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【特集】『アトム:時空の果て』手塚眞×松山洋×イバイ・アメストイ直撃インタビュー! 彼らが感じる手塚治虫作品の魅力とは

インサイド 9/28(水) 20:00配信

手塚プロダクションとアクティブゲーミングメディアがタッグを組み、また多彩なクリエイターが参加を表明している、iOS/Android/PC向けカードゲーム『アトム:時空の果て』。本作は、「鉄腕アトム」をはじめとする手塚治虫キャラクターたちが作品の垣根を越えて結集し、サイバーパンクな未来世界を舞台に、まったく新しい物語を綴る一作として発表。また、開発の支援を目的とするクラウドファンディングを「Makuake」にてスタートさせ、目標額の200万円を先日達成しました。

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Makuakeでのプロジェクト成功は、本作に対する期待感の表れとも言えるでしょう。知名度の高さはもちろん、業界の最前線で活動を続けるクリエイターの多くが影響を受けたことでも知られている手塚治虫作品。そのIPを用いて、また各キャラクターを新たに描くことで、如何なるゲームを生み出すのか。気になっている方も多いことと思います。

クラウドファンディング達成に先駆け、本作の開発に当たっているアクティブゲーミングメディアのイバイ・アメストイ氏と、手塚治虫作品が常に身近な距離にあり、誰よりもよく知る手塚眞氏、そして本作に向けて2キャラクター分の設定や新たなデザインアートなどを担当するサイバーコネクトツーの松山洋氏をお招きし、『アトム:時空の果て』の立ち上がりや本作ならではの魅力、更に今後の展開など、非常に幅広い話を伺いました。


◆誰もが躊躇する「アトム」の新デザイン、まさかのスピルバーグ監督にも打診

──本日はよろしくお願いします。まずは、本作『アトム:時空の果て』にどのような立場で関わっているのか、読者の方々に向けた自己紹介をお願いします。

イバイ氏:アクティブゲーミングメディアの代表を務めるイバイです。当社は、このゲームの開発会社およびパブリッシャーという形になります。

手塚氏:私は、ヴィジュアリストという肩書きで映画を作ったりするほか、手塚治虫のコンテンツ全てを扱っている「手塚プロダクション」の取締役もやっています。

手塚治虫のコンテンツで、特に慎重にやらなければならないプロジェクトの時に、いつも監修をさせていただいています。今回も、手塚治虫作品全般をベースにしたゲームということで、監修を行っています。

イバイ氏:肩書きだけの監修ではなく、キャラクターデザインやゲームプレイ、シナリオも含めて、非常に細かく監修していただいています。

──手塚眞さんの監修を受けて、「なるほど」と思ったり感銘を受ける部分は多かったですか?

イバイ氏:はい、沢山ありました。例えばキャラクターデザインに関しては、「ここを変えた方がいいんじゃない?」といったご指摘はもちろん、「手塚先生は、こういう思いでこのキャラクターを描いたので、ここの部分は変えない方がいい」といった明確なアドバイスも多くいただきました。

手塚氏:意外と難しいんですよ(笑)。自分もクリエイターじゃないですか。クリエイターとして口を挟むのと、コンテンツを守る人間として口を挟むのは違うため、立場に一線を引きつつ話をしなければならないので。

──内からわき上がってきたものが、どちらの視点から生まれたものなのか、それを常に自分に問いかけていらっしゃるんですね。では松山さん、お願いします。

松山氏:本作のプロジェクトが立ち上がった後だと思いますけど、世界観や、登場するキャラクター、ユニットイラストにデザインなどを、パートナーシップを結んで一緒に作っていけるクリエイターを探しているという話を、AGMの“特攻隊長”こと東野さんから伺いまして(笑)。

──どのような形で話が進んだのでしょうか。

松山氏:いきなり「奥浩哉さんが決まりました」とか言われて(笑)。始めは、手塚治虫作品の案件とは教えてくれなかったんですよ。「面白いことをやろうとしている」「色んな人に声をかけている」「この案件であれば、多くのクリエイターがやりたがると思います」といった感じで切り出され、だからCC2さんと一緒にやりたいんですと。

──その話を聞いた、松山さんの第一声は?

