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サイボウズ フェロー 野水克也氏に聞く、IoTとワークシェアリングの幸せな関係

@IT 9/27(火) 8:10配信

 昨今、時間や場所に制約された従来の働き方を変えていく「ワークスタイル変革」が声高に叫ばれている。では、なぜ今、ワークスタイル変革が必要とされているのか。

【主要国の自殺死亡率など、その他の画像】

 サイボウズ フェローの野水克也氏は、その背景には3つの理由があると指摘する。

 「1つ目の理由は“国家的な事情”です。少子高齢化が急速に進んでいる日本は、このままだと労働人口が減っていき、10年後には確実に働き手が足りなくなります。その場合、海外からの移民を受け入れるしか労働力を確保する道はなくなります。そうならないためにも、国としてワークスタイル変革を推進して、何としても『働き手』と『働く機会』を増やしていく必要があるわけです」

 2つ目の理由として、野水氏が挙げたのは“企業的な事情”だ。

 「現在、企業では労働効率が低下しつつあります。高齢化と産業の高度化が進み、労働集約型の仕事をしていても収益向上につながらないという産業構造の変化もあります。そのため、『労働集約型』から『付加価値型』へのビジネスシフトが求められています。労働効率が低下している中で、他にはない価値を生み出すビジネスをするには、多様なワークスタイルで働く個性あふれる人材が必要になります」

 「3つ目の理由は“個人的な事情”です。世帯全体の収入が落ちて、男性1人の収入だけでは生活が苦しくなっています。40代男性の正社員の平均年収は約420万円、平均世帯年収は約550万円といわれています。子どもを持っている家庭の場合、ギリギリのラインといわざるを得ません。世帯年収をもう少し上げていかなければ、子どもに十分な教育をしてあげられなくなる可能性もあります。また、男女の仕事に対する価値観が多様化し、仕事に積極的な女性も増えています。ワークスタイルの変革は、男女の暗黙の役割分担をなくし、世帯年収を高めるためにも重要な取り組みだといえます」

●日本は“復活できない社会”

 このように日本では、国から企業、個人に至るまで、国民全体でワークスタイル変革に取り組む必要がある。もちろん、国としても少子高齢化や労働人口の減少に手をこまねいているだけではない。「一億総活躍社会」の実現を掲げて、大きな政策が動き始めようとしている。

 しかし野水氏は、「国は何とか女性の労働力を増やそうとしていますが、結婚して、家事や育児に追われる女性に、さらに働けというのは無理があります。まず男性をもっと柔軟に働けるようにして、家事や育児を分担できる時間を作らないと、女性の労働力をさらに増やすのは現実的ではないと思います」と、今のワークスタイルのままでは一億総活躍社会の実現は難しいと断言する。

 野水氏はさらに、現在のひずみの原因は“復活できない社会”にもある、と続ける。年功序列や終身雇用を前提とした人事システムは、一度でもレールから外れた人には大変厳しいものとなるからだ。

 「例えば、新卒で入社した会社で10数年働いて、中高年になってから退職した場合、転職・再就職しようとしても、収入が上がるケースはほとんどありません。パートナーが仕事をしていない場合は、世帯収入が大幅に下がります。転職先が見つからない可能性もあります。つまり、一度会社を辞めたら最後、復活するのが非常に難しいのが現在の日本です。こうした社会構造では、長期間継続的にひたすら働き続けるしか収入を伸ばす術はありません」

 野水氏の言葉を裏付けるようなデータがある。日本の自殺率は世界で8番目に高く、先進国ではロシアに次ぐ順位だが、中高年層の男性の自殺率では世界トップだという。他の国は60代以上での自殺率が高いのに対して、日本は40代、50代という働き盛りの男性が自殺を選んでいるのだ。

●Uberは、ワークシェアリングのお手本

 もはやワークスタイルの変革「待ったなし!」の状況になっている中、その変革を促す重要なカギを握っているのがIoT活用だ。野水氏は、IoT活用によって実現されるワークスタイル変革の具体例として、「マッチング」「ワークシェア」「ナレッジシェア」の3つを挙げる。

