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コルク佐渡島氏は「エンジニア×作家」でつくる未来に何を見ているのか

ReadWrite Japan 9/24(土) 22:30配信

2/24(水)-3/1(火)の7日間、『イベント&コミュニティスペース dots.』にて、「dots. Conference Spring 2016」が開催された。

イベントテーマは、「〈 テクノロジー × ビジネス 〉で未来をつくる7日間」となっており、人工知能やヘルスケア、開発技術、Fintech、IoTなどといった分野の最前線で活躍しているスピーカーが自分の経験や現状をふまえて語りつくすといった内容だ。第1回レポートに引き続き、セッションテーマ「ビジネスモデルジェネレーション」にて語られた内容をレポートする。

今回は、前回の記事「メルカリ、ランサーズ、さくらの社長が語る「創業期エンジニア採用」の秘訣とは」(※関連記事参照)では取り上げきれなかった、モデレーターの株式会社コルク 代表取締役社長 佐渡島庸平(さどしま・ようへい)氏によって語られたテーマ「作家にエンジニアの力を」について。


■これからの作家に必要なことは「本を出す」ことではない

私は、2012年に講談社を辞めて「コルク」という会社を作りました。その作った背景として、「世界基準で活躍する作家を生み出したい」という思いがあります。

というのも、基本的に、海外の作家はプロモーションのプロであるエージェントと契約を結んで自分の作品を売り出してもらっているんですが、その一方で、日本は出版社がプロモーションをやっている形になっているんです。つまり何が言いたいかというと、「世界基準で活躍する作家」を生み出すためには、その才能ある作家を発掘して育て、できた作品のプロモーションを専門的におこなう存在が必要だということです。

たとえば、村上春樹さんは非常に著名な作家だと思うんですが、彼は作品を出版社に預けずにアメリカのエージェントを雇ってうまく海外展開できた成功事例だったりするんですよ。もちろん作品自体もとても良いんですが、プロモーションが圧倒的に上手いんです。

日本の現状としては、作家の立場からするとベテランになればなるほど活躍しにくくなっていて、“個人的に書きたいものはあるけれど、連載してもらうために雑誌に合わせて書いている”という場合がほとんどだったりします。

みんなヒットすることを目指して書いているんですが、ヒットすればするほどどんどん作らなきゃいけなくなるんですよ。さらに、それを短期間で作らなきゃいけないので「駄作」が生まれてしまいファンが離れる、という負の連鎖が生まれてしまうんですよね。

そういった現状に、「これは作家の人生を考える人が必要だな」と感じたので、コルクを立ち上げて「作家エージェント業」を始めたんです。

もともとは、先ほど言ったように「日本人の作品を海外に」という思いで始めたんですが、2011年の10月くらいからKindleという電子書籍が販売され始めて、これからは電子書籍が来るだろうとも考えていました。そうこうするうちに、IT業界の人から「編集者に仕事を依頼したい」という問い合わせが殺到するようになったんですよ。

Kindle(電子書籍)という新たなデバイスが現れて、IT業界の人がそういう風に興味をもってくれているということに「面白い」と感じ、すべての依頼を受けたわけではなかったんですが山のように人と会ってIT業界について学んでいきました。そして、これから作家に必要なのは、「本を出す」ことではなく「エンジニアの力を借りてインターネット上にパブリッシュしていく」ことだな、と思いました。

※今回の場合における「パブリッシュする」は、「広める、拡散する、広く発信する」の意味が近いと思われます。


■デバイスが変われば「コンテンツのあり方」も変わる

たとえば、これまで主流だった雑誌の中だと、その中だけに作家の想像力が限定されてしまいます。その想像力は、雑誌が手にされなければ発信されたことにもならない。でもインターネットの中であれば、自由に発想しパブリッシュすることができます。