松山氏:「だから中身を言え!」でしたね(笑)。

──ですよね(笑)。

松山氏:それで詳しい話を聞いたら、手塚治虫のIPでカードゲームを作るという話じゃないですか。一瞬、「どの手塚治虫!?」とか思いましたよ(笑)。そんなバカな、って。でもどうやら本当だったので、更に驚きました。

イバイ氏:松山社長はクリエイターを応援する人だという話は、ゲーム業界の中でも有名なんですよ。私がお会いしたのは今日が初めてなんですが、彼は自分のところのスタッフでも、どんどん前に出て取材を受けて欲しいと考えている方でして。

そういったお話を聞いたから、東野も松山さんのところへ話を持っていったのだと思いますが、受けていただけるとは全然考えていなかったので、本当に感謝しています。

松山氏:東野さん曰く誰でもいいわけではなくて、漫画が好きで企画に賛同してくれる人を捜していたそうです。その話を聞いた時に、「よくぞ俺のところにもってきたな!」と嬉しくなりました(笑)。

私はかなり漫画が好きなんですが、その中でも手塚治虫といえば神様みたいなものじゃないですか。そんな方の作品と、このプロジェクトを通して関われるなら、それは是非ともという感じでお返事させていただきました。

ちなみに今回ウチは、「鉄腕アトム」の中から2つのキャラクターをお預かりして、(本作向けの)キャラクター設定とデザインアート、ユニットイラストの作画を担当させていただきます。あとは、全般的なプロモーションの協力をやって欲しいと伺っています。その関係で今日も呼ばれたのだと思います(笑)。

──このプロジェクトを耳にしたら、やらずにはいられなかったと。

松山氏:ええ、そうですね。

手塚氏:どちらかですよね、「絶対やりたい!」と思うか、「怖くてやれない」と思うか(笑)。怖いというのは、色んな意味で。

松山氏:確かにそうかもしれません。

イバイ氏:色んな方にお話をさせていただいた時も、「興味がない」という回答は一回もなかったんですよ。「今忙しいから、来年まで待ってもらえるならやりたい」とか「このキャラクターなら手がけてみたい」といった反応も多くて。ただ唯一、「アトムだけは嫌です」と断られましたね。

──あれだけ確立され、また支持を受けているキャラクターですからね。

イバイ氏:手塚治虫さんのデザインを直接受け継ぐだけではいけませんし、普通の子供に近い視点で描くとなると浦沢直樹さんが描いた「PLUTO」のアトムを超えることはないでしょうから、今回はまったく異なるアプローチで取り組んでいます。

──では、現段階ですでに、アトムのデザインは進んでいるんですね?

イバイ氏:はい、手塚さんに監修していただきながら、会社の中で進めています。今年中には、本作のアトムのデザインをお披露目できます。「もう少しまゆげの感じを変えた方がいい」などの指摘をいただいて修正してみると、かなり印象が変わるので、やはりアトムのことをよく分かっていらっしゃるんだなと改めて感じます。

手塚氏:10年くらい前に、IMAGIという会社がアトムを題材にした3Dのアニメーション映画『ATOM』を制作しました。この時も監修として入ったんですが、漫画のキャラクターは平面なので非常に難しいんですよね。手塚治虫の平面というのは、ただの平面ではなく時間を描いている絵なので、始めから歪んだ状態の絵になっているんですよ。それを立体化すると不自然になってしまうんです。

本当に3Dにするのは難しくて、IMAGIのスタッフも色んな形でチャレンジしたんです。漫画の通りにやってみたり、リアルにしてみたり。でもやっぱりおかしいんですよね。その試行錯誤にずっとおつきあいしました。

──その時は、どのようなアドバイスをされたのでしょうか?

