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マイク片手に「出発進行!」 異色の「鉄道カラオケ」が業界大手から生まれたワケ

ITmedia ビジネスオンライン 9/28(水) 9:07配信

 「快特品川行きです 次は京急蒲田に止まります」――そんなフレーズから始まる“カラオケ”がある。その名も「鉄道カラオケ」。

【運転士・車掌のせりふは細かなところまでこだわり】

 どんなものなのか。鉄道カラオケの“曲”をリクエストすると、画面には運転席からの映像が現れる。電車がホームを発車すると、「発車定時 快特 次 蒲田停車」という運転士の喚呼のテロップ。運転席からの風景を楽しみながら、途中「進行!」といった掛け声も。駅が近づくと「次は京急蒲田です 羽田空港方面はお乗り換えです」と車掌によるアナウンスのテロップが表示される。

 テロップに合わせ、それらしく読み上げれば運転士や車掌になりきって楽しむことができる。それが「鉄道カラオケ」だ。──と説明されても、何が面白いのかさっぱり分からないという人もいるかもしれない。だがこの鉄道カラオケ、ヒット曲に混じって多くのリクエストがあるのだという。

 配信しているのは通信カラオケ大手のエクシングが展開する「JOYSOUND」。第1弾は京浜急行電鉄(4月配信)、第2弾は東武鉄道(8月配信)というラインアップだ。異色の「鉄道カラオケ」はなぜ生まれたのか? 企画の生みの親、エクシング商品企画部副部長の伊藤秀樹さんに話を聞いた。

●ミッションは“カラオケに来ていない人を呼んでくる”

 鉄道×カラオケというアイデアは業界初だ。担当者の伊藤さんがさぞ熱心な鉄道ファン(いわゆる“鉄”)だったのだろう――と聞いてみたところ、「実は、全く」とキッパリ返されてしまった。

 “鉄”ではないのにどうして鉄道カラオケの企画が生まれたのか。それには、カラオケ市場の現状が影響していた。

 「今、カラオケ市場は横ばい状態にあります。更に成長していくためには、カラオケに来ていない人、来なくなってしまった人を呼んでくる必要がある。そのために、楽曲コンテンツを強化することはもちろん、もっとカラオケをより多くの方に楽しんで頂くために新たなコンテンツも生み出していきたいという思いがありました」

 そこで考えたのが鉄道ジャンルだ。鉄道ジャンルは、“マス”というよりもどちらかというと“ニッチ”に属しているように見えるし、“カラオケによく来る層”とも重ならないのでは――と思ってしまう。しかし逆に言えば、“普段カラオケに行かない層”“昔は行っていたけれど、環境の変化で遠ざかってしまった層”と重なると言うことができる。

 また、エクシングとレコード会社のテイチクエンタテインメントがグループ化したこともきっかけの1つだ。

 「グループ化するにあたって、『エクシングとテイチクのグループシナジーを上げたい』という想いがありました。そんな時、テイチクが鉄道関係のコンテンツを厚く出していると気づいたんです」(伊藤さん)

 演歌の大御所が名を連ねる老舗のテイチクだが、実は鉄道関係にも強いことで知られている。JR東日本の発車メロディの制作を担当し、また鉄道関連の映像コンテンツを多数販売している。

 「以前から、電車の車窓の風景に合わせてアナウンスをするカラオケコンテンツの企画は検討していました。テイチクのコンテンツを活用すれば、シナジー効果を生むという目標を達成でき、かつこれまでできなかった企画も成立するのではないか――と思ったんです」

京浜急行電鉄(京急)に話を持ち掛けると、乗り気で対応してくれ、さらに監修も申し出てくれた。こうして、いまだかつてない鉄道カラオケの企画が本格始動した。

●こだわりのコンテンツ

 2015年夏にスタートした鉄道カラオケ企画。当初の計画では「テイチクのコンテンツにテロップをつければすぐにできる。忘年会需要で繁忙期である年末にスタートできるのでは」──と考えていた。

 しかし実際に第1弾の「京急川崎~京急蒲田」「上大岡出発」「三崎口~三浦海岸」が配信されたのは16年4月29日にまでずれ込んだ。時間がかかった理由は「こだわりが大きくなっていったこと」。鉄道好きのテイチクの担当者と京急の担当者によって、コンテンツが本格的になっていった。

 「ニッチなところに向けてコンテンツを作る以上、ファンに『分かってない』と思われるわけにはいかない。セグメントがはっきりしているものほど、油断してはいけないんです」

 電車のアナウンスを100%忠実に再現すると、“何も発言しない”区間が生まれてしまう。「シュールで面白いかもしれないし、鉄道ファンに一定の需要はあるかもしれないけれど、一緒にいる人にとってつまらなくなってしまうかもしれない」――そう考え、エクシングの企画チームは車掌や運転士のせりふを追加した。

 その結果、当初の案は電車のアナウンスの“実際のルール”とわずかに食い違うものになっていた。「この言葉はこのタイミングでは言わない」「この場合はこういう言い回しはしない」という細かな部分を、テイチクと京急の担当者が修正していった。原稿の修正は、音声収録の現場まで行われたという。

