ここから本文です

電通とFacebookの不正業務から考える ネット広告の問題点とは?

ITmedia ビジネスオンライン 9/27(火) 6:40配信

 広告代理店最大手の電通が、ネット広告に関して不正取引があったことを明らかにした。偶然にも、全く同じタイミングでFacebookが広告の虚偽報告について謝罪を行っている。

【電通のニュースリリース】

 ネット広告は、広告主が費用対効果に関する客観的な情報を入手しにくいという特徴がある。ネット広告は、紙媒体と比較するとまだまだ小さい市場だが、いずれ広告の主流となる可能性は高い。一連の不祥事は過渡期特有の出来事かもしれないが、業界全体として、より客観的に費用対効果を検証できる仕組みを構築していく必要があるだろう。

●オペレーションが煩雑なオークション形式

 電通は9月23日、インターネット上の広告に関して、虚偽報告をはじめとする不正取引があったと発表した。対象となった企業は100社を超え、総額は2億3000万円に上るという。不正が行われたのは、主にネット広告の成果を顧客企業に示すレポートの中身である。

 電通は広告代理店なので、広告主となる企業の代わりに媒体から広告枠を購入するのが仕事だ。電通は購入した広告枠について、媒体にアクセスした利用者が、どのくらいの頻度で広告を見たのかといったデータを取りまとめ、定期的に広告主に報告を行っている。広告主はそのレポートを見ながら、広告の費用対効果を検証し、次の広告出稿計画を練ることになる。

 ネット広告というと、かつては広告枠を一定期間確保したり、所定のクリック数に到達するまで、同じ広告を特定の場所に貼り続けるといった形式が多かった。こうした従来型のネット広告では、掲載料が1カ月当たり10万円、あるいは1000クリック10万円など、分かりやすい価格が設定されていた。これは、基本的に紙媒体の広告と同じ仕組みと考えて良い。

 しかし、現在ではこうした従来型のネット広告は少なくなっており、価格をオークションで決める形式が増えている。今回、不正が発覚したのもこのタイプである。

 オークション形式では、広告の配信状況を見ながら、常に入札価格を変えていく必要がある。広告主の予算には上限があるので、予算額との兼ね合いや広告を打つ期間、露出頻度などを総合的に考えながら、随時入札価格を決定していく。この作業が思いのほか大変なのだ。

●入札価格の設定が広告配信の巧拙を決める

 例えば、ある広告主が広告代理店に対して、1カ月で500万円という予算で、特定の顧客層にターゲットを絞った広告を配信するよう依頼したと仮定しよう。広告価格は入札で決まるので、単価を安くすれば、より多くの広告を配信することができる。しかし、それ以上、高い単価を提示する他の広告主がいれば、メディアにはその広告主の広告が配信されてしまう。

 顧客となっている企業の広告を優先して配信しようと思った場合には、単価を上げればよいわけだが、今度は、お金が掛かりすぎて、与えられた予算内では十分な数の広告を配信できなくなってしまう。この辺をいかに調整するのかが担当者の力量ということになるだろう。

 今回の発表で電通は、担当者の力量不足から、うまく配信調整ができず、故意にレポートの中身を改ざんする結果になったと認めている。対象となった広告の詳細は不明だが、恐らくは、当初の価格では上手く入札できず、後になって高い単価で入札したものの、結局は十分な数の広告を打てなかったといったところだろう。こうした状況をそのまま顧客には説明せず、報告書の内容を改ざんして、予定通り配信したと報告していたわけだ。

 今回の件が発覚するきっかけになったのは、何と最大の広告主の1社であるトヨタ自動車(以下、トヨタ)からの指摘だった。トヨタはこの件について詳細な説明は行っていないが、恐らく、想定されたレスポンスがないため、広告が予定通りに配信されていないことを察知した可能性が高い。あるいは、あらゆるネット媒体をチェックし、配信状況をチェックしていたのかもしれない。