手塚氏:アトムって漫画の中で、女の子みたいなまつげをしているんですよ。あれがチャームポイントでして、ああいう子供みたいな見た目のキャラクターが強いという演出が面白いわけです。ただ、それを3Dにしてまつげをつけると、本当の女の子みたいになってしまうんですよ。

あと国際的な認識もありまして、アメリカの低年齢層の子供達というのは、まつげのあるキャラを「女の子」と認識してしまうんです。なので一度まつげを外してみたんですが、そうすると今度はアトムっぽさがなくなって。だから、「どのくらいのまつげにしようか」という模索をしましたね(笑)。身体の全てのパーツに関して、そういった苦労を経ました。

こうして出来上がったものは、「ワールドワイドでみんなが納得するもの」という形になるわけですが、そうするとどうしても、日本人が見ると違和感を感じる。でも逆に、日本人が一番好むデザインをそのまま立体化すると、諸外国に持っていた時に「おかしい」となってしまうわけです。本当に難しいんですよ。

──ではそういった中で、本作のアトムはどういったイメージで監修されているのでしょうか?

手塚氏:今回は世界観がサイバーパンクなので、ストーリー的にも設定的にも理解した上で、「その世界観の中のアトム」というイメージで考えています。あとは、他の登場キャラクターとの兼ね合いやバランスも考慮しつつ、ですね。

イバイ氏:ただ、「今回の作品のキャラクター」という理解をしていなくとも、「このキャラは誰ですか?」と聞いたらみんなが「アトム」と答えるようなデザインになっています。具体的に言えば、髪の毛であったり、全体の色の配色などですね。

──新たな切り口によるアトムのお披露目、楽しみにしています。

イバイ氏:ちなみに、アトムのデザインをスピルバーグ監督にやってもらえないか、お願いしたこともあるんです。

──大御所もいいところじゃないですか! どのような返答をいただいたんですか?

イバイ氏:ものすごく忙しいので、今は難しい。2年くらい待ってくれたらやれるかも、とのお答えでした。あと、スピルバーグ監督は、「A.I.」という映画に携わった時に「鉄腕アトム」を参考にさせてもらったと仰って、「子供を、大人も憧れるヒーローにするのはすごく難しいので、気を付けてくださいね」とも教えてくださりました。

──重いお言葉ですね

イバイ氏:スピルバーグ監督も参考にするほどのキャラクターなんですよね、アトムは。

手塚氏:「A.I.」の企画を最初に立てたのは、キューブリック監督と聞いています。亡くなる前にスピルバーグ監督へ譲ったそうですが、キューブリック監督は「鉄腕アトム」の大ファンだったんですよね。「2001年宇宙の旅」を製作する時にも、手塚治虫に直接連絡をとって「美術監督をやってください」と話を持ちかけたくらいです。なので、「A.I.」に対しても、「鉄腕アトム」が何かしらのアイディアや影響を及ぼしたのかなと思います。

──次々と意外なお話をいただけて、嬉しく思うと同時に驚きの連続です。色々とありがとうございます。


◆本作はハースストーン超えを狙う!? そしてクリエイターが感じる手塚治虫作品の魅力とは
──イバイさんは、手塚治虫作品の魅力とはどのようなものだと思いますか?

イバイ氏:10代や20代の時からもちろん読んでいるんですが、最近読んで感じた点として、「少ないページ数、少ないコマ数でたくさん語る」という点ですごく天才的な方なんだなと思いました。特に「MW」は、最初の20ページだけでも展開がすごく早くて、また気分が悪くなるくらいの内容が濃密に描かれているんですよね。

そしてもうひとつは、「とても辛いシーンをスラリと描いて、読者を“変な気持ち”にさせない力」も持っておられたんだなと感じています。例えば「アラバスター」という作品があるんですが、その中でロックというキャラが女の子に暴行を働くんです。ところがその被害者である女の子は透明人間なので、暴行シーンが描かれていないんですよ。

──被害に遭っている女の子が描画的に描かれていないわけですね。

イバイ氏:大人が読むと、何が起きているのか分かる。でも、当時10代だった僕は“変な気持ち”にならなかったんです。あれだけボリュームのあるものを描かれているのに、同時にひとつひとつを丁寧に描いていて、全てのページに意味があるんです。この2点を、私は特に強く感じています。

──ただただ過激に描くわけではなく、しかしドラマティックである、と。

イバイ氏:最近の漫画には、何も起きない作品も多いじゃないですか。ページ数はやたら多いのに、ひとつのバトルシーンが延々と続くような(笑)。

──ありますね、敢えて具体的なタイトルは聞きませんが!(笑)

松山氏:コラコラ(笑)。

イバイ氏:もちろんそれがいいこともあるんでしょうけど、やはりストーリーの見せ方や素晴らしさにおいて、手塚治虫先生は格別だったと思います。

──なるほど、ありがとうございます。では松山さんは、手塚作品の魅力をどのように感じておられますか?

