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日本社会を支える制御技術が集約 日立の大みかはIoT戦略の重要拠点になるか?

ITmedia ビジネスオンライン 9/27(火) 6:43配信

 突然だが、東海道新幹線の1日あたりの運行本数はどれくらいかご存じだろうか? 正解は350本(2014年度実績)。では、これほどの数の列車が寸分狂わず時刻通りに、しかも安全に走ることができるのはなぜだろうか?

【大みか事業所にある工場内部の様子】

 もちろん運転士や車掌などの人力部分によるところがあるのは確かだ。しかし、それ以上に大きな要因として挙げられるのが「システム制御」である。

 説明するまでもないが、今や世の中にある数多くのものがシステム化されている。鉄道や飛行機、電気、ガス、水道、ビルなど枚挙にいとまがない。裏を返せば、こうしたシステムを使う上で、それらを安心・安全に管理するための制御機能が不可欠なのが現状である。万が一、システムが制御できなくなれば、大惨事が免れないほどの脅威が我々の生活に襲いかかるのは容易に想像できる。

 このような社会インフラにかかわる制御システムを47年前から製造・開発しているのが、茨城県日立市にある日立製作所の制御プラットフォーム統括本部(通称:大みか事業所)である。太平洋に面する同事業所の敷地面積は東京ドーム4個分の約20万平方メートル。この広大な場所に4000人が働く大みか工場では、制御システムのハードウェアとソフトウェア、その関連サービスを提供している。

 これまでに列車運行管理システムや電力制御システム、鉄鋼システムなど幅広い分野に向けた制御システムを開発してきた。例えば、現在、JRグループの各新幹線や首都圏路線、在来線などの運行を管理するシステムはこの大みか事業所で生まれているのだ。そしてまた、ここでの実績が今まさに日立の海外展開を下支えしており、2015年には英国で鉄道運行管理システムの受注を実現した。

 実は日立における制御システムの歴史は古く、創業間もない1910年前後から開発している。元々はタービンをはじめとする製品のオプションとして作られていたが、技術進展によって製品同士が連携してシステム化していくと、制御こそがその製品の性能や品質を左右するようになった。そこで日立は制御技術および制御用コンピュータの専門工場として1969年に大みか工場を操業したのである。

 日立にとって大みか事業所はビジネスの心臓部分と言えるほど重要な拠点である。それを示すかのように、同社の中西宏明会長、東原敏昭社長、齊藤裕副社長といった現経営陣が大みかの工場長や副工場長を歴任している。いわば日立の経営トップへの登竜門とも呼べる場所なのである。

●組織再編でIoTビジネスに本腰

 現在、その大みか事業所を管轄するのが、新設されたサービス&プラットフォームビジネスユニット(BU)だ。

 日立は今年4月1日付で大規模な組織改編を行った。これまでの製品別カンパニー制を廃止し、サービス主体の事業群とプロダクト主体の事業群で構成される新たな体制に変更した。そのうちサービス主体の事業群は、「電力・エネルギー」「産業・水」「アーバン」「金融・公共・ヘルスケア」という4つのマーケットに、営業やエンジニアリング、コンサルティングなどのフロント機能を強化したフロントBUと、上述したサービス&プラットフォームBUから成る。

 さらにサービス&プラットフォームBUは、OT(運用技術)をつかさどる制御プラットフォーム統括本部と、ITを担う情報プラットフォーム統括本部に分けられる。これによって従来は社内の各部門に分散していたAI(人工知能)、アナリティクス、セキュリティ、ロボティクス、制御技術をはじめとした高度なサービスを提供するためのテクノロジーを同BUに統合、集約することが可能となったのだ。

 実はこの組織再編は、次世代に向けた日立の大きな戦略転換を意味する。つまりIoTをビジネスの1つの柱とすることを明確に示したのである。日立はこれまでさまざまなシステムを個別に顧客へ提供してきたが、IoTによってあらゆるシステムが接続されるようになると、システムごと、あるいは顧客ごとに制御機能をカスタマイズしていくのでは立ち行かなくなり、製品開発段階からOTとITを融合させることがますます重要になる。そこで日立では、組織体制そのものを変えることで、こうした時代の要請にいち早く応じようという考えなのだ。

 それを具現化するデジタルソリューションとして今年5月にIoTプラットフォーム「Lumada」の提供を開始。同ソリューションを活用することで、顧客は生産性や安全性の向上、プロセスの最適化、オペレーションコストの削減などを実現できるようになるという。これを今後の日立の大きな武器にすべく、フロントBUとも密な連携を図り、顧客の開拓に今まさに力を入れているのである。

 現に大みか事業所には、連日のように国内外から多くの顧客が視察や相談に訪れているそうだ。「元々、制御システムは顧客とともに作り上げてきた文化がある。このOTの強みをIoTソリューションに生かせるのは日立だからこそ。ここが他社との大きな差別化だ」と事業統括メンバーたちは口をそろえる。

 IoTによるビジネス成長や社会システムの整備は、もはや企業だけでなく、国を挙げて取り組むべき重点課題となっている。海外の競合企業も次々と参入するこの分野で他社を抜きん出てリーダーの地位を築けるか、日立が打ったこの一手に注目したい。

(伏見学)

最終更新:9/27(火) 6:43

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