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秘境に残る奇祭、神さまに指名された男が見た景色 「普段はIT社長なんですが…」

withnews 9/24(土) 7:00配信

 1年に一晩だけ神になる男がいる。山里で続く奇祭で、闇夜を疾走する姿を確かめようと、この夏、会いにいってみた。祭りの熱に包まれながら、見物客が引き揚げ始めた午前2時ごろ。白装束の男性は、汗びっしょりで立っていた。どんなあいさつがふさわしいのか迷いつつ「お疲れさまです」と声をかけた。にっこり笑顔を返してくれた神の名は、白川晃太郎さん(43)。「普段は何をしているんですか?」。「ネット企業を経営しています」。えっ、ネット企業の社長が神様って……。(朝日新聞統合編集センター記者・山下周平)

【画像】炎の中を疾走、神になった男の「形相」

「神に捕まると、3年以内に死ぬ」

 その祭りは岡山県の山間部、美咲町に700年以上続く「二上山護法祭(ふたかみさんごほうさい)」というもの。

 五穀豊穣を祈ったり、厄払いをしたりする地元密着の祭りだが、県外や海外から見物客が訪れる。
 
 なにしろ「神の行く手を邪魔して、神に捕まると、その人は3年以内に死ぬ」という言い伝えがあるのだ。

 真偽を確かめようと毎年、血気盛んな若者がやってきて、神とさながら鬼ごっこ状態になる。

 岡山で勤務していた2014年に取材した時も、怖い物見たさだった。

 黒装束に真っ白な紙でできた帽子をかぶって走る奇妙な神の姿と見物客の熱狂ぶりに、心をつかまれた。
 
 その時の「神」は紙屋照夫さん(81)で、30年あまり立派に努めたあげた末の、ラストランだった。年齢には勝てなかった。

 地域の高齢化は、祭りを担う後継者難と重なり、保存会の人々は悩んでいた。

神になるための三つの条件

 祭りの保存会長の左居喜次さん(60)によると、神になる条件は、

・まずは、品行方正。
・祭りの前に7日間、寺にこもって、身を清めたり、お祈りしたりする「修行」に耐えられること。
・神がつきやすい体質であること…。
 
 最後の体質は、確かめるのが難しそうだが、紙屋さんは幽霊のようなモノを見た経験があるという。

 見込まれたのが白川さんだった。
 
 年齢も若く、町出身の友人と25歳から祭りに通うようになり、「皆勤賞」だったことが評価された。
 とはいえ、白川さんは隣町の出身で、高校卒業後は、大阪暮らしをしている。
 
 最初の頃は仕事を理由に断った。「神様が乗り移るわけがない。自分に霊感のようなものはない」
 
 それでも、お誘いは続いた。「寺の本堂も新しくなるし、やってくれないか」。昨年、父親を通じて打診があり、母親から「やってみたら」と言われ、外堀は完全に埋められた。
 
 ついに、「誰でもできることじゃないし、やってみようか」と決意した。

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最終更新:9/24(土) 7:00

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