松山氏:私が物心ついた時に手塚先生の作品を読んだのは、「七色いんこ」や「ブッキラによろしく」などの、少年チャンピオンで連載されていた時期のものでした。いわゆる後期の作品ですよね。ですが、学校の図書室には「火の鳥」「鉄腕アトム」が置いてあるわけですよ。

学校に置いてある本を描いている人が、漫画雑誌で連載をしている。片方はタダで読めて、片方はお金を払って読むという状況の特殊さから、すごい特別な漫画なんだなと漠然と感じていました。

あと、私が生まれる前から手塚先生は漫画を描かれていたので、後になってから「鉄腕アトム」や「ブラックジャック」を読んだんです。そのため、絵柄の違いも印象的だったんです。特に「鉄腕アトム」などは、可愛い絵柄じゃないですか。なのに、思いの外エグいというか、残酷な表現……言い換えるなら、「大人な表現」も結構多いんですよね。

その上で、おそらく敢えてだと思いますが、多くを語らずスパッと先に展開が進むんですよ。そういった世の中の残酷さと言うか、ドライな面を、よくあの時代に表現できたなと子供ながら感銘を受けたんです。どこかに、読者を「ゾクリ」と感じさせる要素が盛り込まれていて、「どこまで刺せば心に残るのか」を分かった上で構成されているんですよね。

──本当に、一生心に残るシーンとかありますよね。

松山氏:あと、長編モノも無論好きなんですが、短編も結構好きなんですよ。後にリメイクもされましたが、「鉄の旋律」という短編作品がありまして。いわゆる復讐モノでして、私自身好きなモチーフでもあるんですよ。でも手塚先生の描く復讐モノというのは、ある種本当に救いがないじゃないですか。その上で、人間の醜い部分と希望が持てる部分を両方描かれているのが、すごく印象的だなと思います。

──それではいよいよ、本作に関して詳しく教えてください。まず、本作のプロジェクトが立ち上がった経緯はどのようなものでしたか?

イバイ氏:私はだいぶ前から、日本にはなぜ「アベンジャーズ」のような作品がないのかと不思議に思っていたんです。日本ほどクリエイターの多い国はありませんし、キャラクターも大変多い。もちろん権利関係で難しいのだろうとも思いますが、何かできることはないのかなと考えていた時にふと、「手塚治虫」という名前が出てきたんです。

手塚治作品のキャラクターの数は、とても多いですよね。正確には何キャラくらいいるのですか?

手塚氏:細かいのまで入れると、2,000キャラくらいかな。

──そんなにですか!

イバイ氏:数も多い上に、もちろん格好いいキャラクターも沢山いるわけです。弊社の力では残念ながら、『スマブラ』のようなものや大作RPGなどは作れませんが、沢山のキャラを紹介しつつ、デザインもリメイクして今風にアレンジし、そして新たな物語も描けるようなゲームにするには、カードゲームが最適なのかなと考えました。

その時、ちょうど空いていた開発ラインのトップが『ハースストーン』にハマっていて、カードゲームの開発経験もあったんですよ。その彼が「『ハースストーン』を超えるカードゲームはできる」と言ってくれたんです。

──おおー!

イバイ氏:そしてゲーム部分のプロトタイプも作ってくれて、それを実際に遊んでみたところ、これだったら挑めるかなと。その後、手塚プロダクション様にお願いしに行ったら「じゃあ眞さんに聞いてみてください」と言われ、この企画が本格的に動き出しました。

──お話を持っていったのは、いつ頃になりますか?

イバイ氏:去年の夏ですね。

──昨年、本作の企画を始めて耳にした時、手塚さんはどのような印象を持たれましたか?

