいたらと思うと顔を上げられず、毎日生きた心地がしなかった」

 その後、別の男性と暮らすようになり、58年、男性との子となる娘を出産した。出生届を提出したが、娘を妊娠したのは夫の元を逃れてから3カ月後。民法772条の「妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する」という「嫡出推定」によって、男性を父とする出生届は不受理となり、娘は無戸籍となった。

 家裁や市役所などに通ったが、「夫への事実確認が必要」と言われた。男性が「父」とするDNA鑑定の結果を持参しても、夫の証言が優先するとされた。娘が3歳になったころ、夫から離婚を求める手紙が突然届き、離婚が成立。それでも状況は変わらなかった。

 やがて娘は結婚し、平成22年、子供が誕生した。だが、娘が無戸籍だったため、孫も無戸籍になった。

 ◆「強制認知」で解消

 「このままでは娘や孫、その孫まで無戸籍が続いてしまう」。女性が行き着いたのは一つの裁判だった。

 それは、前夫から暴力を受けて別居中に別の男性との間に生まれた子供の出生届が受理されず、子供が無戸籍となった岡山県内の女性が起こした損害賠償訴訟。女性は21年に、無戸籍となったのは「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」とする民法の規定が原因で、同規定は憲法の「法の下の平等」に反するとして、国などに損害賠償を求めた。

 この訴訟は23年、最高裁が原告の訴えを棄却し、敗訴が確定したが、神戸市の女性は、原告の代理人を務めた作花知志弁護士(岡山弁護士会)に自らの境遇を相談した。25年に女性が元夫の戸籍を取り寄せたところ、前年に亡くなっていたことを知った。娘が家裁に、男性を父とする「強制認知」調停を申し立て、改めて出生届を提出。今年になって娘と孫の戸籍が作られた。

 ◆明治から続く規定

 現行の民法では、嫡出推定が及ぶ子供について、親子関係を否定するためには「嫡出否認」の訴えを家裁に起こす必要があるが、これは夫のみに認められている。その上、夫が子供の出生を知ってから1年以内に限られ、それ以降に嫡出推定を覆すことはできない。こうした規定は明治時代から続いている。

 一方、妻や子は強制認知などの調停を家裁に申し立てることができる。ただ、夫婦関係の実体がないことを証明する必要があり、調停などの場に夫が出席して事実確認するケースもある。今回の女性のように夫のDVから逃れた場合、これは不可能に近い。

 法務省によると、無戸籍の人は全国に702人(8月10日時点)おり、このうち嫡出推定を理由とする人が76%を占める。離婚調停が長期化する中で別の男性との間に子供が生まれ、出生届を出せないなどのケースが多いという。

 作花弁護士は「元夫が子供を自分の子としてしまったら、それを否定する手立てが妻にはない。暴力が怖いのはもちろんだが、多くの女性が訴えをためらう理由はここにある。嫡出否認の訴えを妻からもできたら、今回の問題は起きなかったかもしれない」と指摘している。

最終更新:9月23日(金)16時8分

産経新聞

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