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【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~当面は消費主導の成長、輸出はL字型の緩やかな回復へ

ZUU online 9/28(水) 18:40配信

■要旨

東南アジア5カ国およびインド経済は、緩やかな回復の動きが見られる。景気の牽引役となったのは民間消費だ。低インフレの継続と安定した雇用・所得環境による家計の実質所得の増加、そして政府の景気刺激策と緩和的な金融政策も追い風に民間消費は堅調に推移している。また輸出は底打ちしつつあるものの、世界経済の先行き不透明感から民間投資の低迷は続いており、自律的回復の動きは見られない。

先行きの消費者物価上昇率はエネルギー価格下落による物価押下げ効果の剥落と緩やかな通貨安が進むなかで上昇傾向が続くと見ているが、農業生産が回復して食料インフレが和らぐことから物価の上昇ペースは緩やかなものとなるだろう。

先行きの金融政策はインドとマレーシアでは年内の利下げを見込むが、総じて物価は緩やかな上昇が見込まれること、また通貨が軟調に推移することから、各国中銀は現行の緩和的な金融政策を維持するも追加緩和には慎重になるだろう。

経済の先行きは、16年後半は引き続き個人消費主導で成長率が小幅に上昇し、17年は輸出の緩やかな拡大と投資の持ち直しを見込むものの、物価上昇によって個人消費が鈍化して成長率が横ばい圏で推移すると予想する。

■東南アジア・インド経済の概況と見通し

◆経済概況:内需主導の緩やかな回復

東南アジア5カ国およびインド経済は、総じて内需主導の緩やかな回復の動きが見られる。景気の牽引役である民間消費は低インフレの継続と安定した雇用・所得環境による家計の実質所得の増加、そして政府の景気刺激策、緩和的な金融政策も追い風に堅調に推移している。

また公共投資はインフラ事業の進展が景気の支えとなっている。輸出は底打ちの動きが見られるものの、中国・資源国の景気減速を背景とする世界経済の先行き不透明感から民間投資の低迷は続いており、輸出主導型の回復の動きは見られない。

◆物価:原油安要因の剥落と通貨安を背景に緩やかに上昇

消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は、エネルギー価格下落による物価の押下げ効果の剥落と干ばつ被害に伴う食品価格の高騰により、16年前半は上昇基調で推移した。

原油価格は今年2月に上昇基調に転じており、先行きは当研究所では17年末にかけて50ドル台前半まで緩やかに上昇すると予想している。また米国の利上げを背景とした緩やかな通貨安が進むなかで輸入インフレが物価上昇圧力となり、アジア新興国のインフレ率は今後も上昇基調で推移するだろう。

もっとも(1)16年後半にはエルニーニョ現象の終息を背景に農業生産が回復して食料インフレが和らぐこと、(2)中国の過剰生産設備の解消に向けた取組みの継続を背景に国際商品市況が低水準で推移すると見込まれることから、物価上昇ペースは緩やかなものとなるだろう。

◆金融政策:緩和的な政策スタンスは継続

金融政策は資源安を背景とするインフレ率の低下や米国の利上げ観測の後退を受けて昨年から追加的な金融緩和を実施するケースが依然として多く見られる。昨年はタイとインドが積極的に政策金利を引き下げており、年明け以降もマレーシアやインドネシア、インドが利下げに踏み切るなど、緩和的な金融政策が続いている。

年明け以降、原油価格の底打ちや英国のEU離脱問題による米国の利上げ観測の後退を受けて、新興国に資金が回帰するなか、アジア新興国通貨は堅調に推移してきた。しかし、当研究所では米国の利上げが今年12月に一回、来年も年二回を予想しており、先行きはアジア新興国通貨が軟調に推移すると予想する。

もっともインドネシアやインドは経常赤字が改善すると共にインフレ率も低水準で推移するなど、以前ほど通貨が売られやすいマクロ経済状況ではなくなってきたこと、また米国の継続的な利上げは世界経済の動向および市場との慎重な対話のもと実施される前提のもと、アジア通貨が急速に下落する可能性は高くないと思われる。