手塚氏:手塚キャラを使ったゲームは過去にも何作品かあったので、最初に企画を聞いた時点では「ああ、またゲーム化なんだな」という感じでした。ただ実際にイバイさんに会って、細かくお話を伺ったところ、「ちょっと面白そうだな」という感覚になりまして。

ただその一方で、僕は全然ゲームが詳しくなくて、カードゲームに対してもほとんど知識がない状態でした。そのため、ゲームとして面白いのかは全然分からなくて(笑)。なので色々見せてもらったり、イバイさんの会社にお邪魔したりする中で、じわじわと「今までのものが出来るんじゃないかな」という手応えになっていきました。

イバイ氏:眞さんは、例えば口調ひとつを取っても、「火の鳥は命令形で喋ることはないよね」とか「ブラックジャックはこのような口の利き方は絶対しないだろう」と、実に細かくチェックしてくださっています。

手塚氏:カードゲームと聞いていたのに、かなり分厚いシナリオが届いたので、「これ何のゲームなんだろう?」と思いましたよ(笑)。まるで映画みたいなシナリオなんです。しっかりと書き込まれていて。

イバイ氏:ベースゲームのシナリオは7万文字ほどになります。そしてエクスパンションごとに、それくらいのボリュームのものを出していこうと考えています。

──本編がリリースされた後は、エクスパンションが配信されるんですね?

イバイ氏:はい。3ヶ月ごとに展開していく予定です。最初のエクスパンションは、手塚治虫作品の「バンパイヤ」に基づいており、作品のキャラクターたちが登場します。その後は、サンダーマスクやビッグXといったスーパーヒーローたちが出演するものもありますね。

──手塚治虫作品が、サイバーパンクという世界観に集うという話を聞いた時に、松山さんはどのような印象を受けましたか?

松山氏:私のところにお話がきたのは今年の春頃なんですけども、その時点ではもうゲームのプロトタイプやストーリーの大まかなラインが出来ていたんです。世界観のイメージボードもあり、どういった作品なのか理解できる状態だったので、「なるほど、これは確かに面白い」と感じました。

ただ、普通、ワールドワイドで展開するゲームを作る場合、シナリオよりも世界観設定やデザイン、アクション性などのゲーム部分の面白さで勝負するものですが、この作品はシナリオにも力を入れているんですよね。(海外に展開する際には)シナリオを全部各国の言語に全部ローカライズしなきゃいけないわけですよ。「この量をよくやるなー」と率直に思いました(笑)。

──相当大変な量なんですね。

松山氏:そして同時に、すごいシナリオだなとも思いました。「鉄腕アトム」を真ん中に置きつつも、手塚治虫作品に登場する数多くのキャラクターが登場する夢のようなゲームになっているので、「これはイケるな」と私自身も感じています。

全貌はまだ言えませんが(笑)、本当に面白い作品ですよ。サイバーパンクと一口に言っても色々あるわけですが、ハードさも含めて、さじ加減が「ちょうどいいな」という印象です。

手塚氏:今回シナリオやデザインをやっていただいているイバイさんのところのスタッフさんは、日本人ではない方が多いんですよ。もちろん、皆さん手塚作品を読まれていて熟知されているんですが、やっぱり日本人の感覚とちょっと違うんですよ。それが逆に、すごく面白いなと感じています。「日本人じゃない方の手塚治虫観」のようなものが見えて、僕らにとっても新鮮ですね。

日本人のクリエイターだと、みんなある種の想いがあって、それはどこか共通なんです。どんなに変えようと思っても変えられない一線というか、むしろ守りたい部分のようなものが。でも、誰かが崩さないと面白くないじゃないですか。その辺りが、今までのストレートな手塚作品のアレンジとは違う部分かなと感じています。

──日本とは異なる文化で育った方々が、手塚作品に新しい刺激をもたらしてくれるわけですね。

手塚氏:例えば、手塚作品を使って「アベンジャーズ」みたいなヒーローものを作ろうと、思いつくことは出来ると思うんですよ。でも実際にはやれないですよね、怖くて(笑)。(こちらに)頼みにも来ないわけですよ。

──怒られてしまうかも、とも思ってしまいますしね(笑)。

手塚氏:酒の席で盛り上がって終わり、みたいな感じになると思うんです。でもその辺りの感覚を、イバイさんとかが軽く飛び越えてきてくれるので(笑)、逆に面白いなと。


◆本作の魅力から新たなプラットフォームまで!