しかし、そのパブリッシュするためのツールがあまり無いという実情がありました。

当時あったSNSは誰でも使えるものばかりで、もっと小さな、作家が使うのに適したサービスがなかったんです。無いなら自分たちでその場所を作ろう、と『マグネット』というサービスを開発しました。そんななか、電子書籍の売り上げはどんどん伸びていて、いまも「出版業界は電子書籍によって変わるんじゃないか」と考えている人が多いんですが、正直なところ私はそう思っていません。

ネット上で人気のあるコンテンツというのは、ネット上だから人気があるのではなく、その「コンテンツに“インターネット的な施策”があるから」人気を博しているんです。

そういう意味でYouTubeは、テレビにある動画の場所をネット上に移しただけに過ぎないので、成長に限界があると感じています。電子書籍もまったく一緒で、インターネット上に“デジタル化したものを放り出している”だけ。置く場所を移しただけで、本としての在り方は以前と変わっていません。

普通、作るコンテンツというのはデバイスによって変わるものなんですよ。

たとえば、巻物から書物になったときに載せるコンテンツが変わったように、書物から電子書籍に変わるときはコンテンツも変わるべきなんです。でも、いまのところインターネット的な新しいものは本の中に入ってきていないな、と感じますね。


■世の中を変える「人の心を動かす」ものを作るのは誰か

ここで、コルクを通じて得た気づきについてお話したいんですが。取り扱っている作家のコンテンツが多くなってきたので、コルクでECを始めたんです。あるとき、『宇宙兄弟』の物語に出てくる〈ヘアピン〉を販売してみたところ、1週間で1500名くらいに買っていただけました。

「ただのヘアピンが?」と思って驚いていましたが、ある購入者の方から、「今日は特別な日なので、ヘアピンをつけます!」とメッセージをいただけたんです。

つまり、このヘアピンは作品中でキャラクターがピシッと気持ちを切り替えるときに付けていたものなんですが、購入者は〈ヘアピン〉を〈ピシッとするきっかけをくれるもの〉だと思って買ってくれているんですね。もはや、このヘアピンは〈ただのヘアピン〉ではなくなっているわけです。

購入者によって思うものは異なると思いますが、そういった“感情を思い出す”ために買ってもらったんだなって気付きましたね。

明治時代には言語というものが一部のエリートにしか使いこなせなかったから、それを使いこなせる人が思想を伝えられたんですよ。だからこそ、当時は「小説」が「世の中を変えるもの」となっていたのだと思っています。現代で置き換えて考えてみると、その思想を伝える役割を担う人は「エンジニア」だと思っていて、彼らが「プログラム言語を通して“なにか”を伝えられるんじゃないか」と思っています。

出版社時代の話ですが、〈無くてもいいもの〉を〈無くてはならないもの〉だと思ってもらうためにはどうしたらいいのだろうか、ということをずっと考えていました。そして、いまは今後AIなどによって便利な世の中になるなかで、〈人の心が動かされるもの〉が無くてはならないと感じています。

そして、その人の心が動かされるものは、作家とエンジニアが近くにいて一緒に作品を作っていくなかで生まれるんじゃないかと思いますね。作家にエンジニアの力を。


■Q&A リアルな書店の今後について

-インターネット化が進むうえで、リアルな書店は今後どう変わっていくとお考えですか?

佐渡島:規模縮小しているとはいえ、まだ14,000店舗ほど存在しています。ネット上ではフォローしていないと情報が入ってきませんが、リアルであれば潜在的な人にもアプローチできるので、まだまだ影響力は失われていないと思います。

-ありがとうございました。


ここまで2回にわたり「dots. Conference Spring 2016」の内容をレポートしてきたが、それを通じてエンジニアという存在の可能性にあらためて気づかされたと感じている。次の第3回レポートが最後になるが、そこでは現場で働く現役エンジニアの語る「チーム開発」についてお伝えする予定だ。

ReadWrite[日本版]編集部

最終更新:9/24(土) 22:30

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