先行きの金融政策はインドとマレーシアでは年内の利下げを見込むが、総じて物価は緩やかな上昇が見込まれること、また通貨が軟調に推移することから、各国中銀は現行の緩和的な金融政策を維持するも追加緩和には慎重になるだろう。

◆経済見通し:当面は消費主導の成長、輸出はL字型の緩やかな回復へ

2016年後半の東南アジア・インドの成長率は年前半から小幅に上昇すると予想する(図表4)。海外経済は米国を中心に主要先進国の緩やかな回復が続くものの、中国・資源国経済の減速を受けて輸出は底打ち後も伸び悩む展開となるだろう。また景気の先行き不透明感は払拭されず、製造業を中心に設備投資の回復が遅れることから、輸出・民間投資主導の回復軌道に入る展開は想定していない。

しかし、景気は個人消費を中心に年後半も緩やかな回復基調を維持するだろう。アジア新興国では安定した雇用環境と継続的な賃金上昇、そして低水準のインフレ環境が続くと見込まれ、個人消費は堅調を維持すると見込む。また政府によるインフラ事業の推進や景気刺激策、そして緩和的な金融政策も引き続き景気の支えとなるだろう。

2017年は、成長率が概ね横ばい圏で推移すると予想する。中国の景気減速および鉄鋼、石炭など基幹産業の過剰生産設備の解消に向けた動きは続くと見られ、輸出は本格回復には至らないものの、先進国経済の緩やかな回復と原油価格の緩やかな上昇による資源国経済の底打ちによって増加傾向が続くだろう。こうしたなかで企業収益は改善し、設備投資も持ち直すと予想する。

一方、個人消費は引き続き中間層の充実が追い風となるが、緩やかな物価上昇によって家計の実質所得が目減りして景気の牽引力は鈍化するだろう。もっとも金融政策は現行の緩和的な政策を継続すると見込まれるほか、公営企業の投資拡大や追加的な消費刺激策など景気に配慮した財政運営は続くと見込まれ、景気が下振れる可能性は低いと予想する。

先行きの下方リスクとしては、米国の金融政策運営における市場との対話の失敗や中国・資源国経済の不安定化、英国のEU離脱問題を巡る不透明感などによって国際金融市場のリスクオフの動きが強まることが挙げられる。アジア新興国通貨は堅調に推移しているものの、先進国通貨に比べて信用力が低いことには変わりなく、通貨が急落するリスクには引き続き注意を払う必要がある。

また道半ばとされる中国の過剰生産設備の解消に向けた動きが長期化すれば、アジア新興国の輸出の本格回復はさらに遅れることになるだろう。このほかASEANにおける爆弾テロの発生や南シナ海の領有権問題の緊張が高まれば、外国人観光客数の減少や外国人投資家の投資の見合わせに繋がり、景気の下押し要因となるだう。

■各国経済の見通し

◆マレーシア

マレーシアの16年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比4.0%増と、前期の同4.2%増から一段と低下し、2009年以来の低水準となった。昨年4月に導入した物品・サービス税(GST)の悪影響の剥落によって1-3月期に景気が底打ちしたかと思われたが、4-6月期は積みあがった在庫の取り崩しによって成長率が更に低下した。もっとも民間・公共部門共に消費と投資は上昇しており、輸出も海外経済の停滞とリンギ安の恩恵が剥落するなかでも小幅に増加するなど、景気の実態は成長率が示すほど悪くはない。

16年後半は、景気が底打ちして緩やかな回復基調に転じると予想する。景気の牽引役は民間消費だ。足元では干ばつの悪影響が和らいでインフレ圧力が後退し、失業率の上昇傾向も収まりつつある。また政府による従業員積立基金の徴収率の引下げや低所得者向けの一時金支給策の継続、そして7月以降の最低賃金の引上げと公務員給与の見直しといった政府の景気刺激策も家計の購買力の向上に繋がり、民間消費は堅調に推移するだろう。

また投資は引き続き大型のインフラ整備事業によって建設投資が堅調に推移し、設備投資も消費需要の増加を受けて底堅い推移を見込む。さらに輸出はパーム油や天然ゴムといった生産が回復する農産物が持ち直して増加傾向を維持すると予想する。なお、中央銀行は7 月にインフレ見通しを下方修正し、政策金利を0.25%引き下げている上、11月の金融政策会合でも追加利下げの可能性がある。今後は金融政策も消費・投資の追い風となるだろう。