●広告主が不正に気付くことは困難

 トヨタは巨大企業であり、広告宣伝にはかなりの人的リソースを割いている。このため今回のような不正に気付くことができたが、多くの企業にとって、こうしたチェックを行う余裕はないだろう。ネット広告における最大の問題は、基本的に広告代理店やメディアからの報告を信用する以外に、広告の効果を判定する材料がないという点である。

 この話は、実は海外でも問題視されている。SNS大手のFacebookはくしくも電通と同じ23日、自社の動画広告の平均視聴率時間を過大に算出し、それを広告主に報告していたことを明らかにした。

 Facebookではこれまで、動画広告が再生された時間を視聴数で割り、1人当たりの平均的視聴時間を算出していた。しかし、実際には広告を3秒以上見た人の数で割るという計算を行っており、その結果、見かけ上の平均視聴時間が長くなっていたのである。

 動画広告の分野においては、広告を3秒以上見る人と、それ以下の人には天と地ほどの差がある。動画広告は利用者に本気で視聴させるまでが大きなカベとなっており、3秒以上見る人だけを視聴時間にカウントすれば、かなりの視聴時間を稼げるのは当たり前である。

 実際、Facebookでは、平均視聴時間を60~80%も長く計算していたというが、そうなってしまうと、広告主は動画がクリックされれば、長く広告を見てもらえると勘違いしてしまうだろう。これでは広告の効果に関するデータが信用できないものとなってしまう。

 今回、電通で問題になったケースでは、少ないながらも、広告主がチェックできる余地が残っていた。しかしFacebookのケースでは、全てが同社の内部情報であり、広告主がこの数字をチェックすることは事実上不可能である。

●テレビの場合、不完全だがそれなりの防止策が施されている

 テレビの場合にも、以前、似たような不正が発覚したケースがあった。1990年代、一部の地方局において、実際にはCMを放送していないにもかかわらず、広告主からは広告料を徴収するという、いわゆる「間引き」が行われていた。

 これはメディア側の不正であり、放送局は虚偽の報告書を広告代理店に送っていたという。代理店側はこれを見抜けず、広告主から料金を請求していたのである。間引きの発覚後、関係者は懲戒処分となり、民放各社は、CMにコードを埋め込む方式を導入するなど防止策を強化した。

 テレビCMの場合、どの程度番組が見られているのかという視聴率の数字が極めて重要となるが、視聴率についても、不完全ながらも独立した別会社を通じて調査を実施する体制が出来上がっている。

 現在、視聴率の測定は、ビデオリサーチという専門会社が行っている。無作為に選ばれたモニター世帯に設置された機器が、どの時間帯にどの番組を見ているか自動的に集計する仕組みだ。同社の調査方法に対しては、600という少ないサンプル数で正しい評価ができるのかといった疑問の声も一部から出ているが、統計学的には十分な裏付けのあるサンプル数であり、相応の精度で調査が行われている。

 また、ビデオリサーチは電通が34.2%を出資しており、電通の関連会社になっている。また、録画の影響が考慮されないなどの問題も指摘されているが、独立した別会社で調査が行われている意味は大きい。全ての情報が代理店もしくはメディア側に集まってしまうネット広告に比べれば透明性は高いといって良いだろう。

 今回の一件は、トヨタという最大顧客の指摘があったので表面化した可能性が高く、同じような不正が慢性的に行われていた可能性は否定できない。電通では年内をメドに再発防止策をまとめるとしているが、業界全体としては、第三者にチェックさせるような仕組みの構築が必要となってくるだろう。

 もっとも、一連の不祥事はネット広告市場が拡大する過渡期の現象と捉えることもできる。2015年における日本の広告市場は約6兆円だったが、このうちネット広告は、急拡大しているとはいえ5600億円しかない(調査方法が異なる電通の調査では約9000億円)。

 今後、ネット広告が本当の意味で広告の中心になっていけば、広告主も費用対効果に対してもっとシビアになり、こうしたずさんな体制は許容しなくなるはずだ。

●加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。

最終更新:9/27(火) 10:36

ITmedia ビジネスオンライン