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マツダの通信簿

ITmedia ビジネスオンライン 9/26(月) 6:18配信

 8月31日、マツダは恒例のサステナビリティレポートとアニュアルレポートを発表した。これはマツダ自身による過去1年間の通信簿とも言えるもので、サステナビリティレポートは主に企業活動目標と実績を、アニュアルレポートは主に経営目標と実績をまとめたものだ。つまりこの2つのレポートを読めば、マツダの今をマツダ自身がどう考えているかが分かる。今回はその2つのレポートを基にマツダの今を眺めてみたい。

【マツダ、2015年度の各国での販売実績は?】

 2016年、マツダが何を志していたかと言えば、ブランド価値の向上が目標だった。そのための手段がSKYACTIVであり、SKYACTIVによってマツダらしい商品群を構築することを目指してきた。

●利益を生み出しているロードスター

 そのトライが結果としてどうだったかという点について、マツダでは着実な成長に結びついたと考えている。具体的な施策で見てみよう。

 まずは、ロードスターの投入が成功したことが大きい。メインマーケットである北米では目標台数に届かなかったことで不安視する向きもあるが、日本と欧州では目標をクリアした。トータルではどうなのか? 筆者がマツダ内部の人から漏れ聞いた情報によれば、ロードスターは既に開発費の回収を終えたそうである。スポーツカービジネスの採算事業化という難しい課題をクリアし、利益に貢献できるところまで漕ぎ着けたということだ。これが大きい。マツダにとってロードスターはブランドアイコンであり、おいそれと生産中止にするわけにはいかない。

 仮に事業の不採算を理由に生産中止にしなければならなくなったとしても、顧客、販売店、株主、サプライヤー、従業員などあらゆるステークホルダーが抵抗することは目に見えている。どうにか説得に成功したとしても、あらゆる側面でモチベーションの維持は難しいだろう。八方を丸く収める方法は、ロードスターを採算の取れるクルマにする以外にないのである。裏返せばロードスターの事業的成功はオールマツダの士気向上に大いに役立つのだ。

●決算数値のレビュー

 もう1点、CX-9の投入も大きい。新開発のSKYACTIV-G 2.5を搭載して臨んだこの新型車は、北米と中国という2つの巨大マーケットを攻略するための戦略モデルだ。このローンチも無事に推移している。

 結果を数字で追ってみよう。グローバル販売台数は9.8%増の153万4000台を達成した。売上高も3727億円増の3兆4066億円、営業利益は239億円増の2268億円となっている。販売台数が増え、利益が上がっている。しかし、企業経営にとって本当に大事なのは営業利益率である。売り上げが変わらなくても、営業利益率が急落すれば利益は激減する。

 例えば、トヨタを見てみよう。2000年以降のトヨタは営業利益率を順調に伸ばし、2004年には売上高16兆7000億円に対して9.6%を記録した。ところが、リーマンショックの煽りを受けた2012年には営業利益率が1.9%に急落している。では売り上げはと言えば18兆6000億円とむしろ増えているわけだ。営業利益を比べると一目瞭然である。2004年は1兆6669億円。対して2012年は3556億円と利益が5分の1に激減している。ちなみにトヨタはリーマンショックを教訓に大改革を断行し、2015年には売上高28兆4000億円と驚異的な躍進を見せ、さらに利益率を2桁に乗せ、この規模の製造業としては“非常識”とも言える10.1%を記録している。

 トヨタというモンスターを前にすると、マツダの数字は地味に見える。営業利益率は前年と同じ6.7%である。2014年は6.8%だったのでこの2年でわずかにダウンしていると言えるが、誤差の範囲内と見るのが妥当だろう。その前に遡ってみれば、2013年の利益率はわずか2.4%。2012年に至ってはマイナス1.9%だったことから考えれば、利益体質は大幅に改善されたと見るのが妥当だ。

 2017年3月からはこの構造改革はステージ2へと進み「走る歓び」と「優れた環境・安全性能」の両立を進めていくという。環境と安全は社会の要請であり、企業市民として世界に果たすべき役割である。しかしながら、そのために全てを犠牲にせず「走る歓び」と共存させる構造改革を進めていくのがマツダの狙いである。

 義務を果たしながら、自我を捨てない。多分言葉で定義をすればそういうことになる。義務を果たすことだけを考えればクルマは退屈になる。だからこそ個人としての楽しみを失わないようにする。そういう難しい問題を解決する基盤技術としてSKYACTIVがある、とマツダでは説明しているのだ。