 「IoTを活用すると、時間と場所を越えて『労働力』や『能力』をマッチングさせられます。例えばコンビニチェーン店なら、『A店舗では○時から○時まで人が余っている』『B店舗では×時から×時まで人が足りない』という情報をIoTによってマッチングさせれば、労働力を無駄にすることなく、的確に配置させられます。

 ワークシェアという点では、1人で長時間行っていた仕事を複数人で分担することが可能になります。1日2時間しか働けないという人でも、3人集まれば6時間分の仕事をこなせるようになります。3人が全く別の場所にいたとしても、IoTを活用すれば、コミュニケーションを取りながら仕事を進められます。

 そして、ナレッジシェアという点では、専門知識を持った人たちをつなげて、全体としてフル活用できます。IoTを活用すれば、場所に関係なくスキルや知識を武器にして仕事ができるようになります」

 このIoT活用によるワークスタイル変革を具現化しているのが、GPSセンサーを使って、タクシーに乗りたい人とタクシーのドライバーをマッチングさせる、配車サービスの「Uber(ウーバー)」だ、と野水氏は話す。Uberは乗客にとってのメリットが分かりやすいが、実はドライバーにとってもメリットのある仕組みなのだ。

 Uberに登録したドライバーは、従来のように長時間働いたり、乗客が見つかるまで車を流し続けたりする必要がなくなり、自分の都合に合わせてドライバーとして働けるからである。

●適切なマッチングには、見える化が必要

 一方で、野水氏は、IoTを活用したワークスタイル変革を実現するためには“見える化”が必要不可欠になると訴える。

 「UberがIoT活用によって料金や働き方も自由化できるのは、サービスを使う側も、提供する側も、目的が明確である点が大きいと思います。車に乗りたい人に対して車を運転する人をマッチングするという、単純で分かりやすい仕組みになっているのです。このように単純な業務ではない場合は、『自分の状況』と『相手の状況』を、いかに“見える化”するかがポイントといえます」

 自分の状況とは、「自分が何者」で「どんな仕事を依頼したいのか」を“見える化”すること。例えば、「山のような領収書を伝票に入力してほしい」と依頼しても、仕事の内容が抽象的で相手に伝わりにくい。しかし、たまっている領収書をデジカメで撮影して、伝票の形式と共に相手に伝えれば、仕事の総量を見積もりやすくなり、マッチングやワークシェアがスムーズになる。

 「相手の状況」の“見える化”を野水氏は、コピー機の修理対応を例に取って説明した。

 通常コピー機の修理作業は、ユーザーからの連絡を受けて、担当者が現地に赴いて対応する。しかし、コピー機の各ポイントにセンサーを仕込み、状態をリアルタイムに確認できるようにすれば、担当者が現地に行かなくても故障の状況を把握でき、修理作業もリモートで対応できるようになる。

 そうすれば移動の時間を削減できるし複数の現場を同時に対応できるので、修理担当者が専門知識を生かす時間の割合を総労働の時間の中で増やせるようになり、業務効率を大幅に改善できる、ということだ。

 「自分と相手の状況が“見える化”できれば、業種を問わず、ワークスタイル変革の可能性は広がります。例えば先ほど例に挙げたように、コンビニのスタッフを店舗ごとに管理するのではなく全体で把握できるようになれば、地域レベルでスタッフを統合管理することも可能になります」

●仕事を細分化し、エアタグで見える化する未来

 野水氏は、IoT活用によって実現されるワークスタイルの未来像を夢想する。

 世の中には、1人分とするにはまとまった量ではないけれど、ちょっとお願いしたい仕事がたくさんある。労働者側にも、フルタイム勤務はできないけれど、空いている時間に自分のできることをして働きたい人はたくさんいる。IoTを使ってこれらのニーズをマッチングしてはどうか、というのがその考えだ。

 ポイントは業務の細分化と見える化だ。

 「例えば、こんな未来はどうでしょう? あなたが散歩中に街中でスマホをかざすと、そこにエアタグが現れます。エアタグには、仕事の内容や報酬が表示されています。『空き缶を50個拾ってくれたら50円』とか『ダイコンを10本洗ってくれたら100円』とか」

