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JR収益増の秘策「JRデスティネーションキャンペーン」に新たな展開?

ITmedia ビジネスオンライン 9/30(金) 6:31配信

●デスティネーションキャンペーンの効果

 「JRデスティネーションキャンペーン」は、JR旅客会社と旅行業界、対象地域の自治体と観光業者などが一体となって実施する観光振興の取り組みだ。現在は年に4回、四季に合わせて実施され、対象地域の観光集客に大きな成果をもたらす。

【最近のデスティネーションキャンペーンの特長は?】

 例えば、JR西日本が2013年に発表した「広島県デスティネーションキャンペーン成果報告書」によると、同年7月1日~9月30日の開催期間中に、主な観光施設の利用者数は前年同時期より約33万人の増加。対前年比112.9%となった。デスティネーションキャンペーンをきっかけに新規開催された14のイベントはのべ約40万人を集客した。既存イベント、宿泊施設、新幹線、在来線、二次交通の利用者もすべて増加。対前年比で1~20%増となった。

 2014年9月~12月の和歌山デスティネーションキャンペーンでは、台風の影響があったにもかかわらず、JR関連旅行商品は前年比127%の成績、これはJR西日本だけの数値で、内訳は個人型商品が115%アップ、団体型商品が163%アップ。特に団体旅行が効いた。

 期間限定の大型キャンペーンが終われば、揺り戻しのように集客は下がる。しかし、余韻は残っている。福島民報が9月2日に報じた記事によると、福島県は2015年4月~6月まで開催された「ふくしまデスティネーションキャンペーン」の後継事業として、翌年同時期、2016年4月から6月まで「アフターDC(デスティネーションキャンペーン)」を開催した。観光客入り込み数は前年同期より約24万人の減少、対前年比で1.8%少なかった。

 しかし、この数字はDC前の2014年の実績より約98万人も多い。アフターDCはJRが大きくかかわらないから厳しい結果になって当たり前。今年の結果は地元が取り組んだアフターDCの成果だ。旅行市場における福島の認知度向上、観光需要の底上げになったと考えていい。

 もしかしたら、観光客のほとんどがJRデスティネーションキャンペーンという名前そのものを意識していないかもしれない。現在、7月1日~9月30日は「青森県・函館デスティネーションキャンペーン」の真っ最中だ。キャッチフレーズは「ひと旅 ふた旅、めぐる旅。青森・函館」である。夏休みから現在にかけて、この地域を旅した人はこのキャンペーン名を認識していただろうか。

 経済効果の高いキャンペーンの言葉自体は話題になっていない。ネットスラングとして、ヤマザキ春のパンまつり、花王ヘアケアまつり、東映まんがまつりは「日本の三大祭り」と呼ばれている。そこまでいかないとしてもJRデスティネーションキャンペーンだってそれなりの影響力はある。あと2つ“キャンペーン”をくっつけて三大にしたい。何かいい相手はいないものか。

 旅立つきっかけはさまざまだ。その中で「デスティネーションキャンペーンだから行く」という人は少ない。よほど旅行好きで「デスティネーションキャンペーンの地域に行くとおトクでおもしろいことがある」と認知している人くらいだろう。

 JRグループがかかわっているから、もちろんJRの駅にはポスターがある。TVCMも実施される。旅行会社にはチラシもある。窓口でオススメされたかもしれない。そうした個々の観光地の宣伝やイベント情報をキャッチして、何となく「青森県と函館あたりがおもしろそう」と思わせている。

 鉄道ファンなら、先週末に運行された青森発弘前行の「SL銀河青函DC号」や、7月と9月に山形県の酒田駅や秋田県の湯沢駅と青森駅間で運行された「583系青函DC号」、五能線の「リゾートしらかみ蜃気楼号」に興味があったかもしれない。でも、それぞれの列車に関心を持ったわけで、列車名の由来となったデスティネーションキャンペーンだから旅に出たわけではない。多くの旅行者がデスティネーションキャンペーンの恩恵を受けていて、恐らくデスティネーションキャンペーンを認識していない。現地に行くと、そう書いたノボリが並んでるなあ、とか、新しいゆるキャラのタスキにキャンペーンって書いてあるなあ、という印象を持つくらいだろう。

 それではデスティネーションキャンペーンは失敗かと言えば、数字が示すように大成功である。デスティネーションキャンペーンは、名を捨てて実を取る施策と言っていい。関係者が一致団結して頑張るためのキーワードだ。

●発祥は1978年度「きらめく紀州路」国鉄の増収策だった

 成功しているにもかかわらず印象の薄いデスティネーションキャンペーンだけど、国鉄時代から始まっており歴史は古い。最初の開催地は和歌山県で、1978年11月から翌年3月までの半年間。キャッチフレーズは「きらめく紀州路」だった。

 当時、国鉄は増収策を模索していた。1964年に単年度赤字となり、1966年には繰越利益も取り崩し、累積赤字を増やし始めた。1976年と1977年に運賃の50%値上げを実施。1978年以降は毎年の運賃値上げという事態になった。

 ちょうど自家用車やトラックが普及、道路も整備されて、旅行客の鉄道離れが始まった。国鉄職員はリストラに反発して順法闘争を始め、迷惑の極みに達した通勤客が暴動を起こす始末。そんな中、国鉄の労働組合は1975年にスト権ストを強行。庶民を苦しめる運賃値上げの批判と併せて、マスコミの国鉄叩きがエスカレートしていた。