17年も緩やかな景気回復が続きそうだ。米国を中心とする海外経済の回復を受けて、輸出は増加傾向が続くだろう。また原油価格がの緩やかな上昇を受けて民間投資が加速するなか、雇用・所得環境が改善して民間消費も堅調を維持するだろう。もっとも政府の資源関連収入が乏しい状況は変わらず、追加的な景気刺激策は期待できないだろう。

結果、16年の成長率は前年比4.1%増と減速し、17年は同4.5%増の緩やかな回復を予想する。

リスクは引き続き政府系投資会社ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)を舞台とするナジブ首相の資金流用疑惑の動向であろう。国内では反政府デモや与党を離脱したマハティール元首相らよる野党連合の結成、米国政府による1MDB提訴など政情の不安定化に繋がる火種は燻っている。

同国は経常収支の赤字化が目前で周辺国に対して相対的に通貨が売られやすい状況にあるなか、原油価格が再び下落に転じたり、国際金融市場が混乱する事態が到来すればリンギ安の進む展開が予想される。この場合、通貨安による輸入インフレを通じて実質所得が目減りして消費が冷え込み、景気の停滞が続く恐れがある。

◆タイ

タイは14年5月の軍事クーデター後に政治が安定していくなか、景気の回復基調が続いている。16年4-6月期の成長率は前年同期比3.5%増と、過去3年間で最も高い成長率を記録した。

個人消費は、農産物価格の上昇による農業所得の増加や政府がタイ正月(ソンクラーン)期間に実施した消費刺激策(*1)、そして年初に実施された物品税改正の影響が和らぎ新車販売が増加に転じたことが消費を押上げた。また外国人観光客数の増加によって二桁成長が続くサービス輸出も引き続き景気の牽引役となった。

一方、これまで景気を牽引していた公共投資は大型インフラ整備事業の進展による大幅上昇が一服した。また財輸出の減少と不動産市場刺激策の効果剥落を受けて民間投資も停滞しており、自律的回復の動きは見られない。

16年後半は、成長率が3%程度までやや低下すると予想する。農産物価格の反発や干ばつ被害の収束によって農業所得の増加が続くものの、物価上昇と高水準の家計債務、そして政府の景気刺激策の効果が剥落することから、民間消費はやや鈍化すると見込む。また輸出は底打ちに向かうものの、企業の投資意欲の回復は遅れて民間投資も低調に推移すると予想する。

もっともサービス輸出は8月のタイ南部の連続爆発事件の影響が限定的で高い伸びを続けると共に、公共投資も中長期の大型インフラ整備事業の着工が増えて勢いが強まるだろう。

2017年は、成長率が3%前半まで小幅に上昇すると予想する。海外経済の緩やかな回復によって輸出が拡大するなか、企業収益が改善して設備投資マインドが回復するだろう。また、これまでの投資優遇策も奏功して民間投資がプラスに転じると見込む。

また個人消費は引き続き物価上昇と高水準の家計債務が消費の重石となるも、雇用・所得環境の改善やファーストカー減税(2012 年導入)で定められた5年間の車両保有義務期間の満了による新車販売の回復によって底堅く推移しよう。このほか、財政余力のあるタイ政府の拡張的な財政運営によって政府支出は拡大基調を続けるほか、サービス輸出も外国人観光客数が堅調に増加し、引き続き景気の押上げ要因となるだろう。

金融政策は、昨年4月に政策金利を引き下げて以降、政策金利が据え置かれている。景気の回復基調が続くなか、中央銀行は過去最低水準の政策金利の更なる引き下げに対して消極的姿勢をとっている。しかし、先行きは物価が上昇するも低水準に止まること、また8月の国民投票における新憲法草案の可決によって民政移管に目処が付き、足元では海外から資金流入が増加してバーツ高が進んでいることから、景気の下振れリスクが高まる局面では昨年4月以来となる金融緩和に踏み切るものと予想する。

