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塾なしでハーバード現役合格…廣津留真理さんに聞く「世界に通用する一流の育て方」

リセマム 9/26(月) 10:15配信

 小、中、高とすべて公立で塾なし。通算の学費50万円でハーバード大学に合格。一体どんなスーパーマザーなのかと思いきや、「世界に通用する一流の育て方 地方公立校から〈塾なしで〉ハーバードに現役合格」の著者である廣津留真理(ひろつるまり)さんは、大らかさとしなやかさで場の空気を和ませる。「親の戦略的なサポートがあったからこそ、子どもがハーバードに合格した」というサクセスストーリーを想像していたと話すと、「戦略なんて立てていたらハーバードには受かりません」と一笑する。

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 現在、ハーバード大学に在籍する日本人は稀少だ。合格できないのは、英語力不足に加え、戦略を立て過ぎていることにある、と廣津留さんは見る。

 「答えが用意された、試験のための解法を学ぶ勉強の先に、ハーバードは存在しないのです。」

◆子どもは未来からやってくる

 廣津留さんの子育て論はとてもユニークだ。

 「子どもが生まれてきたとき、『この人は未来から来た』と思ったんです。未来から来ているから、現在の地球については何も知らない。せっかくだから、一つずつ紹介していこうと考えました。」

 まず、この地球上にあるさまざまな記号を教えてあげようと、廣津留さんは娘のすみれさんが幼い頃から、漢字、英語、フランス語、音楽の譜面から数式や絵などに触れさせた。

 「たくさんの記号が読めたら、今の世の中の秘密がわかるはずだから」

 未来人から見れば、今の私たちはすでに古い人間だと廣津留さんは言う。「我が子をどうやって育てたらいいかわからないっていう悩みを言う親御さんが多いけれど、そりゃわからないですよ。だって未来人なんだから(笑)。未来人だから自分とは別人格。言い換えれば、我が子は生まれたときから自立しているということ。夫婦は互いに選んで一緒になりますが、子どもは親を選べません。だからこそ、一人の自立した個人として尊重することが大切だと思っています。子育ては『未来人へのおもてなし』だと思えばとても楽しい。未来人が何かの縁で我が家へやってきたのだから、家の中には季節の花を飾り、温泉に連れて行ったり、お雛様に桜餅、お月見に団子、お正月にお節料理などを一緒に楽しんだり、この世の中のことを一つずつ教えてあげました。」

◆ひろつる式英語学習メソッドとは

 いくつかの記号の中でも、すみれさんは、母の得意な英語や母の趣味である音楽に自然と興味をもつようになった。この2つの記号が、後に彼女をハーバードへと導くことになる。

 英語教員の資格をもち、現在も大分で英語教室を運営する廣津留さんの英語教授法は、生徒の年齢にかかわらず「中学英語を飛ばす」という、かなり大胆な方法だ。

 「最初から難しいことをやらせた方がいい。たとえばバイオリンの著名なコンクールで優勝するような子は、20歳で弾く曲をすでに8歳位で弾けるようになっています。私のメソッドは、それを英語で置き換えた場合、最初から難しいことを20歳まで続けておけばレベルアップするはず、との考えに基づいています。ドレミ、ABCから細切れに進めても、20歳にはまったく違う結論になってしまうのです。」ゴールから逆算をする学習法だ。

 中学校の検定教科書は、内容を抜粋すると薄っぺらなノート1冊程度の内容で、出来る子なら1週間、遅くとも数か月かければ終わってしまうと廣津留さんは指摘する。「そんな内容に3年間もかけるのはもったいない。学齢に合っておらず、明らかに語彙のレベルが低すぎます。」

 ABCがわからない子どもにも、いきなり中学3年修了程度の本を読ませる。最初は読経のようだが、解答の日本語訳で大意を理解し、付属のCDを聞きながら音を真似ていると、子どもは2、3週間で読めるようになる。これを「英語が染みてくる」と廣津留さんは表現する。「すると自分が目指しているものが、appleとかbananaではないことがわかってくる。あとは単語力です。1週間に100個ほど、市販の単語帳で覚えてもらいます。早い子だと半年で中学3年分の単語が終わってしまいます。最初から難しいことをやるとお得なのです。」

 この方法で、すみれさんは4歳で英検3級(中卒レベル)に合格した。今も彼女の英語教室では、小学生が知識ゼロから3級、2級と合格し、大学入試レベルの問題を読んでいるそうだ。

 「世間では『英語がペラペラになる』という表現がよく使われますが、口語と読解では、語彙も内容も全然違います。日常会話に必要な語彙をいたずらに増やすより、新聞、ネットの記事や学術論文、大学入試の問題が読めた方がお得です。とことん読んで、語彙を増やし(=インプット)、その中から適切な言葉を選ぶことがアウトプット=『話す』ということ。さぁ英語を話しましょうと言われても、中身がなければ意味がありません。」

