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ロシア下院選、「景気よりもナショナリズム」

ニュースソクラ 9/27(火) 12:00配信

リベラル派の長期凋落浮き彫り

 18日投票のロシア下院選の結果が確定した。ウラジーミル・プーチン大統領を支持する「統一ロシア」が議席の3分の2以上を確保し圧勝、一方でリベラル派は1議席も取れなかった。予見しうる将来、リベラル派が立ち直れる見通しはない。好ましいか好ましくないかの問題は別にして、これが現実であろう。

 米ニューヨーク・タイムズなど米欧のメディアのロシア報道を読んでいると、ロシアは経済低迷と西側諸国による制裁、プーチン大統領の強圧政治にさらされ、国民の間には苦悩、失望、不満が広がっているのだから、政権党の「統一ロシア」の苦戦は必至のはずだった。ところが、「統一ロシア」は下院の議席数を2011年の前回選挙よりも大幅に上積みし、450議席のうちの343議席を確保した。ロシアでは今、憲法改正は大きな議論になっていないが、改正に必要な3分の2の300議席を上回る。

 一方でプーチン政権を強く批判するヤーブロコや国民自由党(PARNAS)といったリベラル政党はまったく議席を獲得できなかった。ロシアの下院選は比例代表小選挙区並立制を採り、半分の225議席を比例代表選挙で、残り半分を小選挙区選挙で選ぶ。比例代表選挙では得票率が5%以上でないと議席が配分されないから、従来から支持率の低いリベラル派政党への敷居は元々高かったが、小選挙区選挙では人気のある候補がいれば、1議席くらいは確保できると思われたのだが、ゼロだ。

 こうした結果については、不正選挙が原因であって、公正であれば、もっと得票できたはずだとの指摘が出るのかもしれないが、そうした声はあまり聞かれない。投票所には監視カメラが設置され、投票箱を操作しているような画面が映っている投票所もあった。しかし、全体の結果を左右するほどの不正はなかったというのが、選挙監視の市民団体の判断のようである。

 ロシアでの従来の選挙では、こうした投票現場での直接のあからさまな不正よりも、日本でいう役所ぐるみ、あるいは職場ぐるみで特定候補に肩入れする「行政資源」の動員が問題だった。国営メディアが特定候補を応援、政府を批判する候補を取り上げないといった傾向もあった。

 だが、今回はこうした問題についても国内での批判はそう強くない。2011年の下院選挙の後には、不正選挙批判やドミトリー・メドベージェフ大統領からプーチン氏への政権の「禅譲」が茶番劇だという反発からモスクワなどで大規模な政府批判デモが展開されたのだが、今回はその気配はない。

 どこの国の選挙でも現職が強いという傾向があるものの、今回のリベラル派の全くの不振の原因は、やはり彼らに国民に訴える力が不足し、争点も作り出せなかったことにあるのだろう。ヤーブロコの場合はグリゴリー・ヤブリンスキー氏、国民自由党ではミハイル・カシヤーノフ氏が前面に出て運動を展開したのだが、彼らは「昔の名前で出ています」といった印象を与え、新鮮味に欠けていた。

 では、「統一ロシア」圧勝の理由は何か。2014年のウクライナ危機の際、プーチン大統領がクリミアを併合、それが国際的批判にさらされるとかえって愛国主義が高まり、国難の際には彼の周りで結束しようという気運が高まっていたことを挙げられるだろう。ナショナリズムが景気の低迷や制裁への不安を上回っているとも言える。

 またプーチン政権が2011年の反政府デモへの反省から、選挙を不正に操作していないとの印象を作り出すことで、反発の突出を抑え込む努力を重ねてきたとの要因もあるのかもしれない。つまり、あからさまに反政府派を差別するような措置を回避し、擬似的との批判があるだろうが、公平感を演出してきた。プーチン大統領のクリミア併合をヒトラーによる1938年のズテーテン併合に例えて批判する候補や、プーチン大統領の弾劾を求める候補も国営メディアに登場している。もちろん、クレムリン当局にはそれだけ余裕があったということでもある。

 今回の選挙の特徴の一つは投票率の低下だ。前回の60%から47%へと下がった。その理由としては、(1)前回の下院選の投票日は12月だったが、今回は9月に前倒しされ選挙運動の本番が夏休みの時期と重なっていたため有権者がダーチャ(郊外の別荘)に出かけ、あるいは旅行中で、関心が薄かった(2)前回は3カ月後に大統領選が設定されており、大統領選との相乗効果で関心が高かった(3)「統一ロシア」が勝利することが予め分かっていたので投票に行かなかった人が多かった(4)争点があいまいで選挙戦が盛り上がらなかった――などが考えられる。

 投票率低下をもって選挙の正当性に疑問符をつける声もあるが、47%は一般的には異常に低いとは言えまい。ただ、モスクワやサンクトペテルブルグでは投票率は大きく下がっており、突っ込んだ分析が必要だろう。

 新下院は、「統一ロシア」(343議席)、ロシア連邦共産党(42議席)、自由民主党(39議席)、公正ロシア(23議席)、そのほか3つの政党(1議席ずつ、計3議席)で構成される。プーチン大統領は当然、「よい結果だった」と満足している。

■小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
現在、国際教養大学客員教授。

最終更新:9/27(火) 12:00

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