結果、成長率は16年が前年比3.2%増、17年は同3.3%増と概ね横ばいを予想する。

1 政府は4月のソンクラーン(4月13~15日)に伴う9日間の休暇中の飲食費と旅行関連費用を対象とした所得控除策(上限は1万5,000バーツ)を実施した。政府は同様の消費刺激策を12月25-31日にも実施している。

◆インドネシア

インドネシア経済は、国際商品市況の下落や中国経済の減速を受けて2015年まで4年連続で減速したが、16年4-6月期の成長率は前年同期比5.2%増と、昨年7-9月期(成長率は同4.7%増)に底打ちして以降、景気は緩やかな回復傾向にある。この景気回復の原動力は予算執行の迅速化による政府支出の拡大と昨年9月から矢継ぎ早に政府が打ち出してきた計12本の経済政策パッケージの実施である。さらに足元ではGDP の約6 割を占める民間消費も拡大に転じている。

15年11月に燃料補助金削減に伴う物価上昇圧力が剥落し、また今年2月には原油価格が底打ちして通貨が堅調に推移していることを背景に、6月のCPI上昇率は前年比3.5%と昨年6月の同7.3%から半減し、消費者の購買力が向上している。またインフレ圧力の後退と経常赤字の縮小を背景に中央銀行が16年上半期に4度の利下げ(計1.0%)を実施したことも民間消費の回復に寄与したと見られる。

16年後半は、5%を若干上回る横ばい圏の成長を予想する。低インフレ環境の継続と9月の中銀の追加利下げを追い風に民間消費の回復は続くだろうが、これまで景気を押上げてきた政府支出は年前半の予算執行の前倒しや税収不足に伴う歳出削減によって伸び悩むと見込まれる。また主力の資源関連産業は、資源価格の低迷と中国の構造改革に伴う資源需要の減少を背景に輸出と設備投資の減少傾向が続き、景気の重石となるだろう。

17年は緩やかな景気回復を予想する。資源関連産業は引き続き勢いを欠くものの、資源価格の上昇や海外需要の拡大によって輸出がプラスに転じるなかで企業業績が改善し、またこれまでの経済政策および金融緩和の効果が浸透して民間投資も持ち直すだろう。

民間消費は、雇用・所得の改善と追加的な経済政策パッケージの実施が物価上昇による実質所得の押下げの影響を相殺して底堅い推移が続くと見込む。一方、政府はインフラ事業を推進して成長をサポートするものの、財政余力が乏しいことは変わらず、公共部門全体としてみれば景気の後押しは期待できないだろう。

金融政策は、当面は8月の政策金利指標の見直しと9月の利下げの政策効果の波及を見るために様子姿勢を続け、その後は物価が上昇に転じるなかで追加利下げには慎重になると予想する。

結果、成長率は16年が前年比5.1%増、17年は同5.3%増と緩やかな回復を予想する。

当面のリスクは16年度の税収の下振れだ。今年7 月、ジョコ大統領は昨年に続いて内閣改造を実施し、財務相としてスリ・ムルヤニ世銀専務理事を迎えた。スリ氏はユドヨノ政権下で、国家開発企画長官や経済調整相、財務相を歴任し、国内における評価も高い人物だ。現在はスリ新財務相のもとで第2 次補正予算の編成に入っている。

財政赤字を拡大させることでインフラ事業は優先的に継続されるが、国防や農業予算など歳出全体では133.8兆ルピアが削減される見込みだ。また7月から来年3月にかけて実施されている租税特赦法は、海外へ逃避した資産の国内還流や税収の増加などの効果が期待されるが、9月8日時点の加算税収額は目標の165兆ルピアに対して4.5%に止まっている。今後さらに財政リスクが高まり、通貨が下落する展開もあるだろう。

◆フィリピン

フィリピンの16年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比7.0%増と、前期の同6.8%増から一段と上昇し、直近3年間で最も高い伸びを記録した。4-6月期は5月の正副大統領選を含む統一選挙の特需を受けて、民間・公共部門が揃って好調だったことが高成長の主因となった。選挙特需のほか、民間消費は低インフレと雇用・所得の改善による家計の購買力向上、また投資はインフラプロジェクトの加速による建設投資の大幅増加(同14.1%増)も景気の追い風となっている。