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◆ハーバード生共通の3原則

 すみれさんの転機は、高校時代、イタリアの音楽コンクールで優勝し、そこで得た奨学金で全米バイオリン演奏ツアーに参加したことだ。ツアーの最後には、ニューヨークのカーネギー・ホールで演奏し、大喝采を浴びた。ツアー後、母の友人の勧めでハーバード大学を訪れ、参加した学内ツアーを案内してくれた学生とおおいに会話が盛り上がったそうだ。

 ハーバード大に行きたいと言い出したのは高2の冬。そこから約1年弱、すみれさんは受験勉強から出願手続きまで、すべて自分でやり遂げたという。TOEFLとSATは問題集をネットで購入、最終面接では海の向こうの面接官とスカイプで楽しそうに話していた、とのこと。親はただ見守っただけ。生まれたときから自立している未来人とはいえ、ここまで自立できた子に育つには、一体どんな秘策があったのか。

 それは、ハーバード生に共通する3原則が、廣津留家にもあったからだという。「以前、ハーバード生に『今の自分がいるのは何のおかげだと思うか』というアンケートを取りました。1位は、親が早くから文字を教えてくれたこと。2位は、家族がさまざまな話題について議論する家庭であったこと。3位は、色々な場所に連れて行ってくれたこと、でした。つまり、文化資本が高い家庭であったということです。」

 廣津留家は、日本語、英語問わず、議論好きだ。議論を通じ、自然と語彙力も高まる。「語学は物事の表層部分、つまり記号は手段にすぎません。我が家では、本質であるコアの部分を鍛えたことが大きかったのではないでしょうか。2020年からの日本の入試制度改革では、アクティブラーニング(AL)が重視されようとしていますが、多くのハーバード生が育ったこのような家庭環境が、ALに必要な探究心と主体的な問題解決能力を養うのだと思います。」

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◆“共有”の場…Summer in Japanの活動とは

 廣津留さんは、既存の価値観に疑問をもつこと、そして自分の考えを相手と共有することの重要性を繰り返し子どもに伝えてきたという。だが今の日本では、“共有”することが難しいと嘆く。「子どもたちは、試験のための知識を自分の中に溜め込むばかりで、その知識やアイデアを社会で共有して、それがどう社会に役立つかを考えたり、発揮したりする場がないのはとても残念です。」

 だから、伝える力、プレゼン力が育たない。グローバル時代を生き抜くためには、プレゼン力、つまり結論を先に述べて理由を後付けにするという逆三角形の思考法を学ぶ場が必要だと訴える。

 AI(人工知能)の進歩は目覚ましい。つまり、これからの世界で真に求められる力は、何を知っているかではないのだ。廣津留さんは日本の子どもたちにも「共有できる場」を作ろうと、2012年の夏からSummer in Japanという活動を始めた。夏休みに地元・大分へハーバード生を無償で招待し、日本の子どもたちに7日間、英語を教えてもらう。英検3級以上なら7歳から参加可能で、子どもたちが英語を道具として自己発信力を高めるのが狙いだ。ハーバード生が7歳児に科学論文やプレゼンテーションの方法を教えるワークショップは世界的にも珍しく、日本各地のみならず、海外からの参加者も多い。2014年度には経済産業省主催の「第5回キャリア教育アワード」奨励賞を受賞している。

 この試みには、廣津留さんのもう一つの思いがある。

 「家庭環境が子どもの将来を決めてしまうようなことがあれば、その社会は幸福ではありません。日本の地方に育ち、家庭の文化資本が高くなくても、高額な海外留学ができなくても、ここに来ればハーバード生に出会え、新しい学びがあり、その子の人生が大きく変わるかもしれない。そんな子が1人、2人と増えていくお手伝いができればいいなと思っています。」

◆親はすでに時代遅れ

 娘のすみれさんは今年の9月、音楽の世界的名門校であるジュリアード音楽院(ニューヨーク)の修士課程に進学した。その後については、得意の音楽と英語を活かした仕事に就きたいと思いつつ、まだ明確には決めていないそうだ。

 「ハーバードの学生は、卒業後はとりあえずあてもなく旅に出るとか、音楽や芝居、映画製作などやりたかったことをやるという感じで、生き方に余裕があります。一方で日本は、今もなお、就職を最終ゴールと捉え、親の成功体験に子どもが縛られている感じがしますね。特に昨今は、子どもが歩いている先に次々と橋を作っていくような保守的な子育てが増えている気がします。」

 未来人から見れば今の親はもはや時代遅れなのに、親が子どもの足かせになっている、と。「私の教育のモットーは、”The best way to predict the future is to invent it.”※です。」
※アラン・ケイ(コンピューターサイエンティスト)の言葉「未来を予測する最善の方法は、未来を発明することである」

 未来を発明するのだ、と明るく微笑む廣津留さんがとても軽やかなのは、彼女には未来しか見えていないから。

《リセマム 加藤紀子》

最終更新:10/13(木) 12:38

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