──現段階で伺える範囲で構わないので、本作の魅力やポイントとなる部分を教えていただけるでしょうか?

イバイ氏:まずは完全オリジナルストーリーであること。展開する物語とゲームプレイは、何の問題もなく進めていけるようになっており、ストーリーで登場するカードのみでもプレイ可能です。なので、ストーリーを楽しみたいという人から、例えば『ハースストーン』に飽き始めて次のゲームを探しているようなコアユーザーの方まで楽しめる、幅広い一作になっています。

──物語とカードゲームの面白さ、それぞれがしっかりしていると。

イバイ氏:はい。両方の要素があるからといって、どちらかを疎かにしているということはなく、ちゃんと両立しています。ストーリーは、グラフィックアドベンチャーに近いところまで持っていけていると思いますし、ゲームプレイのコアな部分もしっかり出来ています。

──本作の舞台として、サイバーパンクを選んだ理由は?

イバイ氏:手塚先生が描かれた数々のストーリーは、三千年前や五千年後など、非常に長い時間軸に広がっているんです。そんなキャラクターたちを、無理なく共存させるには「未来」しかないと考えました。

あと、今現在のカードゲームは、ファンタジーをベースにしたものが主流です。だからこそ、「サイバーパンクで勝負しよう」と初期の頃から決めていました。

──では、サイバーパンクという舞台に手塚治虫作品のキャラクターを結集させる本作で、描きたいものは何でしょうか?

イバイ氏:描きたいこと、とは少し違ってしまいますが、原作を読んだ時に感じるのと同じような気持ちを、本作で感じてもらえたら嬉しいですね。例えば「スターシステム」は、好きなキャラクターとの再会が楽しいじゃないですか。「ブッダ」に、「三つ目がとおる」の写楽が出るとか。その再会でわき上がるハッピーな気持ちにはさせたいと思っています。

だからといって、キャラクターばかり登場させるような作品にはしたくないので、今回特に心がけたのは、無理のないシナリオを作りでした。最初から出したかったキャラも、無理に登場させるようなことはしていません。“手塚治虫の財産”と“ゲームというメディア”をリスペクトしながら、作らせていただいています。

──お祭りソフト的にキャラをどんどん出すのではなく、物語を踏まえて厳選し、後にちゃんと登場する機会を用意するというスタイルなんですね。ではここで、CC2さんが担当されたキャラクターデザインを拝見させていただきます。

松山氏:ウチで担当したのは、まず……こちらのアトラスです。

──(デザイン画を拝見しつつ)かなり格好いいですね。

松山氏:監修、これからなんですけどね(笑)。

──どういったイメージでデザインされたのですか?

松山氏:今回はこちらのアトラスと、あと……このデッドクロスを担当したんですよ。あ、このデザイン画、手塚さんはもう見られましたか?

手塚氏:いえ、初めて見ます(笑)。

松山氏:(イバイ氏に向かって)おい、どういうことだよ!(笑)

イバイ氏:それにはワケがありまして(笑)。このアトラスとデッドクロスのデザイン画を見た時に、「いや、何の問題もないでしょう」と思ったんです。で、眞さんに見ていただくというのは、私なりに大変怖いことでして……例えば松山さんのような方に出していただいたデザインに「これ直せあれ直せ」と言われてしまうと、ちょっと難しいところもあるんですよ。板挟みではありませんが(笑)。

このアトラスは見た瞬間に滅茶苦茶格好いいと思いましたし、ラフの時には松山さんのコメントなども書かれていたんですが、それらを見た限り全く問題ないだろうと考えて、最後まで残してみました。

松山氏:コラー! もうっ!(笑)

──では、今初めて見るこのデザイン画への、率直な生の声をお聞かせください。

手塚氏:まず、世界観にすごく合ってますよね。あと、思っていたよりはと言うと失礼なんですけども、案外忠実だなと感じました。

イバイ氏・松山氏:おおおー!