 国鉄はイメージアップと増収が緊急課題となった。しかし公共企業体ゆえに副業は禁止されており、本業の旅客運賃収入を増やすしかない。そこに少し追い風が吹いた。1976年の蒸気機関車廃止まで続いたSLブームと入れ替わりに、1977年からブルートレインブームが起きた。これはアマチュアカメラマンにとって、SLブーム、スーパーカーブームに続く撮影対象になった。

 1978年には鉄道趣味が盛り上がり、7月には宮脇俊三著「時刻表2万キロ」が話題となって日本ノンフィクション賞を受賞。10月のダイヤ改正で特急列車すべてにイラスト入りヘッドマークが入った。11月からは山口百恵の名曲で知られる「いい日旅立ち」キャンペーンが始まった。

 デスティネーションキャンペーンは、こうした時代背景を受けて、地域と一体となった国鉄増収策として始まった。翌年からもデスティネーションキャンペーンは開催地を変えて継続。ただし、期間と開催地は定まっていなかった。また、1986年度と1987年度は国鉄からJRへ分割民営化されたため中断している。1999年度から現在のような年4回の開催に固定された。JR各社のエリアを巡回するように、開催地はほぼ全国を網羅している。ただし、東京、埼玉、大阪は実施されていない。大都市は目的地と言うより出発地というイメージだろうか。また、JR路線がない沖縄県は対象になっていない。未開催だった栃木県、島根県、鳥取県は2018年度の開催予定だ。

 興味深いことに、2000年度から現在まで、冬は必ず京都市だ。キャッチフレーズの「冬の京の旅」も同じ。「冬の京の旅」は京都市観光協会が発案し、底冷えする京都の冬の観光活性化を目的に1967年から展開しているキャンペーンで、2016年1月~3月の実施で50回を迎えたという。

 JRのタイアップは1980年1月~3月が初で、それから20年ぶりに再開された2000年度から毎年のタイアップとなっている。全国の自治体の担当者としては、各地を公平に扱ってもらいたいだろうけれど、そもそも冬は観光旅行需要が落ち着く時期だ。JRにとっても、受験シーズンで修学旅行が落ち着く時期だ。増収効果のあるキャンペーンは京都が定番ということか。

●「鉄旅オブザイヤー」で一般認知度が高まるか?

 今後、デスティネーションキャンペーンの認知度は上がるかもしれない。旅行会社を対象に優秀な鉄道旅行企画を表彰する「鉄旅オブザイヤー」が、今年度から一般部門「ベストアマチュア賞」を創設したからだ。

 そもそも、鉄旅オブザイヤーとは何か。鉄旅オブザイヤーは2011年度に創設され、今年で6回目を迎える表彰だ。こちらも旅行業界を対象とした催しで、一般への認知はまだまだ。旅行会社が開催した鉄道関連のパックツアーを作品として評価し、優秀な10作品を表彰する。選考は鉄旅オブザイヤー実行委員会と外部審査員の採点による。外部審査員は旅行系雑誌の編集長、記者、鉄道カメラマン、歌手、鉄道好きなタレントなど。実は不肖ながら私も参加しており、本誌では毎年授賞式を紹介している。

・一円電車から6400キロ超えの弾丸ツアーまで 「鉄旅オブザイヤー2015」をおさらい
・企画力と実行力の祭典「鉄旅 OF THE YEAR 2014」の名作を見よ

 この鉄旅オブザイヤーが2016年度から「ベストアマチュア賞」を創設した。締め切りは10月19日。公式サイトから応募用Excelファイルを入手し、独自の鉄道企画旅行を記入。参考資料を添えて事務局へメールで送信する。最優秀作品について賞金5万円とJRグループからの記念品が提供される。

 今までは旅行業界内で閉じた印象だったけれど、これで鉄道ファンや旅行ファンの認知度が上がるはずだ。鉄道趣味界の表彰は模型制作や写真などが多く、乗り鉄向けコンテストはほとんどなかった。その意味でも画期的だ。

 ベストアマチュア賞の応募条件が「2017年のデスティネーションキャンペーン開催地を対象とした企画」となっている。これは、鉄旅オブザイヤーの後援にJR旅客グループ各社が名を連ねているからだろう。デスティネーションキャンペーンの開催地は毎年5月ごろに開催されるJR旅客グループ6社による共同宣伝協議会で、2年先までの開催地を決定する。ちなみに2017年の開催地は四国(4月1日~6月30日)、長野(7月1日~9月30日)、山口県(10月1日~12月31日)、京都市(1月1日~3月20日)。2018年は栃木県(4月1日~6月30日)、山陰(鳥取県・島根県 7月1日~9月30日)、愛知県(10月1日~12月31日)、京都市(1月1日~3月20日)に決まった。

 対象地域はデスティネーションキャンペーン協議会を設立し、キャンペーン告知Webサイトでイベントなどの取り組みを発信しているから、旅行企画の参考になるだろう。また、過去の受賞作品から「個人旅行では難しいけれど、旅行会社ならこんなこともできる」という内容を参考にしてほしい。鉄道ファンだけではなく、修学旅行や社員旅行の企画担当者にも参考になると思う。また、自分が行きたい旅というだけではなく、多くの人々に参加してもらいたい旅、という視点で、趣味を超えた発見もできそうだ。

 デスティネーションキャンペーンは、国内旅行を取り扱う業界では定番だ。しかし、旅行業ではなくても知っておきたいキーワードと言える。このキャンペーンは年に4回、観光旅行動向を大きく揺さぶる。観光客の動きが変わる。旅は衣・食・住(泊)の消費を伴う。地域活性化ビジネスのヒントも見つかるかもしれない。

(杉山淳一)

最終更新:9/30(金) 6:31

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TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。