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日本の「顧客主義」は「ボンドカー」のアストンマーチンを救えるのか

ITmedia ビジネスオンライン 9/30(金) 7:36配信

 映画『007』シリーズで、主人公のジェームズ・ボンドが愛用するクルマ「ボンドカー」として知られるが、年間販売台数は7000台以下と非常に少なく、過去に何度も倒産危機を乗り越えてきた自動車メーカーがある。

【ハイパーカー「AM-RB 001」】

 英国の高級スポーツカーブランド「アストンマーチン」だ。

 2016年3月、ジュネーブ・モーターショーで、アストンマーチンが最新モデル「DB11」を発表した。このDBシリーズは、同ブランドのアイコンとも言える「ボンドカー」のデザインを受け継ぐものだ。

 この発表はひときわ注目を浴びた。なぜなら、2014年にアストンマーチンのCEOに就任したアンディ・パーマー氏が進める「変革」の下で発表される最初のモデルだからだ。パーマー氏は、日産自動車の元副社長としてカルロス・ゴーンCEOの右腕と言われた人物であり、日本に長年暮らした経験を持つ。

 アストンマーチンは103年の歴史の中で、7度も倒産の危機に陥りながら生き延びてきた。そして今、さらに次の100年を生き延びるために日本とゆかりのあるCEOがアストンマーチンを変えるべく変革に乗り出している。

 アストンマーチンというブランドには、一体どんな魅力があるのか。これまで投資家や愛好家を惹(ひ)きつけ、倒産を免れて、高級スポーツカーのブランドを維持することができた背景には何があるのだろうか。

●アストンマーチンの魅力

 アストンマーチンの最大の魅力は、創業1913年という歴史と、英国のクラフツマンシップを集約した格式あるブランドにある。フェラーリのようなイタリア車の派手さはないが、落ち着いた伝統を感じさせるエレガンスがある。

 そうした格式のあるアストンマーチンは、英国人にとって特別な存在となっている。それは、ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式で使われた事実からも分かる。ウィリアム王子がキャサリン妃を乗せて運転していたのが、非常にクラシックなアストンマーチンのDB6(1965年から70年製造モデル)だった。ちなみに、そのクルマはチャールズ皇太子が所有しているものだ。

 またアストンマーチンには、他社にはない強力なブランドイメージがある。その理由は、何といっても、映画『007』シリーズとの関係だ。同社のオーナーだったデイビッド・ブラウン氏が尽力して、映画『007』で「スパイが愛用する、クールでスタイリッシュなクルマ」という、シンプルかつ強烈なブランドイメージを世界中に浸透させることに成功した。そのイメージは現在でも健在だ。

 こうした伝統や格式、ボンドカーに代表されるデザイン性が、人々を惹きつけてきた。

 過去に遡(さかのぼ)ると、アストンマーチンは、投資家が死亡したり、破産して経営難に陥ったり、世界的な経済危機に巻き込まれて倒産寸前に追い込まれたこともあった。何度も資金難で倒産危機に直面してきた。

 ただそのたびに、ブランドの魅力で投資を呼び込んできた。アストンマーチンと「恋に落ちた」ために投資を決めたという起業家もいるし、実際にアストンマーチンに乗ってその魅力から投資を決めた投資家もいた。その後も個人の投資家やファンドなどのおかげで、アストンマーチンは危機的状況にも消滅せずに1世紀以上にわたって高級スポーツカーのイメージを維持し、ブランドを存続させてきた。

●顧客をきちんと意識することが大事

 近年のアストンマーチンは、販売数の減少からあまり業績が芳しくない。そんな中の2014年10月、パーマー氏が鳴り物入りで同社のCEOに就任した。

 パーマー氏はアストンマーチンの今後100年を見据えている。

 同氏は日産時代、日本に12年滞在していた経験があり、ラグジュアリーブランドに必要な顧客対応を日本で学んだと語っている。日本が得意とする、顧客を満足させるホスピタリティ、つまり顧客主義である。クルマのデザインにおいても、顧客をきちんと意識することが大事だと述べている。

 そんな日本ともゆかりのあるパーマー氏が、同社をどう救済していくのかが今、注目されている。

 実は、アストンマーチンの魅力は、伝統や格式、デザイン性のほかにもある。スーパーカー並みのスペックを備えていることだ。だがほかのメーカーとは違い、モータースポーツでの実績がないため、マシンとしての実力は意外と知られていなかった。

 そこで同社は2016年7月に、F1チームのレッドブル・レーシングと技術提供し、公道走行可能なバージョンとサーキット専用の2タイプのハイパーカーを製作することを発表した。あまり浸透していないマシンとしての“実力”を主張していくためだ。

 パーマー氏はこの新たな試みを「最高レベルのロードカーとレーシングカーを融合する究極のコラボレーション」と表現している。その革新的なハイパーカー「AM-RB 001」は150台ほど製造予定で、業界内で攻めの姿勢に転じていると評されている。

●日本仕込みのパーマー氏の手腕

 また、アストンマーチンは、既存の顧客以外にも積極的にアピールをしようとしている。同社のクルマを身近に感じてもらうべく、2016年9月には、ロンドン中心街のメイフェア地区に、世界初となるブランド・ストアをオープンした。そのショップでは、アストンマーチンの世界観を投影したラグジュアリーでデザイン性に富んだパートナーブランドの製品が販売されている。

 ちなみに、同社の販売台数は、米国に次ぎ日本が2番目に多い。しかし、まだまだ認知度が足りない日本で、今後どのようにブランドが展開していくのか興味深いところだ。

 日本で培った顧客主義をアストンマーチンの今後100年にどう生かすのか。不死身のジェームズ・ボンドを生かすも殺すも、日本仕込みのパーマー氏の手腕にかかっているようだ。

(藤井薫)

最終更新:9/30(金) 7:36

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