──忠実というのは、具体的にどういった部分で感じたのでしょうか?

手塚氏:シンプルな話なんですけど、デッドクロスなら被っている帽子や羽織っているマントの形などが、ひとつの記号的な要素として取り入れられており、好きな人が見ればどのキャラかちゃんと分かるようになっているなと。

そして、じゃあ原作のデッドクロスってどうだったっけと思って調べてみると、だいぶ違うっていうね(笑)。

──確かに、比較してみるとその違いは一目瞭然ですね。だけど要所は押さえられているという。

手塚氏:その「だいぶ違う」感がいいんじゃないかなと。

イバイ氏:このデッドクロスも魅力的ですし、アトラスの方も、原作で描かれた“悪いキャラクター”という要素はこの表情にも表れていますし、アトムに匹敵するような強さもしっかりこのデザイン画に反映されていますよね。

松山氏:「どちらもストーリーの大事な部分に関わる重要なキャラなので、そこを是非お願いします」と言われたので、そこのイメージを大事にしつつ、パッと見たときに分かるようなデザインにしました。その上でディティールは、本作の世界観に合わせる形で、デザインを進めさせていただきました。

あとは、アトラスはアトムと機能面で近いところがあり、例えばお尻からマシンガンが出るんですが、本作の世界観で「お尻からマシンガンを出す」とさすがに可愛くなりすぎちゃうじゃないですか。だから私の方で少しカラクリを考えさせてもらって、お尻からアーム状に太股の方に展開し、そこからマシンガンが出てきて射出するという形にしてみました。

──原作を踏まえつつ、本作の世界観にすり合わせる。その見極めの成果なんですね。

松山氏:そうですね。原作のテイストを活かしつつ、世界観に合わせて出来るだけ格好良く、を意識しました。ここに至るまでに、春から何度も何度もやってますから。なのに、まさか見せていないとは(笑)。

──ちなみに、何案ほど積み重ねて、今のデザインにたどり着いたんですか?

松山氏:アトラスに関しては、第7稿か8稿ですね。デッドクロスは、15稿か16稿くらいかかりました。私と、『.hack』シリーズのキャラクターデザインなどをしている細川誠一郎で、担当している2キャラに取りかかっているんですが、他にも色んなプロジェクトがあるのに、このプロジェクトだけで週に3回ミーティングしているんですよ(笑)。なので、社内だけでもかなり協議を重ねた末でのデザインになってますね。

──週3とは、かなり頻度の高いやりとりですね。

松山氏:私がこれまで見てきた漫画やアニメなどからフィードバックして、デザインに盛り込んでもらったものも色々あるんです。例えば……神崎将臣さんの「重機甲兵ゼノン」で描かれたバーニアの機構をモチーフにして、「アトラスのバーニアはこう開くんだ」とか、勝手に決めて指示したりなど(笑)。

こういうのはなかなか描く機会もないですし、やってて毎週楽しいですね。そもそも光栄な話ですし。細川は私より一回り若くて、手塚先生が亡くなった後に手塚作品を読んでいるため、感覚ももちろん違いますし、違う世代からのアイディアも興味深くて。そういったものを取り込みながら、作らせていただいております。

──大まかで構わないのですが、総勢で何名ほどのクリエイターの方々が本作に関わっているのでしょうか?

イバイ氏:大体15名くらいですね。これ以上拡げてしまうと統一感を持たせるのが難しくなってしまうので、厳選させていただきました。あとは、社内のイラストレーターが7~8名関わっています。キャラクターだけでなく、背景なども用意しなければなりませんしね。あとプログラマー4名にシナリオライター、ゲームディレクターなどを加えたチームで制作しています。

──現在、クラウドファンディングが行われていますが、どのような反響が寄せられましたか?

