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誤った死亡宣告で本人大慌て 復活かなり困難

ウォール・ストリート・ジャーナル 9月23日(金)14時17分配信

 【グレーブズエンド(英イングランド)】英国イングランドのグレーブズエンドに住むアンディ・カーチンさん(56)は、自分が死んだとされる日のことを覚えていない。彼は昨年のその日、南アフリカ共和国に住む兄弟を訪ねていた。「当時、サファリに行っていたのかもしれないし、あるいは家で酒を飲んでいたのかもしれない。何曜日だったかすら分からない」という。

 死亡したとされる日は2月7日だった。数日後、カーチンさんはイングランドにいる娘から悲痛な電話を受けた。彼が7日に死亡したという手紙を市役所から受けたというのだ。手紙はまた、カーチンの遺産管理人に対し、彼に税金の未納分がないことを通知していた。カーチンさんは「少なくとも、それを知らせてくれたのは良かった」と冗談めかして語った。

 その後しばらくして、カーチンさんの年金支給が止まった。彼が理由を尋ねようとして英労働年金省(DWP)に電話すると、担当の役人はこう答えた。「そうですね。それはあなたが死んだからでしょう」

 そこでカーチンさんは「『でも、わたしは死んでいないよ』と言い返した」という。

 この世に「官僚制度(ないしお役所仕事)」が誕生して以来ずっと、役人たちは健康な人々の命をうっかり終わらせてきた。米国だけで毎年1万人近い人々が誤って死亡宣告されている。悪意は全くなく、コンピューターのボタンを間違って押したというだけの理由でだ。それでも米社会保障局(SSA)によれば、その数はSSAの保有している「死亡マスターファイル」にある全死亡宣告のうちの0.5%未満だという。

 しかし、世界のいたるところで発生しているこの災難のもう片方の側面が語られることはほとんどない。生きているという事実を完全に取り戻す努力の困難さだ。

 トルコではシナン・アブチさん(47)という男性が、10年以上にわたって法律上の戦いに巻き込まれたままだ。自分が生きていることを当局に納得させ、年金を得るためだ。近所の人たちは彼を「死人のシナン」と呼んでいる。

 米国では2014年春、空軍の退役軍人ジョセフ・ケーン氏(79)の妻が退役軍人省から突然お悔やみの手紙を受け取った。だがケーン氏は妻と一緒にフロリダ州で文字通り「生きて」いた。同氏は地元のデービッド・ジョリー下院議員(共和)に話を持ち込んだ。誤って死亡宣告された人々を支援している議員だ。同議員は空軍に手紙を書き、ケーン氏が依然として地元で生きていると知らせた。

 ケーン氏はその後、地元の退役軍人(VA)事務所に向かった。VAの女性当局者は彼の書類をチェックした後、その書類ファイルに「退役軍人が、自分が死んでいないことを実証するため、222号室に自ら(in person)やって来た」と書いたメモを添付した。しかも彼女は「person」の個所を強調するため2度アンダーラインした。こうしてケーン氏はよみがえった。

 冒頭のカーチン氏は、イングランドの故郷グレーブズエンドに戻ると、自らの死亡について調査し始めた。最初に地元の市役所に行ったが、税務署に聞いてみるように言われただけだった。

 同氏は「税務署の役人に『わたしは実は死んでいないのだ』と電話で伝えると、『カーチンさん、わたしはあなたの言うことを信じるが、死亡している場合、あなたを(登録の)システムに戻すことはできないのです』と言われた」という。

 彼はその後、労働年金省に電話をした。電話ではまた埒(らち)があかなかった。カーチンさんによれば、同省の役人が彼の自宅を訪れた。役人は彼の誕生証明書とパスポートを見せてほしいと告げた。

 カーチンさんは「彼はわたしをみつめ、その後パスポート写真を見た」と述べ、「最終的に彼は『そうですね、あなたが生きているのは明白だ』と言って納得した」という。

 労働年金省の広報担当官は、この種のケースは極めてまれだが、二度と起こらないよう措置を講じるつもりだと語った。地元の市役所は、誤りは市役所から出たものではないと前置きした上で、カーチンさんに謝罪したという。

 カナダでは、同国の納税者オンブズマン(行政機関監視団体)が「生きていて健康」と題するリポートを発表し、2007年から13年までに同国の税務当局が誤って死亡者リストに入れた人数は5000人強だったと述べた。政府は、その後この誤ったリストを変更したとし、こうした誤った死亡宣告ケースは減少していると述べた。

 今年5月、米退役軍人省は、過去5年間に誤って死亡宣告を出して年金を停止した退役軍人の数は4000人強だったと述べた。昨年は、このようなケースが2011年以降で最多だったという。

 同省によると、死亡宣告の正確な比率は約99.8%という。それでも、昨年記録された死亡者は39万人で、「生きている死人」、つまり誤って死亡宣告された人は約1000人に上る。同省はこうしたケースが発生した時、一般的には直ちに修正していると述べる。

 米ベントレー大学(ボストン郊外)の個人情報窃盗問題の専門家スティーブン・ワイズマン氏は、「それは統計的に大問題ではないようにみえるかもしれないが、多く発生するようになっている。あなたが本当に死んでいないなら、ゆゆしき問題だ」と述べた。そして「事務担当の役人がキー入力で誰かの一生を終わりにするのは、極めて簡単になっている」と語った。

By GEORGI KANTCHEV

最終更新:9月23日(金)14時17分

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