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ノーベル賞から4年。iPS細胞、がん化予防法の開発最前線

ニュースイッチ 9/24(土) 9:52配信

再生医療の可能性が広がる

京都大学の山中伸弥教授らがマウス由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製を論文発表し10年、ノーベル生理学・医学賞を受賞して4年が経過した。他人由来のiPS細胞から作った組織の細胞を患者に移植する「他家移植」など、臨床応用に向けた研究は新たな一歩を踏み出した。国内外の大学や企業では臨床応用を支える技術として、安全で高品質なiPS細胞を高効率に作製する手法の研究が進む。

 iPS細胞を臓器などの再生医療に活用するには、iPS細胞を安全かつ高品質に作る技術を確立する必要がある。また再生医療では大量の細胞を移植に使うため、iPS細胞を多く分化させる技術や、分化後の細胞の中から目的の細胞を選別する技術も不可欠だ。これらの技術が確立して始めて、iPS細胞という日本発の技術が実用化に結びつく。

 慶応義塾大学医学部では、安全で高品質なiPS細胞を作る研究が進む。10年前に京大の山中教授らが論文発表したiPS細胞は、四つの遺伝子(山中因子)の導入により体細胞を初期化させて作製する。iPS細胞は多様な細胞に分化する能力を備えているが「その能力は一定ではない」と慶大医学部の福田恵一教授は指摘する。

 さらに山中因子のうちの一つ「c―Myc」はがん遺伝子のため、がん化の危険性がある。しかし、c―MycなしでiPS細胞を作ると作製効率が落ちる課題があった。

 安全で高品質なiPS細胞を作る研究が国内外で進む中、福田教授らは、卵細胞に存在するたんぱく質「H1foo」に着目。マウス由来のiPS細胞を作る実験で、c―mycを除く3因子にH1fooの遺伝子を加えたところ、3因子だけを使う場合と比べてiPS細胞作製効率が最大約8倍に上昇した。

 福田教授は「iPS細胞の作製効率を高めれば他家移植用のiPS細胞を備蓄しやすくなる」と強調。さらに「究極の再生医療は自己由来のiPS細胞の利用。その実現に向け、誰からでも高品質のiPS細胞を効率良く作れる技術の完成を目指す」と意気込む。

 がん化を防ぐためにがんになりにくい体質を持つ動物からiPS細胞を作る研究も進む。北海道大学遺伝子病制御研究所の三浦恭子講師らの研究チームは、がんになりにくく長寿で知られるネズミの一種「ハダカデバネズミ」からiPS細胞を作ることに成功した。

 iPS細胞は神経など組織の細胞に分化していない「未分化」の状態で移植すると奇形腫を形成する。ただ、ハダカデバネズミから作ったiPS細胞は、未分化の状態で別のマウスに移植しても腫瘍を形成しなかった。三浦講師は「より安全なヒトiPS細胞の作製につなげたい」と再生医療への応用を見すえる。 

 また慶大学医学部の岡野栄之教授や中村雅也教授らは、ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞を体内に移植する治療法で、その際に課題となる“がん化”を予防する方法を開発。多様な組織への分化や細胞の複製能力に関わる機能を妨げる薬剤を使うことで、移植細胞の腫瘍化が防げることを脊髄損傷マウスの実験で明らかにした。iPS細胞を使った再生医療での腫瘍化対策につながるという。

 今までにも、同マウスにiPS細胞由来の神経幹細胞を移植することで運動機能を回復できることが分かっていた。だが移植後に腫瘍化を起こしていたため、腫瘍化を防ぐことが臨床応用に向けた課題だった。成果は23日、国際科学誌ステム・セル・リポーツ電子版に掲載された。

最終更新:9/24(土) 9:52

ニュースイッチ