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第1次、第2次大戦の「戦間期」に似てきた世界

ニュースソクラ 9/26(月) 12:00配信

行き詰まる資本主義、後退する民主主義

 「戦間期」とは、第1次大戦の終了(1918年11月)から第2次大戦の勃発(39年9月)までを指す。1920~30年代とほぼ重なるこの時期と、似た世界になってきた。

 ローレンス・サマーズ元米財務長官は、先進国経済の現状を「長期停滞」(セキュラー・スタグネーション)と呼んだ。30年代に米国の経済学者アルヴィン・ハンセンが使ったのと同じ表現だ。

 戦間期は、29年10月の米ウォール街の恐慌を境に一変する。米国は「ローリング・トゥエンティーズ(狂騒の20年代)」と呼ばれた好況期から、ハンセンの言う30年代の「長期停滞」に迷い込んだ。

 欧州も、20年代半ばまでに戦後の混乱期を脱し、経済が持ち直したが、資本の供給源だった米経済の暗転に足を取られた。恐慌が次々に伝染して「世界恐慌」となる。関税を大幅に上げた米国のスムート・ハーレー法をはじめ、保護主義が世界に広がった。

 世界恐慌は政治も変えた。最も民主的と評されたワイマール憲法を持つドイツで、28年の国会議員選挙では12議席しかとれなかったナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)が、32年に第1党に躍進、翌年には、ヒトラーが首相になり独裁制へと突き進む。

 第1次大戦への反省から、20年に国際連盟ができ、28年には国際紛争解決の手段としての戦争の放棄を約した「不戦条約」が結ばれた。この国際協調も30年代に逆流する。日本が満州事変を始め(31年)、日独が国際連盟を脱退(33年)、ドイツが非武装地帯ラインラントに進駐(36年)し、導火線に火がついた。

 資本主義が行き詰まり、民主主義が後退し、国際協調が崩れた戦間期を、「昔話」では片付けられない。

 ベルリンの壁が崩れた89年、米国の政治学者フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」と題した論文で、民主主義と市場経済の究極の勝利、と書いた。

 旧ソ連・東欧の社会主義体制は崩壊し、指導者が選挙で選ばれるようになり、計画経済は市場経済に移行した。経済のグローバル化が進み、自由貿易協定が次々でき、貿易や資本移動が増え、世界経済の成長率が高まった。フクヤマ説が証明されたかに見えた。

 変調は、2008年のリーマン危機あたりからだ。先進国は軒並み景気が低迷し、成長センターだった中国も、バブル崩壊の崖っぷち、との見方もある。先進国でも新興・途上国でも、貧富格差の拡大が、資本主義へのフラストレーションを高めている。

 11年に起きた「アラブの春」の民主化運動も、チュニジアを除き、失敗国家になるか、独裁に逆戻りした。大量の難民がなだれ込んだ欧州で、難民・移民への反発がポピュリズム政党を勢いづかせる。米国の“トランプ現象”も同根。世界を俯瞰(ふかん)すれば、勝ったはずの民主主義が後ずさりしている。

 旧共産圏の先祖返りも目に付く。ロシアも中国も「言論の自由」や「法の支配」が根付かず、プーチン大統領は15年も権力を一手にし、習近平国家主席も権力集中を進める。ロシアはクリミア併合、ウクライナへの介入で、G8(主要8カ国)会合から事実上、除名され、中国も南シナ海などで国際秩序に挑戦する。

 中東は相変わらず火薬庫で、イスラム過激派のテロが世界に拡散し、北朝鮮はミサイルと核の実験を繰り返す。大事に転化しかねない火種があちこちにある。

 こう見てくると、戦間期とのアナロジーが現実味を増すが、歴史は、そのまま繰り返すわけではない。

 「グレート・リセッション」(大不況)とも呼ばれたリーマン危機後の長期停滞も、生産が何割も落ち込んだ世界恐慌に比べると、はるかに傷は浅かった。

 英国がEU(欧州連合)離脱を決め、米大統領選では両候補がTPP(環太平洋経済連携協定)に反対しているが、30年代のような高関税政策やブロック経済化などの露骨な保護主義は、避けられている。

とはいえ油断は禁物。当分は、荒天に備えシートベルトをしっかり締めておいた方がよい。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:9/26(月) 12:00

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