さらに輸出はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシグ)が好調でサービス輸出が同20.4%増を記録するともに、財輸出も同4.1%増の緩やかな拡大基調を維持している。しかし、力強い内需の拡大によって輸入が同20.9%増の大幅な増加が続いているために、純輸出の寄与度は大幅なマイナス(▲6.6%ポイント)を記録している。

16年後半は、内需主導の堅調な景気がやや減速するだろう。年後半は政府の予算執行が鈍ると予想され、公共投資と政府消費は鈍化するだろう。また民間消費は干ばつの影響が和らいで農業所得が持ち直すも、選挙特需の反動や海運不況による海外就労者の送金の減少などを受けて鈍化しそうだ。

さらに民間投資は官民パートナーシップ(PPP)によるインフラ整備の進展などによって拡大基調が続くものの、政権交代による企業の投資の見極め姿勢が重石となるだろう。一方、サービス輸出は先進国経済の緩やかな拡大を受けて好調を維持すると共に、輸入がやや鈍化することから、純輸出の成長率に対するマイナス寄与は縮小するものと見ている。

2017年は年前半まで選挙特需の剥落の影響が残ることから、成長率は実力よりも低い水準に止まるが、年後半には再び景気が上向くだろう。まず財・サービス輸出は海外経済の緩やかな拡大を受けて堅調に推移するだろう。また17年度予算案は財政赤字拡大と税制改革に伴う税収増によって、歳出が前年度比11.6%増の大型予算が編成される見込みであり、インフラ事業と教育分野の支出拡大など公共部門は引き続き景気の追い風となりそうだ。

こうした新政権の積極的なインフラ投資と外資規制緩和などビジネス環境の改善が進むに連れて、民間投資は再び加速すると見込む。もっともドゥテルテ大統領の強権的な治安対策や外交面の失言を受けて、同国の信用格付けが引き下げられれば、反対に企業の投資意欲が急速に萎むリスクもあるだろう。このほか、民間消費は緩やかな物価上昇によって実質所得が鈍化するものの、GDPの約1割に相当する海外就労者の送金の回復が下支えとなって堅調を維持するだろう。

金融政策は、先行きのインフレ率が中銀目標の範囲内(1~4%)で推移することから、現行の緩和的な政策は維持されると予想する。また中央銀行は6月に政策金利コリドーを導入している。今後、政策金利と市場金利の連動性が高まり、金融政策の実効力が強まることが期待される。

結果、成長率は16年が前年比6.4%増、17年は同6.2%増と周辺国に比して高めの成長が続くと予想する。

◆ベトナム

ベトナムは安価な労働コストや地理的に中国と近い立地の優位性、政府による外資誘致策、そしてTPP交渉参加国であることから外資系製造業から戦略的な生産基地として注目され、投資主導の成長が続いている。

15年の成長率は前年比6.7%増と、雇用・所得環境の改善とインフレ率の低下による実質所得の増加を受けて、サービス業が好調で高成長となったものの、16年1-6月期の成長率は前年同期比5.5%増と、昨年同1-6月期の同6.3%増を下回っている。

今年の景気減速は第一次産業の落ち込みによる影響が大きい。農業は北部の寒波や中・南部における干ばつや塩害によって生産が落ち込み、また漁業は4月に環境被害による魚の大量死の影響で鈍化し、第一次産業全体では2期連続で減少している。

また第二次産業は建設業と外資系が主導する製造業が好調を維持しているものの、鉱業が2期連続の減少となり、第二次産業全体では前年同期の伸び率を下回る水準に止まっている。一方、第三次産業は農業所得が悪化しているものの、低インフレ環境と継続的な賃金上昇によって家計の実質所得が増加したため、卸売・小売業や情報・通信業を中心に好調を維持している。

16年後半は、政府目標の6.7%達成は難しいだろうが、成長率の上昇が続くだろう。鉱業部門は原油安を背景に低迷するだろうが、海外経済の緩やかな回復が続くなかで輸出が堅調に推移し、また1~8月に認可された対内直接投資(前年比7.7%増)が実行に移るなか、主力の外資系製造業を中心に第二次産業は堅調に推移するだろう。