 その一方で、エクシングのカラオケコンテンツ作りのノウハウが生かされている部分もある。“長さ”はその1つ。全員が聴いていて盛り上がれるように、鉄道カラオケでは1曲5分前後で統一している。「これくらいの長さであれば、ひと盛り上がりして終わる。ネタとしても丁度良い長さです」と伊藤さんは語る。

 さらに、JOYSOUNDには「うたスキ動画」という人気システムがある。カラオケのボックス内に設置してある専用カメラで、歌っている姿を撮影することができ、その動画をWebサイトに公開したり、その動画を気に入ったユーザーがカラオケルームで再生し、一緒に歌ったりすることもできる――というものだ。

 鉄道カラオケは、この「うたスキ動画」との親和性も高い。ほかのユーザーが車掌、運転士として参加しやすいよう、あえて一方のパートのみのアナウンスを担当する動画も公開されているという。だれかと一緒にカラオケに行かなくても、全国の鉄道ファンと動画を通じたコラボレーションを楽しむことができるというのだ。

 「忠実にアナウンスをしてもいいし、自分の会社名や友人間で分かる小ネタを織り込んでもいい。『カラオケでこんなこともできるんだな』と楽しんでもらいたいですね」

 キワモノに見える鉄道カラオケだが、これまでのサービスや既存の人気サービスで培った経験の上に生まれているのだ。

●企画を通すポイントは“誰が見ても面白さが分かる”

 鉄道カラオケの利用者の反応は――というと、再生数は同時期に配信した楽曲の中でも上位に入る“好成績”。特に第1弾の京急は反応がよいのだという。最繁忙期に当たる年末にリリースはできなかったが、京急が出したプレスリリースや、鉄道好きも集まる「ニコニコ超会議」での告知が効果的で、ピンポイントにターゲット層に周知することに成功した。

 当初目標に掲げていた「カラオケに来ない層を呼び寄せる」ことに成功したのか――というと、それはまだ分析中。カラオケの仕組み上、「最近来ていなかった・足が遠のいていた人」や、「鉄道カラオケを歌っている人の年齢」などの具体的な数字を計測するのは難しい。

 「ただ、TwitterなどのSNSを見ると、普段カラオケの話題を出していないようなユーザーにも届いている印象があります」

 まだトライアル期間ではあるが、好調な鉄道カラオケ。それにしても、ここまでのピンポイントでニッチな企画、社内での反対はなかったのだろうか。

 「社内では『ニッチだなー!』という反応はありましたが、『だからダメ』ではなく『、可能性があるのであれば、挑戦してみよう』という感じでした。ただ、企画の説明は『誰が見ても、面白さが分かる』を意識していましたね」

 鉄道カラオケは今までにないコンテンツのため、言葉で説明しても分かりにくい。それを伝えるために、自分で映像を編集しテロップを付けたデモを作成してプレゼンした。

 「企画を考える側は熱い思いがあるので、“思い中心”のプレゼンになりがち。でもそうした賭ける思いよりも、“どういったものになるのか”をきちんと説明することが重要。そのためには、体感できるプロトタイプを作るのが一番強いんです」

 世代やリテラシーや“常識”が異なると、いくら仕様書や企画書を分厚くしても、響かない可能性が高い。しかし、実際に触れるデモやムックを用意すれば面白さが伝わる――と伊藤さんは言う。

 若手が企画プレゼンの際に意識したほうがいいことについて、さらに聞いてみた。

 「『取りあえずお試しでやってみましょう!』と企画提案する人が多い。でも、全部仮説状態で提案する前に、やれることはもっといっぱいあるはず」

 ユーザーのニーズについての仮説も「ネットで話題になっています」では弱い。自社サービスや自社ログから分析したデータを使って、「自社ユーザーにこれだけのニーズがある!」ということが分かるようなデータを出すことで、ぐっと企画が通りやすくなると伊藤さんはアドバイスする。

 「それから、新規サービスやコンテンツの立ち上げにはリスクが伴います。なんでも新しく“お試し”で立ち上げるのではなく『既存コンテンツの活用で可能ではないか』という視点を持ち、会社にとってのギャンブル性を減らした提案ができるといいですね」

 鉄道カラオケでは、配信するコンテンツを減らす“スモールスタート”と、ロイヤリティー(使用料)などを調整することで、金銭的な面でのリスクを抑えたのだという。

 「鉄道カラオケのような新しいコンテンツを通して、もっと多くのお客様にカラオケの楽しさを知ってもらえるようにJOYSOUNDの魅力・楽しみ方をしっかりと伝えて、カラオケマーケット全体を盛り上げて行きたい。鉄道カラオケは、最初抵抗があるかもしれない。でも、歌っているうちにみなさんノリノリになってきます。ちょっと変なカラオケをカンフル剤のように使って、新しい楽しみ方を見つけていただければ」

 今後は、第1弾・第2弾の反響を見ながら展開していく。

(青柳美帆子)

最終更新:9/28(水) 14:37

ITmedia ビジネスオンライン

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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