 2019年3月期はこの構造改革の最終年となる。ここは明確な数値目標が掲げられており、グローバル販売台数165万台、営業利益率7%以上、自己資本比率45%以上、配当性向20%である。マツダは「2%の人に喜ばれるクルマ作り」を標榜(ひょうぼう)してきたが、グローバルな新車の販売台数が約1億台という状況で考えれば、目標の165万台という台数はかなり良いところまでその理想に近づいてきたとも言える。

 もう少し詳細に見てみよう。2016年3月決算で確定している数字は、グローバル販売台数153万4000台、営業利益率6.7%以上、自己資本比率37.4%以上である。ちなみに1株あたりの当期純利益は224.85円で、中間配当15円、期末配当15円の合わせて30円なので、配当性向は13.34%になるはずである。

●世界のマーケット概況

 さて、こうした売り上げを支えているマーケットの内訳を見ていこう。最大マーケットは北米の28.6%、31万台。次いで欧州の16.8%、25万7000台。3位は日本を僅差で押さえて中国の15.3%、23万5000台。日本は15.1%、23万2000台となっている。

 日本のメーカーは当然日本マーケットで圧倒的に強いが、次いで北米を第2の母国にしているメーカーがほとんどだ。例外はスズキやダイハツなど北米向けの車種を持たないメーカーだ。そして概して欧州で弱く、中国は欧州ほどではないが得意とは言えない。何度も引き合いに出して恐縮だが、トヨタがフォルクスワーゲンにしてやられたのは、敵のお膝元、欧州で勝てなかったのは仕方がないとしても、中国でのアドバンテージを取られたからだ。

 マツダの1つの特徴は、欧州と中国を不得意にしていないことだと言える。マーケットのバランスが良い。課題は次世代マーケットであるインドとASEANだが、とりあえずタイに足がかりを築いているので、それをどこまで伸ばせるかが今後20年のゆくえを決める1つの要素になるだろう。

 国内マーケットではデミオとロードスターの新車効果を軸に、新規追加のCX-3が順調に推移した。トータルでの伸びは3%と小幅だが、国内の総需要が前年比マイナス7%の494万台であるという背景を考えると、需要縮小の中でプラスを維持したことは評価に値するだろう。

 北米ではCX-5が貢献している。CX-5はフルSKYACTIVの第一号車であり、現在のラインアップである第6世代のけん引役である。ことに北米ではSUVの人気は高い。マツダはフリート販売を抑制し、小売りを伸ばす戦術を展開した。フリート販売とは大口顧客へのまとめ売りで、台数を確保できる代わりに利益が圧縮される。

 代表的な例で言えば、レンタカー会社に買い戻しオプションを付けて販売するような方法だ。設備的に生産台数上限があるマツダにとって、ひたすら台数を追いかけるのは得策ではなく、むしろ限られた台数をいかに高い利益率を確保して販売するかがキーとなる。そこでフリートを抑制して、値引き幅の小さい小売りへのシフトを進めている。北米に関しては、CX-5とアテンザを筆頭に、CX-3とロードスター、現地生産のデミオとアクセラなど多くの車種が展開されている。今後は新たに追加されたCX-9に期待がかかる。

 欧州ではデミオ、とCX-3、ロードスターが好調だ。欧州での懸念材料はロシアマーケットの減速だ。ルーブル安と原油価格の下落で、ロシア経済は低迷しており、当然新車販売にもマイナスの圧力がかかっている。

 中国では1.6リットル以下の小型車に対する減税政策の影響で小型車が加速している。また従来の主力であったCX-5とアテンザも好調で、マーケットシェア0.9%を維持しながら、総需要の成長に合わせた推移となっている。

 このほか、オーストラリアとASEANでも推移は順調だ。オーストラリアでは販売台数が15%成長。ASEANでは32%成長となっている。ASEANのマーケット規模が300万台であることを考えると、マツダの新車販売台数10万1000台は、シェア率約3.4%。グローバル平均で2%を目指すなら目標は十分クリアしていることになる。これまでに述べたように、マツダは苦手なマーケットがなく、グローバルにまんべんなく販売できていることが大きな強みになっている。

 2017年3月の決算はほかの国内メーカー同様、為替の影響をもろに受けて厳しい減益が待っているはずである。これは避けようがない。さらに、新車の発表が一段落していることもある。しかし大きな流れで見たとき、マツダの経営はかなり順調に推移していることは間違いない。

(池田直渡)

最終更新:9/26(月) 10:24

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