また第一次産業も干ばつと塩害の悪影響が和らぎ農業生産が拡大するほか、農業所得の改善と5月の公務員の最低賃金の5%引上げによって消費者の購買力が向上することから、第三次産業も好調を維持すると見込む。

17年は、小幅ながら前年同期の成長率を上回る展開を予想する。第一次産業は農業生産の回復によって前年対比で伸び率は高めに推移するだろう。農業所得は増加するものの、インフレ率は原油価格の上昇やドン安に伴う輸入インフレによって上昇することから消費者の購買力は低下し、第三次産業は前年対比で若干鈍化するだろう。しかし、原油価格上昇は鉱業部門の回復に繋がり、また海外経済の緩やかな回復が続くなかでドン安は輸出の追い風となって外資系製造業の生産拡大に繋がることから、第二次産業は前年同期の伸びを上回ると予想する。

なお、ベトナムは財政余力が乏しく、通貨の信用が低いため、政府の財政出動や中央銀行の金融緩和による景気の押上げは、16年同様に期待できない。むしろ輸出が伸びず、貿易収支が赤字化するような展開となれば、米国の利上げなど国際金融市場のリスク回避の動きに合わせて、通貨が急速に下落する展開には注意を払う必要があるだろう。

結果、成長率は16年が前年比6.1%増、17年は同6.5%増と予想する。

◆インド

インドは7%台の力強い成長が続いているものの、16年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比7.1%増(前期:同7.9%増)と低下し、過去5四半期で最も低い成長率となった。4-6月期は、GDPの約6割を占める民間消費の鈍化と民間部門を中心に投資の低迷が景気を押し下げた。輸出は1年半ぶりにプラスに転じたものの、民間投資は2期連続で減少している。製造業の生産設備に過剰感があることや不良債権問題を抱える商業銀行の消極的な貸出姿勢が民間投資の不振に繋がっている模様だ。

民間消費は、インフレ率の緩やかな上昇による家計の実質所得の伸び悩みが消費の抑制に繋がったものと見られる。しかし、中央銀行が15年1月から段階的に進めた計1.5%の利下げを背景に、4-6月期の自動車販売台数(二輪・三輪含む)は前年同期比13.4%増(前期:同8.4%)と加速するなど、消費は依然として堅調を維持していると見られる。また政府は16-17年度予算(歳出は前年度比10.3%増)の執行に加え、行き詰った投資プロジェクトの再開を進めるなど、政府消費と公共投資は景気をサポートしている。

16年度後半は、民間消費が再加速して7%台後半の高い成長が続くと予想する。まず平年並みと予想されている今年の南西モンスーン(6~9月)の降雨量は9月中旬時点で平年の95%と概ね順調に推移している。今後は過去2年間、雨不足に悩まされた農業生産が持ち直し、農業所得の増加を通じて農村部の消費需要が増加すると見込まれる。

また約2割の増加が決まった公務員給与と年金受給額が8月に支給され始めたことから、都市部も消費需要が増加する見込みだ。一方、投資は引き続きインフラ整備の進展など公共部門が支えとなるものの、民間投資を中心に停滞すると見込む。銀行の不良債権問題の解消には時間が掛かること、また輸出は底打ち後も低調に推移すると見られ、製造業を中心に企業が設備投資に積極的になるとは考えにくい。

17年度は、民間消費がやや減速するものの、輸出と投資が持ち直すなかで7%代半ばの伸びを維持するだろう。民間消費は物価上昇によって家計の購買力が抑制されると共に、16年度の所得増の消費押上げ効果が剥落することから減速するだろう。

一方、輸出は先進国向けを中心に緩やかな拡大が続くこと、また構造改革の象徴である物品・サービス税(GST)の導入(来年4月)によって複雑な間接税体系が一本化されれば、ビジネス環境の改善を通じて外国企業のセンチメントが改善することから、民間投資も持ち直すだろう。

金融政策は、足元のインフレ圧力の後退を受けて短期的には追加利下げの可能性があるものの、ラジャン元総裁の路線を継承すると見込まれるパテル新総裁の下、総じて物価抑制を優先した慎重な政策を続けるものと予想する。結果、成長率は16年度が前年度比7.5%増、17年は同7.4%増と予想する。

斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

最終更新:9/28(水) 18:40

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北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。