 「あなたは30分空き時間があるので、ダイコン洗いをしたいと思い、そのタグにチェックインします。仕事内容とあなたのスキルがマッチングしたらその仕事を受けられます。30分後、ダイコンを洗い終わったあなたは電子マネーで報酬を受け取ります。あなたは空いた時間でお金を稼げたし、八百屋は仕事を外注できました」

 このように、労働者が働きたいタイミングで働きたい分量の仕事を自由に選べるようになれば、時間に制限のある人や高齢者も働けるようになる。仕事の依頼も同じだ。タクシーの乗客がタクシーに乗った分だけ賃料を払うように、必要なタイミングで必要なだけ、仕事を依頼できる。

 これを実現するには法制度の整備や、仕事を依頼する側と受ける側の信頼関係やスキルの“見える化”が必須だが、マイナンバーなどをうまく活用すれば、将来的には不可能ではないかもしれない。

●本気の意識改革がワークスタイル変革のキモ

 IoTの活用は、日本のワークスタイルを劇的に変える可能性を秘めている。しかし、実際にはテクノロジーだけでは、ワークスタイルを変革することはできないと野水氏は指摘する。

 「IoTを活用するとワークスタイルを変えられるといっても、それに興味がない経営者も多いのが実情です。古くからの企業文化や風土が根付いてしまっていて、そもそもワークスタイルを変えようという意識がないからです。中には、せっかくIoTを使って業務を“見える化”したのに、その情報を見ていないというケースもあります。これでは意味がありません。本気でワークスタイルを変革したいのならば、経営者自身が“見える化”された情報を把握し、それを基に従来の企業文化や風土にとらわれない新たな働き方にチェンジしていく必要があります」

 野水氏はさらに、従業員も意識改革が必要だと言う。

 「業務を“見える化”すれば、従業員は常に見張られているように感じるかもしれません。しかし、これも従業員の意識次第です。“見える化”されるのを怖がらず、それによって自分の仕事が正しく評価され、もっと柔軟な働き方ができるようになるという前向きな意識を持ってほしいです」

 とはいえ、意識改革というものは、口で言うほど簡単なことでないのも事実。そこで現実的な手段として、「給与体系を見直す」のも一つの手だと野水氏。

 「例えば化粧品の店頭販売員なら、午前中のシフトと夕方のシフトでは忙しさが変わってきます。給料が同じであれば、忙しい夕方のシフトにはなるべく入りたくないというのが本音で、夕方ばかりのスタッフからの不満も出てきます。これを解決するには、給料を変動制にして、夕方のシフトに割増手当を付ければいいのです。そうすれば、収入を増やしたいスタッフは、自ら進んで夕方のシフトに入るようになるはずです」

●この先生き残るエンジニアになるために

 ワークスタイル変革という観点からエンジニアの現状を見ると、いまだに下請けのさらに下請けのような、与えられた仕事をひたすらこなしているエンジニアが多いのが実情だ。こうした状況から脱するためには何が必要なのだろうか。

 野水氏は、「1つの会社にとどまって与えられた開発をしているだけのエンジニアには、未来はないと言わざるを得ません。受け身のエンジニアは使い捨てだと思ってもいいでしょう。会社はエンジニアを守ってくれません。主流の開発言語が変わったら、その言語のエンジニアは必要なくなりますから」と、厳しい言葉を投げ掛ける。

 その上で、「使い捨てのエンジニアにならないためには、精神的に自立することが大切です。今の会社や仕事に固執することなく、外に目を向けて、自分が今何を勉強して、どこに向かうべきかを見極めてほしい」と提言する。

 「その第一歩として、試してほしいのが、ネット上のコミュニティーで発言したり、自分の会社以外のエンジニアたちと交流したりすることです。今までとは違った価値観に触れ、世界が広がって、新たな方向性が見えてくる可能性があります。また、家庭を持っている人は、家事と育児を分担することをおすすめします。仕事でも家庭でも、自分1人で成り立っているのではなく、人に依存していることを実感することは、自分自身を“見える化”するきっかけになります」

 今の仕事に不満を抱えているエンジニアは、自分ができること、やっていることを細分化して見える化する、外の世界では何が起きているのか、何が必要とされているのかを理解し、能力と労働力の再配分を行う、という自分のワークスタイル変革から一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。

最終更新:9/27(火) 8:10

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