イバイ氏:最初出した時、私は個人的に「カードゲームはやりたい。けど、なんで手塚作品で?」と反応が来るだろうと予想していたんです。ところが実際には、「こんな手塚作品のゲームがやりたかった。でもなんでカードゲームなの?」という真逆の反応をいただきました。

その意見を見た時、まっすぐ家に帰れなくて公園に2時間くらいいましたよ。「どうしようかな」って(笑)。ところがプレイアブルをみんなが遊びだして、「なんだ、すごく良く出来るじゃん」という声が今大きくなってきており、Youtubeなどで動画を上げている方々も「悪くはないよ」という意見が多かったため、改めて自信を持ち直して開発に挑んでいるところです。

──鋭意制作中のことと思いますが、リリース時期はいつ頃になりそうですか?

イバイ氏:遅くとも、来年の1月頃には出せます。楽しみにしていてください。また、そこから3ヶ月ごとにエクスパンションを展開していく予定です。あとプラットフォームですが、プレイステーション系ハードでのリリースも予定しています。

──PS系ハードでも遊べるんですね! どんどんと広がりを見せていますが、いつか本作の世界観を持つアクションゲームといった発展に繋がって欲しいなと、個人的に願っています。

イバイ氏:我々としては、2つの目標があるんです。まずひとつは、本作を遊んだことがきっかけで、原作を改めて読んでもらえたら嬉しいですね。そしてもうひとつは、今仰ったように、本作のキャラクターを使ってもらって、例えば格闘ゲームといった他のジャンルのゲームを作ってもらえたら、本当に幸せです。

──もし新たな動きがあった時、松山さんはまた参加されたいと思いますか?

イバイ氏:その時はむしろ、開発として是非(笑)。

松山氏:デザインじゃなくて開発で?(笑)

イバイ氏:もちろんですよ(笑)。

松山氏:それは……ゼロからの話になるので、その時にまた改めて打ち合わせしましょう(笑)。

──改めて検討していただく、と(笑)。では本作の話に関する締めとして手塚さんにお聞きしますが、一番期待されているポイントというのはどこでしょうか。

手塚氏:僕らの知っている手塚治虫観を一回覆して欲しいんですよね。覆すといっても、ストーリーや内容が真逆を行くという意味ではなく、イメージしていたものが違って見えてくるような感覚ですね。そういうものになればいいなと思っています。

ひとりひとりのクリエイターも力を持っていらっしゃるんですが、そういったクリエイターが集まることで、それこそ「アベンジャーズ」じゃありませんが、力のある人が集まることで、どういう化学反応が起きてどんなものになるのか。本作はまだ制作中なので、まだ誰も想像もつかないわけですが、だからこそワクワクするものを感じています。

──新しい手塚ワールドが誕生する瞬間に立ち会えるかもしれないんですね。期待が膨らみます。最後になりますが、本作に興味を抱いているユーザーさんに、それぞれメッセージをお送りください。

イバイ氏:私たちは外国人ばかりの会社ですが、今回は貴重なIPを手元に置かせていただいて開発しているというのはしっかりと把握しています。そういった意味では、日本のコンテンツ業界に感謝の気持ちを持っており、恩返しとしてこの作品を作っているので、是非とも一度遊んでいただき、感想を私たちに教えてください。

──その感想がエクスパンションなどに反映されるわけですね。

イバイ氏:もちろんです。出来れば、売り切りではなく10年20年と育てていきたコンテンツなので、是非ともよろしくお願いします。

──では続いて、松山さんと手塚さん、お願いします。

松山氏:ウチはもうともかく、格好良くデザインするので、ゲームの中でこのユニットをゲットしていただいて楽しく遊んでもらえればと思っています。あとは、プロモーション協力を頑張ります(笑)。イバイさんも仰っていましたが、このゲームがきっかけで、より沢山の人たちが「鉄腕アトム」をはじめとした手塚治虫作品を知ってくれるといいなと思います。

手塚氏:どうしても皆さん、「手塚治虫作品」と言われると先入観があると思うんですよ。でも本作はかなりイメージも変えているので、どうか先入観なく、まっさらな状態で遊んで欲しいと思います。そして本作の遊びを通して、逆に新しい何が見つかるかを楽しみにしていただければ嬉しいですね。

──多くの方々の想いが詰まった『アトム:時空の果て』、楽しみにしています。本日はありがとうございました!

企画・編集:栗本浩大(@koudai5511)
聞き手・文:臥待 弦

最終更新:9/29(木) 18:56

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